第1章 迷宮都市と天羅の忌子

第21話 迷宮都市へ① Uランク冒険者





「…………」

<…………>


 と、いうことで、意気揚々とハジノスから出で立ち、迷宮都市ラビルへの一本道を歩み始めたライト達。

 ラビルへはかなりの距離がある、長々と歩き続けるだろうことは想像に容易い。

 既に一日経って――いない!



「ヨル、何か話をしましょう」

<良いぞ>

「そうですね……この世界の強者達について、って分かったりします?」



 歩き始めて"30分"、無言で歩行を続けるのは不可能と判断したライトは、ヨルと会話しながら歩くことにした。

 話題、世界の強者達=これから超えなけらばいけない壁達である。



<うむ!我が色々な奴らについて教えてやろう!>

(相変わらず、何処から仕入れている情報なんでしょうか?)



 一年の内にライトは、ヨルから様々なことを教えてもらった。

 その中には、人界三大国の情勢だったり、他界に関することだったりが、異様に細かくあったのだ。

 恐らく、一般には知られていないこと……知られてはいけないことまで。

 ライトには、その情報の真偽を確かめるすべが無かったが、多分本当なのだろうと思っていた。



(だって凄い生々しかったですし……アウトライル王家の方々の入浴時間を聞いて僕にどうしろっていうんですか……)



 ライトは、本当に何処から手に入れている情報なのか気になっている。

 だが、既に数回聞いているが、ヨルが教えてくれることは無かったのである。



(まあ、それなりの理由があるんでしょう。気にしないことにして今は話に集中しよう)

「先ずは、冒険者の頂点、Uランク冒険者の方々についてお願いします」

<承った!では最初に、Uランクが今現在何人居るか知っておるか?>

「15人ですよね?」



 流石のライトも冒険者の先輩の人数くらいは知っていた。



<うむそうじゃな、その内6人はお主に関連のある者達なのだが、それは知っとるか?>

「僕に関連?」



 ライトは直ぐには、思いつかず心当たりも無かった。

 しかし、少しの思考により気付くことが出来た。



「『八彩鉱王はっさいこうおう』の方々ですか?」

<正解じゃ、取り敢えずその6人に関しては、『八彩鉱王』の復習の時に回すぞ>

「分かりました」



 これより、ヨルの解説が始まる。



<残りの全員を教えても良いが、それじゃあ詰まらぬ。今回は八王抜きの9人の内4人紹介しよう。一人目、【解体屋】エッケル。神器"解体剣 スクラント"を扱う人族の男じゃ、二つ名もそこから来ている>

「解体剣……ですか」


<解体剣 スクラントは、刀身に触れたものを解体分解する神器じゃ。まあ、効果範囲は刀身のみ、他のUランクに比べれば雑魚じゃな。性格もゴミカスじゃし、人気も一番無い、会ったら殺して良いぞ>

「無茶なこと言わないで下さい」



 あっさりと強者を倒せとのたまうヨルに、ライトは付かれたように言葉を返す。



<そんな調子じゃ困るんじゃがな……まあよいか。二人目じゃ、【夢狩りの魔女レーヴ・マギサ】ミザリー・ナイトメア。神器"夢遊杖 ドリーマー"を扱う夢魔女王サキュバスクイーンの女じゃ、歳は2000を超えたグラマラスな体型で魔女っぽい服装をしている>


「また神器ですか」

<Uランクで神器を持っていない者はおらん、Uランクは一様いちように選ばれし者ということよ>

「頂点と言われるだけの理由があるって訳ですね……」



 ライトは、壁がどんどん高くなるのを感じ、少し気分が下がった。

 けれど、そこは白魔、それはそれで面白そうだと戦闘が楽しみになった、割と単純である。



<夢遊杖 ドリーマーは、使用者を中心に半径5㎞を領域とし、領域内の生物に超強力な幻覚を見せる能力を持つ神器じゃ。効果範囲もさることながら、見せる幻覚が普通ではないのだ。実体のある特殊な幻覚じゃ>

「実体がある?ですか、直ぐには想像できませんね」


<こればっかりは、目で身体で確かめなければ分からぬよ。さて説明に戻るぞ、ミザリーはエッケルと違って神器頼りの馬鹿ではない。巧みな一級品と呼べる魔法を使う。基本スタイルは、デバフ系の魔法をかけた後に、殺傷能力の高い闇魔法などを使う形だな。神器は本気の時しか使わん>

(僕の目指すスタイルに近いかもしれないな)



 ライトの目指すスタイルは邪道。

 常に先手を取り、相手を弱らせ、強力な技で畳み掛けるような戦闘を目指している。

 ミザリーとあって見たいと思う、ライトであった。



<では三人目、【運命術の王】ジェイストル。神器"奇跡書 ダイナシア"を扱うエルフの男じゃ、外面も内面もイケメンじゃぞ>

「会ったことも無いのにそんなこと言われても……」


<奇跡書 ダイナシアは、本来起こり得ない事象を引き寄せる能力を持つ、がしかし引き寄せる事象を指定できない。正に奇跡と呼べるものから災厄まで無作為に引き寄せる、それらは本質的には同じだからな>

「それだけ聞けば、扱いづらいというか、扱えなさそうですね?」


<確かに扱いづらいのう。だが、ジェイストルは、"運命術"という因果律干渉を可能とする術を使い、奇跡書が引き寄せる事象を自由に操作することが出来るのじゃ。それが二つ名の由来じゃな。実際には我ならもっと高度な運命術を使えるが、現代の者としては、恐らく頂点だろう>

「ふむふむ」



 さり気なく挟み込まれた自慢をライトは、指摘せず横へと流すことにした。



<奇跡書はその能力上、攻撃や周囲の被害が大きくなる為、こちらもまた本気の時しか使わぬようだ。他にも、エルフなだけあり魔法や弓も得意なようじゃ、多彩な攻撃手段も奴の強みじゃ。文句なしのUランクというところかのう>

「多彩な攻撃……」

(僕も自分で考えてみた方が良いのでしょうか?……それは、今の持つものをしっかり扱えるようにしてからですかね)



 ライトは、自分も多彩な攻撃手段を持っている方が良いだろうと判断し、これからの修行への決意を固めた。



<今回のUランク冒険者の解説の取りじゃ。四人目、【白鬼天刃ハッキテンジン】ニーアライカ>

「ッ!?ニーアライカさんですか……」



 ヨルが四人目のUランク冒険者の名を言うと、ライトの顔が少しだけ歪む。



<む、知っとるのかえ?>

「いえ、詳しくは知りません。けど、その名前は知っていますし、前に一度だけ顔を拝見したことがあります。僕も、白魔でしたから」



 そう言うライトの顔は、苦々にがにがしいままだ。



<そうだったな、ライトも育ちは白魔であったな。そういうことか……>

「ふぅ、もう大丈夫です。続きをお願いします」


<分かった。ニーアライカは、神器"断章刀 白抜陽炎しらぬきかげろう"を扱う白魔の女じゃ、歳は確か1000くらいじゃった筈。スレンダーな美人で、白き髪に合わせた白い武士のような服を着ておる>

(何で、女性の時だけ年齢と外見の説明を入れてくるんだろう)


<断章刀 白抜陽炎は、事象の過程を斬る能力を持つ。これがまた厄介な能力なんじゃよ>

「過程を斬る?……どういうことですか?」


<例えば、A地点からB地点に移動するという行動を決めたとしよう>

「はい」


<その時点で移動するという事象未来は半確定するのだが、断章刀はこの半確定した事象の過程、A地点からB地点に移動するという過程を斬り、A地点からB地点に移動したという結果のみを即座に得てることが出来るのじゃ>

「むむぅ~…」



 ライトは、ヨルの説明を歩きながらも頭の中で整理する。



「何となくだけど、理解出来ました」


<頑張ったのう、ライト、褒めてやる。さて、戻ろう、断章刀のこの力は非常に汎用性はんようせいが高い。自己再生や魔力回復の過程を斬ることでの即時回復、攻撃の過程を斬ることで同時多数の攻撃を可能としたりと、厄介つチートな能力じゃ。我でも倒すのに10秒はかかる>


(いや貴方の方が厄介且つチートの塊ですよ、ヨル)



 理解すればすればするほど、強いと思える能力を扱う相手をものの10秒で倒せると断言するヨルに、ライトはただ呆れるばかりである。



<剣術も神級、体術も聖級、Uランクでも上位のだろう。エッケル程度なら瞬殺じゃ>

「Uランクでも実力差は大きいんですね」

<いや、それほどでもない。エッケルが取り分け雑魚なだけじゃ、あのゴミは神器しか取り柄のないカスじゃからな。むしろ神器だけでいい、他の者は納得の評価と強さじゃよ>

(エッケルという人は、相当にヨルから見て駄目なんだろうなぁ……性格も悪いらしいし、会ったら倒せと言われるのは確実。これは頑張って鍛えなければですね)



 ライトは理解している。

 ヨルが如何に酷評しようと、相手はUランク冒険者、この世界で上から数えた方が早い者であることを。

 だからこそ、油断はしない。



「道は長そうですね……」



 照らす陽の光は、知らぬとばかりに燦々さんさんと輝いているのみである。



□■□■□



語り部「さて、1章始まったな。早々説明回だけど」

蛇の王「仕方ないな、因みに次の話までが説明回なるが、皆様、我慢してくれのう」

語り部「にしても、普通に神器って世に出てるんだな」

蛇の王「神々が偶に、特定の人物に渡るように仕組んだり、難関迷宮の宝箱だったり報酬だったりに仕込んでいるらしいぞ」

語り部「成程ね、ライトの場合は前者でも後者でもなく、直々に渡されたと(知らない内に)」

蛇の王「そうなるな。まあ神器ピンキリでのう、一概に全てが強いとも言えぬ」

語り部「そうなん?」

蛇の王「扱い手にもよるが、何でも強い訳じゃないのじゃ」


語り部は、今回は妙にしっかりしてるなぁ、と思うと同時に、背筋に嫌な予感が走った。


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