第14話 巳蚓魑
「この竜、よく見れば古代個体ではないか」
「は?」
ライトは時が止まったと錯覚する程に動きを止める。
「古代個体って、まさか、あのエ、エンシェントですか?このデカいフォレストドラゴンが?」
ライトは恐る恐るに、ヨルへと聞き返した。
「どのとか、あのとか知らんが、確かに此奴は古代森竜じゃぞ」
「エンシェント…フォレストドラゴン、道理で強かった訳ですよ」
古代個体とは、どんな個体でもいいが、その個体が無数の戦いと永い時を経て至る、通常個体を遥かに上回る強さの個体のことを言う。
「いやお主、大体一方的にボコボコにしてたではないか」
妙な強さに納得がいったライトは、恐怖しながらも切り替えて、
「ヨル、このドラゴン、良い金と素材になるんですけど、もう魔法袋の容量がいっぱいなので持ち帰れません。解決策はありますか?」
聞こえたヨルの言葉をガン無視しながら、ヨルを頼る。
アトラスタイラントで魔法袋の容量は既に限界、そもそも開け口の大きさ的に入れようとすることすら先ず出来ない。
古代個体の竜ならば、人族なら一生遊んで過ごしても到底使い切れない程の価値になる。
ライトには、この竜を持ち帰らないという選択肢は無かった。
「無視するでない、まあよいか。して、この森竜を持ち帰りたいんじゃったか?」
「はい、そうです」
「ならば方法はあるぞ、通常とは違う、特殊な蛇王蛇法に異空間収納の術がある」
「では教えてください」
内心で喜びながら、ライトはヨルへと教えを乞う。
「うむよいぞ、収納・
「分かりました」
―――
ヨルを同じように唱えると、ライトは目に見えない何かが右の手の平が出るのを感じた。
その何かは、古代森竜へと当たる。
すると、
「わっ!?消えました、ヨルッ!」
「収納できたようじゃな」
ポンッ、と音が立っていると錯覚する程、綺麗に古代森竜の巨体が消え失せた。
ライトは驚きを隠せない。
「序でに、閲覧・巳蚓魑と唱えてみよ」
「え?あ、分かりました」
―――
「こ、れは?」
唱えた瞬間、ライトの目の前に半透明の板のような物が現れた。
板の左側には、よく分からない道具らしき物の名前、生物らしき名前やその他食品の名前が表示されていた。
右側上部には、黒い何も表示されていない枠、下部にも何も書かれていない小さな枠が複数あるのみだ。
「それは今、巳蚓魑に収納されている物品の一覧じゃ。我の物と統合されておるから、沢山物があるじゃろう?」
「はい、何か良く分からない物ばかりです」
「この巳蚓魑の中に収納されているそれらは、我とライトの共有財産じゃ。好きに使って良いぞ、正直我も使い道に困っておるしな。現世で手に入らぬ物も多い故、高値で売れるじゃろうし、良き素材にもなるじゃろう」
「ありがとうございます、ヨル」
「気にすることは無い、既に我とライトは契約で繋がっておるからな」
その言葉を聞き、ライトは少し嬉しく思う。
「でじゃ、そのウィンドウの一番上に、全てやら鉱石類やら食品類やら、色々書いてあるじゃろう?」
「はい」
(これ、ウィンドウって言うんですね)
私たちにとっては見慣れたような見た目、パソコンのウィンドウのようだが、ライトは知らない。
というか、ヨルの方が昔の者な筈なのだが、ライト達
「その中から、素材類というものをタップせよ」
「タップ?」
「あ~指で触れればよい」
「なるほど」
取り敢えず、ライトはヨルの指示通りにウィンドウを操作することにした。
「新しく現れた一覧を下にスクロール、指を下から上へ一覧を下方へと移動させるのじゃ」
「下から上へ、分かりました」
「そのまま、古代森竜が出てくるまで続けるのじゃ」
「了解です」
言われるがままに操作し続け、遂にライトは古代森竜の死骸(全身)という文字を見つけた。
「ありました」
「では、それをタップしてみよ」
「はい、お~確かにさっきのフォレストドラゴンですね」
ライトが文字をタップすると右上部に先程倒したフォレストドラゴンの
下部には笑納されている物の名称、状態や大きさなどの情報が詳細に載っていた。
「ふむふむ、良い状態じゃな」
いつの間にか後ろに回り、ライトの右肩越しに手を置いて、ウィンドウを覗き込んできたヨルがそう言う。
(近いなぁ)
「ん?照れておるのか?愛い奴よの~うりうり~」
「別に照れてません!」
いや、照れている。
ライトは、女性への耐性が高い方ではないのからだ。
「まあよい、でじゃ、その一番右下にある"取出"というのをタップすると、その表示されている物を取り出せるのじゃ。大体の使い方は分かったか?」
「はい」
「まだまだ機能はあるが、それはまた今度じゃ、今は街へと行くのじゃ!」
「分かりました」
学びを得たライトは納得し、ヨルと共に移動をすることにした。
◆◇◆
森の外縁部に着き、そこを沿って、ハジノスの方へと歩く。
光を遮る木々が無くなった為、照りつける陽の光をありありとライトは感じた。
がしかし、ライトは暑さを感じていなかった。
ふと、その原因に気が付き、何故かフードに納まっているヨルに話しかける。
「このコート、環境耐性でも付いてるんですか?」
<そんなもんじゃ、ないのう。我の一部を使い、我の力を籠め、我が作り上げた。特製の服じゃ!物凄いのじゃ!>
「まあ、あそこに一人でしたし、そりゃあ一人で作ってますよね」
(あれだけの強さを持つ存在が作った服、確かにもっと凄い機能や能力があっても可笑しくない……ん?)
今身に着けている服たちが想像以上に凄い物なことを理解し、同時に何故今まで不思議に思わなったのかと感じる疑問を抱く。
説明を忘れていたが、ライトは今、軽鎧やマントを身に着けていないし、これまで着ていた服は一つも着ていない。
お風呂に入った時に、ヨルから渡された服たちと、背面に自身の尾を噛む蛇(所謂ウロボロスという奴)の模様が入ったフードのある漆黒のロングコートを着ている。
あと、契約紋を隠す為の黒い蛇皮のような手袋を着けている。
見た目は布の癖に、金属部分の在る軽鎧より全然防御力が高いという謎性能である。
「ヨルって、何であの祠に居たんですか?」
<む?ライト、知らぬのか?
「はい、全然知りません。本とかもあまり読む余裕は無かったので、学園にも通ってませんし」
そもそも、何故ヨルがあの祠に居たのか、それをライトは未だに知らなかった。
<我のこと知らずに、我に敬意を払って、そしてその敬意を薄らせておったのか?>
「そうです、だってそうしないと、殺されそうでしたし」
<まあ、確かに正解の行動ではあったな>
ライトは当然のように、生きる為の選択をし続けていただけである。
というか、ライトは白魔として育っている、目上の者や権力者には敬意を払う気はさらさらないが、強者には普通に敬意を払うべきだと思っている。
命が掛かってなくても、ライトは恐らくヨルに対して敬意を払っていただろう。
<では、我が『蛇の王の伝説』について語ってやろうではないか!>
「自分で自分のこと語るって恥ずかしくないんですか?」
<全くじゃ、我凄いからの!>
「否定の仕様がありませんね」
人型ならば絶対に無い胸を張っていただろうと容易に想像のつく程、自信満々なヨルに、ライトは苦笑いをする。
(でも、これを機にしっかり知ろう)
ライトは己が為、しっかりとヨルの話を聞くことにし、気を張った。
□■□■□
蛇王蛇法技録
語り部「自分の身体で装備作るってどんな気分なんだ?」
蛇の王「別に何とも無いのじゃ、鱗なんて生え変わるし我であった物でしかないからな」
語り部「ほ~そういう感覚か、因みに鱗以外って入ってたりする?」
蛇の王「いっぱい入ってるのじゃ、血液、皮に牙……それにあ――」
語り部「はい、アウトね。もう言うな」
蛇の王「くっ、我の邪魔ばかり、語り部、主は意地悪過ぎる!」
語り部「お前が一線超えねぇようにセーブしてんだよ、気付け!!」
蛇の王「ハァ?我そんなことせぬしぃ?」
語り部「黙れ、脳内ピンク蛇が!お前の
蛇の王「主も楽しんでいたから良いではないか?」
語り部「そ、そんなことはどうでも良い!前からこのことは話さないといけないと思っていたんだよ!」
その後、繰り広げられた討論にて語り部が論破されたのは、きっと必然だった。
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