第15話 思い込みの過失
ヨルから、蛇の王と迷いの大森林の封印の話をライトは聞いた。
(ヨル、化け物過ぎないか?)
ライトは率直にそう思った。
多少自分語りで
そう信じさせるだけの強さをヨルは持っているからだ。
「ヨルは本当に凄い存在なんですね、ビックリです」
<うむ、そうだろう!>
ヨルの嬉しそうな声が脳内に響く。
(こんなにも無邪気そうに笑らってるのになぁ)
世の中見かけによらないな、とライトは思った。
「でも、今の話には出る方法は無かったですよね?何で今僕と一緒に出て歩いてるんですか?封印、されてたんですよね?」
ライトは話の最中に気になったことを聞く。
<確かに封印はされていた。だが、解除方法自体は意外と簡単なのじゃ、まあその前提となる我の封印されている祠に来るというのも、低位の者達には難しいのだろうがな>
「そうなんですか?」
<祠に入って来た者と契約するだけで良いからな。我の目に適う者は、ライト以外には来なかったがの、適わなかった者は喰ってやった>
「…………」
(僕以外にも人が入ったことがあるってことだよね。で、僕以外の人達は喰われた?僕、滅茶苦茶危なかったのでは?)
ライトはヨルの目に適わず、喰われる自分を想像する。
背筋に嫌な汗が伝う、自分はこんな時は運が良かったと少し元気も出た。
「…あれ?ヨルの目に
他の七種覇王がどうだこうだ言っていた、まだ威厳のあった時のヨルの話を思い出したのだ。
<うむ、そうだが奴らとは契約を結ぶ気は無かった。奴らもその気だったのじゃろう>
「何故ですか?」
その行動の意味をライトは理解できなかった。
さっさと出て自由に行動した方が良いのではと思った。
ライト自身が不自由というものを好んでいないからだ。
<それは、我と『七種覇王』は第一席、第二席と分かれておるが、上下関係はなく、それぞれが同格と考えているからだ>
「同格だから?」
<まあ、
「…………」
<契約とは否が応でも、結ぶ側と結ばれる側の上下関係が出来てしまう。一時的にでもそういう関係が出来ることを我らは嫌ったのだ>
自身には理解できない領域の者達の話であり、仲間という者が居たことのないライトには、ヨルのその気持ちは全くもって分からなかった。
しかし、
「ヨルにとって、その人達は大切なんですね」
ヨルがその者達を大切にしていることは感じれた。
<そんなことないわ、どいつもこいつも腹の立つことばかり言ってくる。ふざけた奴らじゃ……だが、不思議な安心感と絆を感じられる、そんな奴らでもある>
そう語るヨルの声は、何処か懐かしむような、慈しむような思いが詰まっているようにライトは感じた。
(僕とヨルは契約で結ばれているから、まだそういう関係は無理ですかね。それに僕はまだ弱すぎますし……いつか隣に立てる日が来ると良いな…………ん?何故そんなことを……)
ライトは、ただの契約の相手であるヨルに対して、良く思われたい自分を不思議に感じた。
やはり、ライトはヨルを好意的に思っている。
(何で、何でこんなにも一緒に居たいと思ってしまうのか……不思議だ)
<…………>
ライトは忘れている、今は念話中なので思考の全てがヨルに筒抜けなことを。
(まあでも、今なら分からなくもない気がします。確かに初めは怖かったですけど、王と名乗るだけの威厳や雰囲気を感じました)
<っ………>
あの時のヨルは確かに非常に格好良かった。
(けど、今はそんなの全然感じません)
<っ!?!?>
(整理整頓は出来てませんし、修行は大雑把だし、何か変に興奮するし、威厳ゼロです)
<っ~~~>
これが、ライトの正直な感想である。
少なくとも日常生活という点に関しては、完全に駄目だと判断し切っている。
然も、あながち間違いでもない。
ライトの言葉は、ヨルの心にクリティカルヒットしたようだ。
(でも、確かに手の届かない程に強いですし、一緒に居て楽しくて何故か安心します)
<っ!!>
(それに綺麗なんですよね、引き込まれるような美しさです)
<っ///>
(そんな強さと美しさを持つヨルに、僕は魅了されたんだと思います)
ライトは、頭の中で整理することで、自身がヨルを好意的思う理由を少し理解出来た気がした。
一緒に居て楽しくて、並ぶ者が居ないだろう程に強い、更にはとびっきりの美少女。
そんなの、ライトとしても好意的に思えない訳が無いのだ。
……まあ、まだヨルを思う理由はあったりするのだが、それは私が語るべきではないだろう。
<――あ、さ、さあっ!!ハジノスとやらに向かうのであろうっ!い、急ぐぞ?>
「急にどうしたんですか、ヨル?そんなに焦らなくても」
<何でもないっ!>
(変なヨルですね……ん?)
捲し立てるように、移動を急かすヨルをライトは不思議に感じた。
そして理解した、というか思い出した。
(僕って今、ヨルと念話で会話している訳ですよね?)
<…………>
(てことは、僕の思考はヨルに筒抜けな訳で……それって……凄く……)
ライトは気付いてしまった。
自身がヨルに対して思っていたことが全て、ヨルに知られたであろうことが。
「…………」
<…………>
脳内に声は響かず、ただ思考に
「――ヨルの言う通りですっ!ハジノスに急ぎましょうっ!!」
<うむっ!!>
一連の思考と行動を忘れ、移動を再開するというものだ。
ヨルも気まずかったらしく、ライトの言葉に乗った。
それから、話題を
すると、
「あれは、冒険者ですかね……」
<知り合いかえ?>
「いえ、僕は知ってますけど、相手方は知らないでしょう」
(今日も活動してるんですね)
かな~り遠くに人影が見えた。
ライトは自身のかなり良い視力を使って、それが誰であるか確かめた。
正直に言って常人の肉眼では見えないだろう。
ライトの眼に映ったのは、昨日ギルドでトアと一緒に見た有望株の新人三人組だった。
「関わりがあるわけでもないので、そのまま行きましょう。恐らく面倒な人達ではないでしょうし」
<そうか、ならこのままじゃな>
更に歩くこと数分、三人組が何とか常人が肉眼で
「……っ!?ヨル……」
<ライトも感じたかえ?>
「はい、本当に一瞬ですが途轍もなく嫌な、何というか
ライトは突如、言葉に出来ない不快な気配を感じた、それはヨルも同じようで、何かを感じていたようだ。
<……
「
<ふ~む、そうだな……ライト、魔物とは何だ?>
「急ですね……確か、大体は
昔、本で得た知識をヨルへと伝えるライト。
だが、これは正確ではない。
<
「なるほど」
<他に例外があり、竜種のような変異をしていなくとも強い生物、
「へぇ~」
そのものの定義からは外れるが、似ているからそう判定されて呼ばれて、
ヨルにも言えるが、太古の王どもは姿を消しても後世に影響を残し過ぎなのだ。
全くもって迷惑である。
「つまり
<そうじゃろうな……だが、此処はかなり浅めの馬車ではないかの、ライト>
「はい、確かに外縁部ですしね」
<……我のせいかもな>
「ん?何故です?」
突然のヨルの言葉をライトは理解できなかった。
魔物との話の関連性を捉えられなかったからである。
<いや、古代森竜を呼ぶ為に使った蛇王蛇法、誘い寄せる惑蛇……効果範囲が滅茶苦茶広いんじゃよ……然も、効果内容は戦闘と捕食本能を途轍もなく刺激するというものじゃし……>
「……あれを使ったのは深層の方でしたよね」
<まあ、深いところではあったの……>
「…………」
ライトはヨルの言葉の真意を理解した。
つまるところ、あの嫌な気配の魔物はヨルのせいで、浅層に出てきた強力な魔物の可能性が高いということなのだ。
「ヨル……」
<いや、済まぬとは思っていると言っておこう。だが良い機会じゃ>
「倒せってことですか?」
<分かって来たな、ライトよ>
「はぁ……」
ライトの気分が下がった。
(でも仕方ないことなんですよね、契約ですし、決めたことはやりましょう)
嫌だが自分で決めたことなので、ライトは頑張ろうと心に決めた。
三人組との距離が残り100mというところまで来た。
道中時折、ライトはあの嫌な気配を感じるが攻めてはこなかった。
その魔物の行動にライトは言いようのない、不安を感じている。
(何を狙っているのか、一向に掴めない……そろそろ彼らと接触するころか)
「――すみませ~ん、冒険者の方ですか~!!」
三人組の中の一人が大きな声で、ライトへと声を掛けて来た。
その瞬間、
[キシャァ―――!!!!]
嫌な気配が膨れ上がり、その存在が姿を現す。
赤黒い体毛で覆われた巨大な一つの胴体に三つの鬼のような凶悪な頭と二十四本の鎌の如き脚を持つ……蜘蛛。
その蜘蛛は、
「――イヤッ――」
[キシシ、クシャ――!!]
脚を巧みに扱い、三人組を掴み拘束する。
助けなければいけない筈なのに、ライトはその存在の衝撃に動くことが出来ないでいた。
「特級災害……指定…生物……"
特級災害指定生物、それは過去に起きた魔物由来の事件に
中にはUランク冒険者でも手を焼く存在も居る、怪物の枠内にいる魔物達だ。
「――助けなければ」
突き動かされるようにライトは、足を動かした。
だが、それはあまりにも遅かった。
[――キシッ、グシャアッ!!]
「――やめっ……」
一つの頭が、三人組の一人の頭へと齧り付いた。
ボリボリと、嫌な咀嚼音が響く。
死んだ仲間を見てか、残った二人の絶叫と助けを求める声が響き渡る。
「…………」
―――
ライトは……惨状から目を背け、隠れた。
助けを求める声が耳に、脳へと響く。
ライトは、耳を塞いだ。
(無理だ無理だ無理だ!!……いや、出来た筈だ……けど、僕は遅れたんだ)
正直に言って、ライトは三人を助けることが出来ると思っていた。
だが、全てが遅かった。
力を持てど、覆せないものはある。
別にライトは一方的に彼らを知っているだけで、助ける必要など別にない。
けれど、ヨルから力を得たライトには、その力を使うべきだったという、一種の思い込みがあった。
その思い込みが、今の惨状を自身の過失だと思わせる。
<…………>
(力を得た……けど、遅れちゃ意味が無い。隙はあった……邪道を、進めなかった……)
ぐるぐると、下向きの思考がライトの脳内を埋めていく。
そんなライトに痺れを切らしたのか、ヨルは口を開く。
<のう、ライトよ――
□■□■□
語り部「特級災害指定生物って何種類くらい居るんだ?」
蛇の王「え?次の回に我がどんな話をするとか、もっとするべき話ないかえ?」
語り部「んなもん、次の話見ればいいじゃん。後書きはそんなことを話す場ではない」
蛇の王「そ、そんなこと?我の話そんなこと扱い?」
語り部「そんなことは良いから、答えてくれい、蛇王」
蛇の王「…………はぁ、34種、今のところは34種しか存在せん」
語り部「うんうん、だよな。蛇王、元気ないな、どうした?」
蛇の王「このKY語り部が、知っとるなら勝手にやっておれ!」
語り部「ちょ、蛇王!?ごめんて!」
この語り部、空気読めない男である。(この後しっかり仲直りしました)
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