第18話 誇示の時



 少しの問題はあったが、無事に依頼報告を終えたライトは、トアと戻って来たナイアと共に受付に戻って来た。



「上位種討伐のボーナス、依頼外討伐枠で竜種の討伐ボーナスに古代個体の討伐ボーナス……依頼評価はSSSトリプルエスってとこかな。ナイア、報酬の方の準備出来たかい?」

「出来ました、副マス……処理完了です」



 忙しなく、水晶の魔道具から表示された何らかを操作している二人を脇目にライトは、ギルド内を見回す。

 来た時と変わらず、酒場からやかましい声が聞こえる。

 ライトは、ふと談笑用のスペースに目を向けた。

 そこには、他よりも気配が違うというか、しっかりとした雰囲気と装備の四人の冒険者たちが、何やら話し合っていた。



(あ、〈森竜しんりゅうの牙〉の方々だ)

<知り合いかえ?>

(はい、冒険者の中では唯一仲が良くて、お世話になっている方々です)



 ライトは談笑スペースへと移動し、四人の中で一番ガッチリとした体格の緑色の鎧を着た男に話しかける。



「こんにちは、レックスさん、皆さん」

「ん?ああ!ライトか!誰かと思ったぜ」

「何か変ですか?」



 声を掛けられた男……レックスは、テーブルに置いてあった地図から顔を上げ、ライトを見て少し驚いたような顔をして、言葉を返す。

 その反応を不思議に思ったライトは、自身の変化を問う。



「何といえば良いか、先ず服装が違うし」

「纏う雰囲気が前と違う」

「表現が難しいですが、一段強くなった感じですかね?」

「前より格好良い感じがします!」



 上からレックス。

 金色の長髪に特徴的な長耳――エルフの女、トリー。

 灰色の髪と狼のような耳と尻尾――獣人の男、ステウル。

 朱色の短髪に着物を着た真っ白な角――鬼人の少女、アカネ。

 以上の四名により、Aランクパーティー〈森竜の牙〉は構成されている。

 因みに、パーティーのランクはパーティーメンバーのランクの平均である。

 〈森竜の牙〉は全員が、Aランクだ。


 ライトは自分の雰囲気の変化に認識できていない。

 まあ、自分のことは自分が一番わからないとか、その反対だとか言われるが、こればっかりは自分では分からないだろう。



「そうなんですかね?ところで皆さんは、何を話し合っていたんですか?」

「実は俺達、近い内にハジノスを出ようかと思ってな。それで何処に行こうかと話していたんだ」

「っ!?……で、何処に行く予定に?」



 顔を驚嘆に染めながらも、内の思いを全ての見込み、ライトは話を聞くことにした。

 冒険者として高みを目指すなら、一か所に留まることは愚策ということは理解している。

 旅立ちは必須だと割り切ったのだ。



「まだ考え中なんですけどね、一応は決まってますよ」

「此処、ハジノスからずっと東へ進んだとこ」

「未踏破ダンジョン『大迷宮ラビリンス』で有名な迷宮都市ラビルです!!」

「成程……」

(予想通りですね)

<そうなのか?>



 ライトは、瞬時にレックス達が何処に行くか予測を立てていた。

 そしてその予測が当たっていたと、ほくそ笑む。

 だが、その予測はそれほど難しいものでもないのだ。



(はい、だって国境を超えずに特に許可証なども行くのに必要ないですし、ラビルはハジノスから最も近い……と言っても行くのにニか月くらいは余裕でかかりますが……大都市ですから。冒険者も多いですから活動もしやすいですしね)


<そういうことかえ、成程のう>

「皆さんの活躍――「レックスさんじゃねぇですかい!」――チッ」



 ライトがレックス達へ、応援の言葉を紡ごうとすると、ギルドに響き渡る程の大声で割り込んできた者が、いや者達が居た。

 その者達を見た瞬間、ライトは顔をしかめ、舌打ちをする。

 


「どうも!今日はどうしたんすか?」

「私達、今戻って来たんですよ」

「また稽古けいこつけてもらえないですかね?」



 現れた者達三人は、ライトを押し退けるのように、レックス達の前に行き、矢継ぎ早に話し始める。

 レックス達も三人の勢いに押されて苦笑いと嫌悪を顔を浮かべている。

 前にライトは、この者達にレックス達が少しだけ指導している場面を見たことがある……その時はマナーが悪く、何度も注意されていた記憶があった。

 そして、何故かライトへの当たりが強かったのも覚えている。



(面の皮の厚い奴らですね……仕方ない、レックスさん達と話すのは此奴らが居なくなってからにしよう)

<いや、それは許さん>

「え?」

(おっと、しまった……どうしてですか、ヨル?)



 予想外のヨルの言葉に思わず、思考ではなく口で反応してしまった。

 平静を取り戻し、ヨルに言葉の真意を問う。



<我との契約を覚えているか?>

(ヨルの力を誇示する機会から逃れられな……そういうことですか、今がそうだと?)



 ライトは、ヨルが何を言わんとしているのか理解した。

 ライトがヨルと結んだ契約、それが適応される時が来たのだということを。



<まあ判定としては微妙なとこだが、場としては良い、何よりもあの三人は腹が立つからな>

(因みに今逃げようとしたらどうなります?)

<体で覚える為に、一度やってみたらどうじゃ?二度としたくなくなるだろうがな>

(ヨルがそう言うなら、試してみますかね)

「…………」



 静かに三人とレックス達からそむけて少し歩いた。

 その瞬間、



「ッ!?ぐあっ……これはっ……」



 ライトは、物理的に心臓が締め上げられるような感覚におちいった

 激痛が全身へと伝染する。



<どうだ、辛いじゃろ?>

「フゥ、フゥ……」

(はい……とんでもないですね)



 即座にライトは痛みから解放される為に向き直り、ヨルへと言葉を返す。

 背中を流れる冷たい汗を感じながら息を整える。



(さて、流石にコレは僕でも耐えられないので、三人をぶちのめしますかね)

<いいぞー!行くのじゃ!>



 ライトは見事に、契約違反の激痛に恐怖を刻み込まれ、吹っ切れた。

 静かに三人の後ろまで戻る。



《回避術-気配遮断-気配察知-怪力-聡明》


「フッ!――ラァ!人の会話に割り込まないでくれませんかねぇ、くくっ」



 三人の一番後ろに居た男の頭を掴み、床へと叩きつけ、他二人とレックス達の間に割り込むように移動して、残りの二人を蹴り飛ばす。

 ギルド内から音が消えたような気がした。

 レックス達も驚いた顔をしてライトを見ている。

 当然である、ライトは今まで、今回と同じような扱いを受けても大人の対応、つまりは受け流していたからだ。

 直接的な対応はしたことがなかった。



「テメェ、何しやがる!」

「【無能ワースト】の癖して、私達に手を出して、唯で済むと思ってんのかい?」

「ハァ?礼儀のなってない馬鹿に対して少しきゅうを据えただけですよ?頭可笑しいのでは?ああ、馬鹿だから理解できないんですね?」



 普段から考えられない程、今のライトは饒舌じょうぜつになっている。

 心臓を締める痛みが、何らかのたがを破壊したようだ。



―――取出トリイデ巳蚓魑ミヅチ



「文句があるなら、腕で証明してください。貴方達のような雑魚でも冒険者なんですから。怖いならさっさと、そこの扉から外に出ていいですけどね」



 巳蚓魑からヨルとの訓練に使用したヨルのうろこ製のを取り出し、構える。

 度重たびかさなるライトの煽りに残った二人の冒険者の顔は、茹で上がったたこのように真っ赤だ。



「ライト…殺すなよ?」

「感情的になり過ぎるのは、駄目」

「当然ですよ、僕を舐めて貰っては困ります」

「なら安心です!」

「まあ、別にやっちゃっても庇護ひごしますけどね」



 レックス達から、いつもと違うライトに対して、少し注意が入った。

 普通の冒険者なら、こんなことはレックス達も言わなかっただろう。

 だが、ライトは普通の冒険者ではないことをレックス達は知っている、だから注意したのだ。

 


「オラァ!!」

「もう会話する気は無いので、黙ってて下さい」



―――まとうな風蛇ふうだ



《杖術:天級-回避術-怪力-会心》



―――中級杖術:閃突牙セントツガ



「――グァッ……」

「良い突き、初動が見えなかった」



 風を纏う杖で男の腹に全力で突きを放つ。

 予想以上の威力が出て、男は吹き飛ばされ壁に叩きつけられて気を失った。



「ありゃ、一発で沈んでしまいましたか、想像以上の雑魚だったみたいですね」

「このっ!!」



―――上級杖術:かた戦刃せんじん薙流ナギリュウ



「おっと、手が滑ってしまいました。腕が折れでもしてたら、すみませんね」

「アアァァッ!!」

「女の子相手に容赦ないです!」



 剣を構え、突っ込んでくる女へと杖を振るい、腕へと当てる。

 杖の先端に籠めた魔力が炸裂し、ピンボールのように横に弾き飛ばされた女を見てライトは薄く笑う。

 尚、断じて手が滑ってなどいない。



「俺の、仲間に…何してん、だ!」

「おや、意識があったんですか、てっきり気絶したものかと」

「ふざっけんな!」



―――くるしめしば水蛇すいだ



五月蠅うるさいですよ、元はと言えば貴方方あなたがたが僕とレックスさん達の間に入ったせいなんですから、自業自得です」

「あア、ヤめっ」

「あの術、死なないように上手く調節してますね」



 杖から放たれた蛇を模した水が、男を縛り上げる。

 ギリギリと音を立たせながらも、死なないようにライトは調整して苦しめる。

 中々に意地の悪い攻撃である。



「大丈夫ですよ、殺しはしません。それだと僕が悪者になってしまいますから、精々四肢が使えなくなるくらいですから安心してください」

「それ、全然安心できないよな?」

「あ、レックスさん、どうしたんですか?」



 ライトは戦闘遊びに集中していて、レックスの接近に気付いておらず、少し驚いた。



「そろそろ止めようかと思ってな、アイツだってもう意識無いし」

「ん?もう気を失ってしまったんですか、やわですね。面白くない、もう少し手応えのあるまとが良かったです」

「的て、まあ、これお前に突っかかって来る奴は減るだろうし、結果としてはかなり良いんじゃないか?」

「……確かにそんな効果もありそうですね」

「あ?そんな効果を期待しての行動じゃなかったのか?ライトはいつも計画立てて動くから、そうだと思ったんだが」



 そんなことは全くない!

 ただ契約に基づいてと、契約違反への恐怖と高揚からの義務的行動である。

 まあ、そんなことそのまま言える訳もないので、ライトは思考を巡らす。



「久しぶりの討伐依頼で少し疲れていたのか、イラっとしたのでつい手が出てしまっただけです」

「ライトが討伐依頼、珍しい」

「まあそうですが、先程の雰囲気、凄かったですね。思わず槍を手に握ってしまいましたよ」

「こう、キリッとした感じで格好良かったです!」



 無難な言い訳をすると〈森竜の牙〉の他の面々が近付いて来て上手い具合に話題が紛れた。

 ライトはそっと安堵の息を吐く。



「あの動きに魔法?みたいなの、俺達にも見せたこと無かったよな?そもそもお前は剣を主に戦っていた、剣を背負ってるのにその棒…杖か?で戦うってのどういうことだ?」

「レックスさんともあろう方が何を言ってるんです?冒険者は手の内を明かさない。新人の頃に一番最初に教えてくれたじゃないですか」

「そうそう、レックス、それ駄目」

「気にはなりますが、確かにそうですね」

「隠し事は、深く聞かないのです!」

「こりゃ一本取られたな!まあ良い、代わりに討伐依頼の話を聞かせてくれ、地味に俺はそっちの方が気になってるんだ。あのほぼ採集専門だったライトが討伐をしたっていうのは結構衝撃受けたんだぜ?」



 冒険者の常識を盾に、ライトはヨルと蛇王蛇法に関しての話を逸らすことが出来た。



「いいですよ、依頼の清算が終わるまで時間があるので」



 心中の焦りを悟らせないように、しばしの間ライトは談笑を楽しんだ。


 尚、ギルド内は未だ静かである。



□■□■□



蛇王蛇法技録

まとうな風蛇ふうだ 対象に風を纏わせ攻撃後に追加で吹き飛ばす

くるしめしば水蛇すいだ 対象が死なないように水で拘束し締め上げる


語り部「割とやってること外道だよね、ライト」

蛇の王「それでいいんじゃよ、タイトルにもあるじゃろうが、人道外れと、今後もっとエグくなる筈じゃ」

語り部「心は痛くならないのかっ!?」

蛇の王「弱き者が悪い、心など痛くは全くない」

語り部「かなり飛躍した虐めっ子理論だよ、それ」

蛇の王「文句があるなら、拳で語れ、語り部ッ!」

語り部「正にそういうとこだっつってんだよ!!!」


この空間では、言葉は拳より強くはない、絶対に。


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