第20話 一年の経て、旅立ちの時
一年の月日が経った。
―――
手の平から放たれた、光の蛇が爆散すると共に、周囲を白く染め上げる。
「畳み掛ける」
《蛇王蛇法-剣術・蛇道:上級-回避錬術-怪力》
―――
「
《偽詐術策-聡明-会心》
―――天級雷魔術:
空から一筋の雷が降り、その巨体を
その怪物は最後まで声を出すことすら許されず、後方へと倒れ、息絶えた。
「中々様になってきたのぉ、ライトよ」
怪物とライトの戦闘を見守っていたヨルが、イグニティに付いた血を振り払い、
「まあ、この一年修行しましたからね。強くなってないと僕が困ります」
先程、ライトが倒したのはブラックオーガ、オーガの上位個体の一種である。
「蛇剣舞も魔術もかなりの威力が出ていたぞ。初めの目眩ましさえなければ、完璧なんじゃがの」
「嫌ですよ。不意を突くから、こんなに簡単に倒せているんです。正面からは戦いません」
ライトは、この一年で色々と学び、鍛えた。
それの代表例が、先程の蛇剣舞と魔術だ。
蛇剣舞は、蛇王蛇法とヨルが編み出した舞うような剣術を合わせた、ヨル考案の戦闘術だ。
体格が似ていることと、高い身体能力のお蔭で直ぐにライトは習得した。
もう一つの魔術だが、魔術にはスキルが必要ない、技術だからだ。
詠唱を覚え、発動に必要な魔力さえあれば、だれにでも扱える。
まあその必要な魔力が馬鹿にならないのだが。
全体的に見ても、魔法の才能皆無のライトには、うってつけの技術だ。
こちらも記憶力のあるライトは余裕で習得出来た。
他にも習得したりしたのだが、主にこの二つと蛇王蛇法の特別な術の
正直に言うと、今のライトならば、あの
しかし、ライト本人は、そこまでの自信を持てていない為、今でも不意打ち
というか、覚悟を決めた時からもう曲げる気が無くなったというのが正解かもしれない。
「もう少し、自信を持っても
「ヨルは、いつもそう言う。そこまでじゃまだ、無いんですよ」
一年経っても相変わらずの自己評価の低さである。
「今日はここまでにしましょう。明日は、旅立ちの日なんですから」
「うむ、ハジノスへと戻り、準備を済ませるぞ」
一年の修行が終わったら、ハジノスを出て、契約の下、力を誇示する旅に出ると、ライトはヨルと話し合って決めた。
あの満月の夜――の翌日に。
その旅立ちの日が、明日だ。
お世話になった人達には伝えており、明日の早朝に挨拶をしてから予定だ。
その為前日、つまり今日の内に準備をしておく算段になっている。
―――収納・
慣れた様子でブラックオーガの死体を異空間へと仕舞う。
「ヨル」
「ほっ!――やはり、ここは落ち着くのぉ>
ライトの呼びかけに応じて、ヨルが小さな蛇に変わり、ライトのローブのフードに納まる。
これも、この一年で普通になったようだ。
「ヨル、お昼はどうしましょうか?」
<今日はサンドイッチの気分じゃ!もしくは……ライトの精でもよいぞ?>
「まっまたですか?……いや駄目です!今日はやることいっぱいですから、サンドイッチです」
<お?それは、やることが無ければ良いということかえ?>
「まっまぁ……否定はしません……」
この一年で色々と足りなかった知識をヨルから身に着けたライト。
当然その中に性知識もあったのだが、ライトは余計な知識も教えられたな、と後悔している。
そのせいで妙にヨルを意識してしまうことが、増えてしまったからだ。
身体の関係というものを理解していなかったから、気にしていなかった行為も気にするようになってしまった。
<それは、良いことを聞いたのう>
「はぁ~……」
この一年の間に既に何度も求められて、その度抵抗を試みるが結局のところ、押し倒されて終わる。
身体的・立場的な力の差もあるが、ライトは意外と押しに弱いのだ。
一度関係を持った相手のお願いは中々断れないタイプである。
というか、婚約のことを盾にされるとライトは抵抗できなかった。
<無駄話は此処までに、さあ、ハジノスに戻るぞっ!!>
(……僕も、切り替えていこうか)
楽しそうなヨルの声に、まあ意外とこんなのも悪くないな、と思うライトであった。
◆◇◆
ハジノスへと戻って来た、ライトたち。
時は夜、そして居るのは、
「ライトの成長と旅立ちを祝って、乾杯!!」
『乾杯ッ!!!』
緑円亭の食堂。
普段は既に締め切り、人が居ない筈だが今夜は違った。
明かりが灯り、人で賑わっていた、と言ってもそれほど人が居る訳でも無い。
理由は単純、ライトの交友関係が狭いからである。
シア、マルク、ミリス、ポロン、ファイス、ナイア、トア、
因みにミリスは、シアの母でマルクの妻、緑円亭の会計係だ。
机には、マルクの作った豪華絢爛な料理たちと複数の飲み物(主に酒)が並んでいる。
各々が、料理と会話を楽しんでいる。
「う~む、美味しい」
<我も食べたいのう>
(僕の皿からこっそり転移させて食べれば良いのでは?)
<その手があったか!流石じゃライト!>
それは、ライトとヨルも例外ではない。
というか、ライトを祝う会の筈であり、
そんな、黙々と食べているライトに、シアが近付いてくる。
「ライトさん」
「ん、シアさん?何ですか?」
「明日、ライトさんは、この街を、ハジノスを旅立っちゃうんですよね?」
「まあ、そうですね……」
いつになく真剣な雰囲気のシアに、ライトは少しだけ驚きながらも、真っ直ぐ目を見据える、同時に持っていた料理を机に置いた。
するとシアは、手を差し出してきた。
その手の上には、
「ネックレス?」
十字架に蛇が巻き付いたような装飾の、銀のネックレスがあった。
「はい、ライトさんの旅の安全を祈って作ったお守りです」
「もしかして、シアさんの手作りですか?」
「お恥ずかしながら……ライトさんに旅立ちの話を聞いてから、頑張って考えて、ポロンさんに協力してもらって作ったんです」
シアは、僅か頬を赤らめ、目を逸らしてそう言って来た。
そして、話の中に出てきた名前の人物が方を向くと、ひらひらと手を振られた。
口元の笑みと合わさり、作戦成功とでも言われたような気分である。
ライトは、取り敢えずポロンを思考から追い出し、シアへと向き直る。
「私は、ライトさんをずっと見て来ました。勝手ながら、兄のように思っていたところもあります。ライトさんが、行ってしまうのは正直に言って寂しいです。けど、ライトさんにも必要なことだと理解しています」
「シアさん……」
「だから、私も頑張るので、ライトさんも頑張って下さい!絶対、元気な姿でまたこの街に戻って来て下さい!」
綺麗な笑みを浮かべて、そう告げるシアに、ライトは胸の内が温かくなるのを感じた。
ライトは、ゆっくりとシアに近付き、
「わひゃぁ!?ら、ライトさんっ!?///」
「ありがとう……」
<ヒュー、大胆じゃのう>
(五月蠅いですよ、ヨル。黙って料理食べてて下さい)
抱きしめた。
「…僕は、また元気な姿でシアさんの、いや、シアの前に戻って来るよ、絶対に」
「ライトさん……」
ライトにとって、意外とシアという存在は大きかった。
冒険者として限界ギリギリの辛い日々を過ごす中、毎日「おはようございます」や「お疲れ様です」と言ってくれるシアは、「凄いですね!」や「頑張って下さい!」と慕ってくれるシアは、心の支えのような存在だった。
その分、今の言葉と贈り物は、とても嬉しかった。
「……あっ――っとと、済みません。突然……///」
「いえ、あの…嬉しかったです……///」
「それは……どうも……」
抱きしめている最中、周囲から生暖かい視線で見られていることに気付いたライトは、シアから離れた。
顔が赤くなっているのは、シアもライトもである。
「取り敢えずシアさんっ、そのネックレス、着けてもらえます、か?」
「はいっ、いいですよ!」
恥ずかしさから互いに目を合わせないようにしながらも、シアは自身の作ったネックレスをライトの首にかけた。
「どうです?似合ってますか?」
「はい!似合ってますよ!」
「……ところで、何故蛇の装飾を?」
「あれ?ライトさん、蛇好きなんじゃないんですか?そのコートだって、後ろに蛇が描かれてますし、手袋も蛇のですから、てっきりそうかと思ったんですけど、違いました?」
(そういうことですか……)
この一年間、ライトはヨルから貰った服を着続けた。
毎日手入れを欠かさず綺麗にして、理由は単純、性能が良いからである。
傍から見れば、それが蛇が好きだからに見えたのだろう。
だが、
(別に蛇が特段好きなわけではないんですよね)
<なぬっ!?>
ライトは、別に蛇が特段好きではない。
嫌いな訳でもない、好きか嫌いどちらかと聞かれれば、迷わずに好きとは言えるだろう。
けれど、一番ではない。
因みにライトの一番は兎である。
<我が伴侶でありながら、蛇が好きではないというのか!?>
(いや、好きではありますよ。ヨルとか大好きですし)
<そ、そうか……>
(でも、自分でアクセサリーを買うとすれば、蛇は選びません。だって、何かヤバい奴に見られそうじゃないですか)
「いえ、違いませんよ。僕は、蛇が好きですから」
「良かったです……間違ったのかと思いました……」
ライトの中で、蛇のアクセサリーというのは悪者が着けているイメージだ。
何故なら、この世界には『蛇の王の伝説』があるからだ。
蛇の王は神を喰らう、神々の信仰が一般的なミルフィリアでは、蛇はあまり良いイメージを持たれていない。
ライトは無神論者ではないが、別に神を信仰している訳でも無い、蛇のイメージだって全然気にしていない。
だが、あくまで一般的なイメージが悪い為、第一印象が悪くなるのではとは思っている。
しかし、心の籠った贈り物にケチは死んでも付けない。
好きではあるし実際に嬉しいので、ライトはシアに言葉を選んで返しておいた。
「さて、いつまでもこうしてないで、料理食べましょうか、折角のおやっさんが作ってくれた料理が冷めてしまいますから」
「はい、ライトさん!」
その後は、他の者とも会話をし、祝いの言葉や物を貰ったりした。
楽し気な宴会と共に、夜は更けて行く。
◆◇◆
まだ、陽が昇り始める前、目的の場所へと続く道の前に立つ。
ライトの顔に、陰りは無い。
「遂にですか」
<旅立つ前に、一年成果を見るとするか>
懐から、"紫色"のギルドカードを取り出すライト。
「分かりました――"ステータス"」
■=====================■
ライト・ミドガルズ 性別-男 年齢-17
種族-黒魔 ジョブ-策謀者
レベル-796 ランク-B
称号-『黒剛の王』
スキル-黒剛彩王,虚の理,蛇王蛇法
-杖術:天級,剣術・蛇道:上級
-偽詐術策,回避錬術,怪力,聡明,会心
加護-彩王の守護,蛇王の加護
状態-正常,契約
■=====================■
虚空に
「いや~一年で2つもランク上がりましたし、スキルも増えました、結構成長したと思います。レベル以外は……」
「う~む、何故こんなにもライトのレベルは上がらぬのだろうな?」
ライトはこの一年で、二つもランクを上げ、Bランク冒険者になった。
しかしながら、ヨルと修行し強くなり、新たなスキルを覚えども、何故かレベルはそこまで上がらず、未だにCランクの範囲である。
強さの上がり幅的に言えば、Aランク上位くらいまでレベルが上がってても可笑しくないのに、だ。
まあ、原因が不明?の為、ヨルは既に匙を投げた?かもしれない。
「でも、良いですよ。強くなってるんですから」
「そうじゃな。我が認めておるから、気にする必要は無い!」
「ふふっ、ありがとうございます、ヨル」
元気づけるように、告げてくるヨルに、ライトは頬が緩む。
少しの間、一年の成果を喜び合った。
一段落し、二人は道へと向き直る。
「さて、行きましょうか」
「そうじゃ――なっ!>
早朝の為、人が居ないから人型で話していたヨルが、ライトのフードに納まる。
そしてそのフードをライトは深く被り、ヨルが緩くライトの首に巻き付く。
首に掛かっていた十字架のネックレスが、その振動で揺れる。
<旅の始まりじゃな、ライト>
「はい、ヨル……目指すは、"迷宮都市ラビル"です!」
今此処に、誇示の旅は始まる。
The Beginning of The Journey
□■□■□
これにて『序章 始まりの契約』終了です。
ここまで読んで戴きありがとうございます。
そして、面白いと思って頂けたなら幸いです。
まだまだ物語は始まったばかり、これからも楽しんで頂けるように頑張りますので、応援やコメント等々をしてもらえますと、励みになると同時に作者が大変喜びます。
どうぞよろしくお願い致します。
これからの投稿は、12時台か14時台を予定しています。
最低週に一話、もっと投稿する予定ですが、頑張って行きます。
□■□■□
蛇王蛇法技録
スキル技録
魔法技録
天級雷魔術:
詠唱文=我求めるは雷、我が願いの下、敵を穿ち果てろ
語り部「いえー序章終了ー」
蛇の王「いや、棒読み凄いな。何があった」
語り部「何も無い、これからが本番だぜ。なんせまだ序章だったんだからな」
蛇の王「実は全部再編して合わせて、話数を少なくしようか迷ってたりもしたということは言わない方が良いか?実はこの話、1章の初めにする予定だったとか言わない方が良いか?」
語り部「うん、今全部言ったね。馬鹿なのかな?」
蛇の王「馬でも鹿でも馬鹿でもない、我は蛇だ」
語り部「……何で急にこんなになった?」
蛇の王「さあ?作者の気紛れじゃろ?」
語り部「五月蠅い!確かにそうだけど言うな!仕方ない――皆様、これからもこのふざけた後書きと共に今作をよろしくお願いします!」
蛇の王「よろしくなのじゃぁ~」
語り部「はい、説教タイムね」
蛇の王「え?」
この後、蛇の王は足が痛くなるまで正座で説教をされたという。
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