あつの気持ち

容姿端麗、頭も良くて、運動神経もいい、紺野愛梨こんのあいりに何一つ勝てるとこなんてない。


だから、余計にイライラする。


私は、クッキーを食べる。


あつは、ずっと下を向いていた。


「ぅんっ」


クッキーを唇で挟んで、あつに食べろと言った。


昔、二人でTVでお笑い芸人さんがポッキーゲームをやっているのを思い出した。


「えっ?」


「ぅんっ」


「わかった。」


あつは、クッキーの端を噛った。


「キスしよっか?」


「はっ?何言ってんの?」


クッキーをバリバリ食べる。


「照れてんの?」


「べ、別に…」


「何なら、もっと先もいいよ」


「ふざけてるだろ?」


「ふざけてないよ」


「お、俺が、紺野さんに好かれないのわかっててやってんだろ?」


バチン


あつの、頬を平手打ちした。


あつは、私を睨み付けた。


「ごめん。あつが、一番嫌な事したね」


あつをいつもみたいに抱き締めようとしたけど、あつは拒んだ。


芽唯めい、俺だって男なんだよ。その胸に抱き締められたらどうなるかわかんないよ」


「いつもしてあげてたでしょ?」


「小さな頃とは、違うよ」


「小さな頃だけじゃないじゃん。最近だって」


「そうだけど、ここ最近。胸が大きくなってるだろ?だから…」


「私でしたりするの?」


「なわけねーだろ?」


「じゃあ、何で目そらすの?」


あつは、泣き出した。


「俺、マジで。紺野さんが好きなんだよ。花村が付き合ってないって言うから…。夏休みあけたら、気持ち言いたいんだよ。だから、芽唯が冗談で俺で遊んでくるの何か悲しくて。俺の恋、応援してくれるって信じてたから」


その姿を見て、私も泣いていた。


何で、苦しいのかな?


あつは、小さな頃から私のものだって思い込んでいたんだ。


男女の友情は、本当にないのかな?


あつとキスしたら、友情は終わってしまう?


「いいよ」   


「えっ?」


「キスしていいよ」


涙を拭いながら、あつが言った。


「何で?」


「佐伯の初めての人になれなかったから、俺の初めてになりたいだけだろ?」


図星だったみたいで、胸が槍を突き刺されたみたいに痛くなった。


私は、佐伯君の初めての相手になりたかったんだ。


自分が、初めてだから嫌だったんだ。


「あつ、ごめん。もう、いいから」


「ふざけんなよ」


私は、床に押し倒された。


「ずっと、ずっと、芽唯が好きだった。だけど、その気持ちよりもっともっと好きな人を見つけた。俺は、紺野さんが好きなんだよ。なのに、何で、グチャグチャにかき回すんだよ」


力強いあつに手首を掴まれて、涙が流れてきた。


「だったら、好きにしなよ」


私は、涙目であつを見つめた。


「本当は、したいんでしょ?男子は、そればっかじゃん。誰だっていいんだよ。みんな、下半身が猿みたいな連中じゃん。そん中にいる、あつだってそうでしょ?」


「違う」


あつは、起き上がった。


体育座りをして泣いてる。


「母さんが、兄ちゃんの家庭教師としてんの見たんだ。」


「いつ?」


「中一にはいってすぐ」


「初めて聞いたよ」


「誰にも言わないつもりだったから」


「それで…」


あつは、膝をギュッと強く握る。


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