第19.5話 各々にて



 空と草原と白城のみの空間にて、



――ヨルさ~ん!!来ましたよ~!!」


【――――】



 声が響き渡る。

 だが、返答はない。



「リヴァイアさん、こっち詰まっているんで、早く出て下さい」

「さっさと出るなんし」

「おうあっ!?」



 虚空に空いた穴から顔を出して、声を発した少女は、後方から蹴り飛ばされるように、吹き飛ばされ、空間へと落ちる。



「いてて、タマモン痛いよ~」

「何言っとう、傷一つないさかい、問題ないやろ」

「――っと、ヨルさんの気配がありませんね」



 落ちた少女は、自分の後に降りて来た九つの尾を持つ長身の女に不満を告げる。

 狐の女はどこ吹く風である。

 その後、新たに降りて来た龍の翼を持つ青年の言葉を聞き、耳を立てる。



「確かにあの、巨大過ぎるヨルはんの気配が無いなぁ」

「あたしの声にも反応が無かったですし、本当に居ない訳ですね~」



 三人は即座に、この空間にヨルが居ないことを感じ取った。



「と、いうことは凄いことが起こったってことです」

「あのヨルさんの目に適う人が現れたってことだよねー!」

「それは……ちょっと面倒なことになったやんな」



 ヨルが祠から出たことに、驚きながらも三人は理解し、納得した。

 そこで、狐の女がふと気付いたように、面倒になったと言った。

 その言葉に他の二人は首を傾げる。



「何でですか?特に変わるようなこと、無いと思いますけど」

「いや、次の会議の集合場所、何処にするんや?誰もヨルはんと連絡取れへんやろ?」


「「あ」」



 そう、問題はあった。

 今までは、ヨルが一か所に留まっていたから、集合に問題が無く、会議を行えていた。

 だが、そのヨルが居なくなってしまった。

 そしてそのヨルと誰も連絡が取れない、つまり集合場所が無くなり、設定が出来ず集合できない=会議が行えない。



「確かにこれは、困りましたね」

「どうしましょうか~?」

「ふぅ~む、ユグはんに頼んどうみるか。ユグはんなら、ヨルはんを見つけて連絡取れるかもしれへんし」

「それが良さそうですね」

「ん~ちょっと待って下さいよ」

「なんや?イアはん」

「どうかしました?」



 問題の重さを判断し、直ぐに戻ろうとする二人に対して、少女が待ったをかける。



「あの、内面と性癖の割にしっかり者のヨルさんですよ?出て行くなら私達に、何か連絡を残していると思いませんか~?」

「確かにそうやな」

「言われてみれば、そうかもしれません」

「じゃあ、探しましょう!」



 三人は行動を開始した。




 城内をくまなく捜索した結果、



「やっぱり此処じゃないですか」

「イアはんの言う通りに行動したのは、失敗やったな」

「あの、申し訳ないとは思ってます。けど後悔はしてませんよ~!」



 ヨル自身が、ヨルの部屋と言っていた部屋の机の上に〈七種覇王しちしゅはおう達へ、次回の会議について〉と書かれた一通の手紙が置いてあった。

 三人は、少女の提案により、下の階から順番に隅から隅まで調べたしまった後だ。

 ヨルの部屋は城の最上階、完全に無駄足である。

 まあ、そういう時もあるよ、頑張れ、少女。



「さて、読んでいきましょうか」

「なになに――


『親愛なる七種覇王馬鹿共へ。我は、我が――の存在である、黒魔の少年、ライト・ミドガルズと契約をした。よって、彼の者と我は旅に出る。だが、それによってしょうじる問題がある。次の覇王会議を行う場所が我の居城では無くなり、場所が指定できないことじゃ。しかし、正直言って連絡を取るのは面倒じゃ。だから、我が場所を指定する、異論は認めん、次の覇王会議は我の指定した場所に集まれ。場所は龍界、龍の王 バハムートの居城とする。我はライトと楽しく旅をする故、緊急以外でのお主らからの我への接触は万死に値する、努々気を付けよ。それでは、次の覇王会議で会おう。――追伸、あのゴミ共、六天魔王ろくてんまおうが復活したらしい、動きに注意せよ』


――だって~!」

「ボクの城ですか、まあ問題無いですね」

「何ちゅうか、ヨルはんらしい、手紙やなぁ」

「しっかり命令してきてますし、多分ヨルさんは、このライトくんに相当入れ込んでますね~」

「万死に値するなんて態々わざわざヨルさん言いませんからね」



 三人はヨルの手紙を読み終えると、各々おのおのが感想を言う。

 すると、狐の女が急に疲れた顔になって口を開く。

 


「最後に大きなもんを残してくっちゅうのも、ヨルはんらしいなぁ」

「六天魔王が復活しましたか、前は八彩鉱王の方々とちょっとだけ協力して殲滅せんめつしましたよね?」

「あれ、結構前ですね~。流石に魔王共も馬鹿じゃないでしょうし、確かに警戒が必要かもしれませ~ん」

「なら戻りますか、ヨルさんの手紙の情報を共有しに」

「そうやな」

「分かりました~」



 虚空の穴へと三人が消える。

 空間は再び静寂に包まれた。



◆◇◆



 暗黒が巣食う断崖だんがいの谷底にて、



『ア"ア"ァ"ァ”――!!!』



 狂気の悪意が産声うぶごえを上げる。

 そこに、



[此処二居タカ、ワガ同胞ヨ]

『ア"ウ"?』

[フム、完全二ハ、復活出来テイナイヨウダナ。ワレガ、治シテヤロウ]



 血に染まった不死の悪意が現れる。

 不死は、狂気へと骨のような手を伸ばす。



《不死魔王-不死の理-魔法・邪道:神級-確定確立-魔導深淵-叡智-月蝕-背理-悪意》



―――神級闇魔法・邪道:リザレクション・インサニア



 暗光が辺りを包む。

 それが完全に収まると、



『……シェーデルよ、助かった』



 狂気が完全なる形を取り戻した。



[気二スルナ、ヴァーンズィン。ワレラハ同胞ダカラナ]

『恩に着る。して、私達が死して、どれだけの時が経った?』



 狂気は、不死に対して時の流れを問うた。

 その問いに対して不死は、首を振る。



[ソレハ、ワレニモ分カラヌ。ダガ、他ノ同胞達モ、ワレヤぬしノヨウニ復活シテイルヨウダ。ワレノ知ル限リナラバ、イルズィオーンハ復活シテイル]

『私の予想では、イルズィオーンに目覚めさせられたお前が、奴と分担で他の魔王を探しに来たというところだが、どうだ?』

[流石ヴァーンズィン、当タリダ。ソコマデ予想出来テイルナラ、コレカラドウスルカ、分カルダロ?]

『お前たちの拠点へと戻る。又は、活動拠点を作るというところか?』

[正解ダ、仮ノ拠点ヘト戻ルゾ。本格的ナ拠点ハ、全員ガ揃ッテカラノ予定ダ]



 そう告げると、不死は片手に魔法陣を浮かべる。


 

『では、頼むぞ』

[アア、ワガ魔法二失敗ハナイ]



 魔法陣が輝くと共に、二つの悪意は消えてなくなる。

 谷底は、沈黙を取り戻した。



◆◇◆



 陽光が照らす風の吹く丘にて、



「ふんふふ~ん、あ、テレサ、その薬取ってくれますか?」



 簡易的な机を広げ、楽し気に作業する緑の少女の姿があった。

 緑の少女は、近くでまた別の作業をしている修道服の女性にお願いをした。



「分かりました。それにしても、リリエルは何でそんな上機嫌なんです?」



 女性は、了承しながら、少女が何故上機嫌なのか聞く。



「座が埋まったのですよ、テレサ」

「座?何の座のことです?」



 少女の要領を得ない言葉に、女性は首を傾げる。

 そんな女性に対して、少女は自分を指さし、当然というのを身体で示しながら。



「私で座と言ったら、一つしか無いじゃないですか」

「成程、彩王の――って彩王の座が埋まったっことです!?」



 女性は、少女の言葉の意味を知り、遅れて驚く。



「ど、どっちなんです?」

「黒ですね、次の会議は面白くなりそうですよ、良い子だといいですよね」

「お、お~!今から会うのが楽しみです!」

「はぁ、あんなに燥いで、本当に好きですよね」



 子供みたいに小躍りする女性を見て、少女は軽く溜息を吐く。

 ふと、少女は空を見上げる。

 そこには、煌々とした太陽がある。



「白はいつ現れますかね。……凶星が降る前だと良いのですが」



 そう呟く少女の顔には、陽光に照らされども、影があった。



□■□■□



魔法技録

神級闇魔法・邪道:リザレクション・インサニア 神級光魔法リザレクションの邪道版 本来蘇生不可能な魔物系統の生物を完全に蘇生することが出来る 反対に通常生物には使用できない



語り部「いつの間に手紙なんて書いてたの?」

蛇の王「ライトが風呂に入ってる最中じゃ、パパっと書いたぞ」

語り部「そっか、で他の王達に結構上から接するのね」

蛇の王「そりゃそうじゃろ、我が一番最初、我が一番強いからな」

語り部「上も下も無いとか言ってなかったか?」

蛇の王「心ではな、心ではそう思ってるぞ?」

語り部「本当にぃ?じゃあ、僕はどういう蛇王にとってどんな位置何だ?」

蛇の王「そ、それはちょっと言えぬなっ///」

語り部「え?何で何で、教えてくれよ」

蛇の王「いや、嫌じゃ、絶対教えぬ!」

語り部「教えてよ、蛇王、蛇王?」

蛇の王「嫌じゃと言っとろうが!」

語り部「教えてよー!」


この語り部、相も変わらず空気を読めない男である。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る