初キスと佐伯君

「あつ、しっかりしなさいよ」


「うん、わかった」


「早く、帰るよ」


項垂れてるあつを、あつの家に連れて帰った。


芽唯めい、もう殴らないで」


あつは、私に抱きついてきた。


あー。


やっぱりあつにとって私はお母さんなんだ。


「悪い事しなかったら、殴らないから」


「よかった。よしよしして」  


「よしよし、よしよし」


「ありがとう」


「あつ、私達のこれはね。恋のそれとは違うよ。」


「えっ?」


私は、あつの両頬に手をあてる。


「あつはね、私にお母さんを重ねてるだけだよ。」


「違うよ、違うよ、芽唯」


「違わないよ。だけど、気持ちには答えてあげる。」


「気持ち?」


「約束したでしょ?」


私は、あつにキスをした。


「連動した?」


「しない」


「やっぱり、あつは私を好きじゃないんだよ。私は、あつのお母さんでいてあげるから…。他は、紺野さんとしなよ」


「ごめんね。芽唯」


「わかってたから、通過地点だって。」


「イニシエーションってやつ?」


「うん。あつにとって、私はただのそれだから…」


「もう一度だけ、キスしていい?」


「うん、いいよ」


あつは、私に何度もキスを繰り返してきた。


「もっと、深くしたらドキドキするかも」


あつは、もっと深くキスをしてきた。


「あつ、もうやめて。何もならないよ」


「ならない」


また、体育座りをした。


「そろで、いいんだよ。あつ」


「芽唯」


「私は、もう一度、佐伯君に気持ちをぶつけるから。私は、あつじゃ駄目なの。ごめんね。」


「俺も、ごめんね。」


そう言って、あつの家を後にした。




次の日、卒業式は無事に終わった。


小野田先生は、普通だった。


「原口」


「佐伯君」


「話ってなに?」


「私ね、佐伯君が好きなの」


「昨日も言ってたよね」


「うん、返事が欲しい」


佐伯君は、少し考えた。


「俺、原口を好きになれるかわからない。俺、好きって気持ちわかんないみたいだ。」


「紺野さん好きでしょ?昨日泣いてたじゃん。」


「そうだけど、昨日原口の顔見た時に違うって気づいた。俺は、ただ紺野が可愛いってだけだって。やりたいってだけだって…。」


「泣いてたのは?」


「わかんない、何でかな?」


「先生に酷いことをした事、悪いと思ってないの?」


「悪いって何?俺は、あいつらを失いたくない。」


「佐伯君は、愛された事がないんだね。」


「愛してるって、何?」


「やっぱり、そうなんだね」


私は、佐伯君の両頬に手をあてた。


「原口、何で泣いてるの?」


「教えてあげるよ。」


「何を?」


「佐伯君がした悪い事も、愛するって事も教えてあげるよ」


私は、佐伯君を抱き締めた。



5年後ー


「芽唯、先生から葉書がきた。」


「見せて」


【佐伯君の事を何も知らなかった。先生として私は駄目でしたね。佐伯君が、新田にった君の言いなりになっていた理由はわかりました。私は、少しずつ許すから…。原口さんと幸せになりなさい。】


「ゆっくり、許してもらえるかな?」


「大丈夫だよ。勇二」


勇二は、放任主義の両親に育てられた。


だから、いいことと悪いことの区別がつかなかった。


私は、この5年間をかけて勇二に教えた。


体を求められて答える事が愛じゃない事、誰かの言う事を聞く事が愛じゃない事、小野田先生にした事は酷い事、勇二は女の子を傷つけるものをもっている事…。


勇二は、全てを理解して、やっと5年経ち、小野田先生に手紙を書いた。


「芽唯、俺、酷い人間だったよな」


「ううん。勇二は、教えられなかっただけだよ。」


「芽唯、ごめんね。」


きっと、私は、勇二にとっての通過地点なのかもしれない。


それでも、勇二がいらないって言うまで傍にいてあげるから


「芽唯、俺を捨てないで」


「わかってる」


勇二は、私に優しいキスをした。


私は、やっぱり勇二を愛してる。


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