第13話 邪道を行く
白光が隙間から漏れている門の前に立つ。
「此処から出れば、直ぐに外じゃ」
「ということは、直ぐそこにフォレストドラゴンがいるかもしれないってことですか」
ほぼ一日と言っていいくらい経っているから、祠の前から既に
が何故かライトは、それでも居るという、謎の確信めいたものを感じていた。
「ライトが逃げていたのは
「森竜?ああ、そうですよ」
蛇王蛇法の会得の儀式(と言う名の情事)と修行(と言う名の暗記)を終え、ヨルの空間の出口まで来た。
飛びすぎ?知らないねぇ?
「此処の外は、確か森じゃったかの?環境は相手にとって最高か」
「そのせいで右腕持っていかれました」
「じゃが、今のライトには我が付いておる。安心せい!」
「はいはい、最強ですもんねぇ」
「ライト、なんだか我への敬意薄れとらんか?」
無い胸を張り、任せよ、とドヤ顔するヨルを軽く受け流すライト。
この数時間でライトの中でヨルの内面的評価は暴落した。
理由は、あの垣間見える変態さと大雑把な所だ。
しかし外面的評価、先の戦闘もあり、その強さは当然ながら疑っていない。
だが、
(だって、安心せいって言ったって、戦うの僕だよね。然もメインの筈の攻撃手段ほぼぶっつけ本番なのに)
「そんなこと無いですよ。ただヨルは親しみやすさもある王だってだけです」
「そ、そうかの、うむ、なら
(うん、チョロい。そして見た目は良いから何気ない仕草が可愛いのが、少し腹が立つ……確かに敬意は薄れてるかもしれない)
年齢が不可思議だろうが那由他だろうが阿僧祇だろうが、ヨルは外見"だけ"は完璧な美少女なので、普通に可愛い。
「では出る前に…よっと」
ヨルがそう言って軽くジャンプすると、
―――
「え?あ、え?ヨ、ヨル?」
<うむ、我じゃ>
「何これ、気持ち悪っ!?」
そこには一本の杖があった。
刻印のされた黒い棒に、蛇状態のヨルが小さくなったような蛇が巻き付き、棒の先端についた六角水晶にその蛇が噛み付いている装飾の2mはある、色に似合わず神々しさすら感じる神秘的な杖。
そして、脳内に直接響くヨルの声、ライトは驚嘆を禁じ得ない。
<き、気持ちは悪いとは何じゃ!>
「この脳内に響く感じ、噂に聞く念話ってやつですか?」
<うむ、そうじゃぞ。中々使い手が居らぬのもあるが、やり方が難解な上に様々過ぎて、後世に伝えにくい技なのじゃ>
「因みにヨルはどうやってるんですか?」
<それは勿論、蛇王蛇法でじゃ>
念話、それは言葉・表情・身振りなどを介さずに思考・心情を伝える行為又は技術・能力を指す。
この世界で、それを扱えるものは非情に少ない。
「全く、チートな王様ですね」
<そうであろう、そうであろう。さあ、我を手に取るのじゃ>
「了解しました……凄い手に馴染みますね」
ライトは初めて持つ筈なのに、異様なほど手に馴染むヨルに驚く。
そのまま、流れに任せて数回振る。
(結構重い、けど扱いやすい、振りやすい……杖として完璧すぎる。凄いな、でもこれ、ヨルなんだよな?)
<我じゃ!だから、念話中に振るでない!>
(あれ?もしかして聞こえてます?)
<聞こえておる、聞こえておる!だから振るのを止めるのだ!>
「あ、はい」
<全く、少しは気にせんか、我じゃと言うとろうに>
「すみません」
流石にライトは申し訳ないと思い、平謝りである。
まあ、ライトは無類の武器好きである故、杖としての完成度の高いヨルに興奮してしまったからこその行動であったが。
「でも、感覚があるのに、何で杖になったんですか?杖術を使うなら、振り回されることは分かっていたでしょうに」
<分かっておるわ、それの対策の術を張る前にお主が振ったのが悪いのじゃ>
「そういうことですか、そのすみません」
<まあよい、今後は気を付けよ>
何だか次は無いような気がして、とても気を付けようとライトは思った。
<でじゃ、竜との戦闘には我を使え>
「ヨルをですか?」
<うむ、というかこれから先の戦いでは基本的に我を使ってもらう、この状態ならば、蛇王蛇法以外にも魔法などのものだって、そのまま使うよりも数極倍にして放てるぞ!硬さだって戦闘訓練で使った杖とは比べるのも
「凄いですねぇ」
ライトは、何か凄まじいんだろうなくらいにしか、話を聞いていなかった。
ヨルが話した、威力の倍率が可笑しことも、効いていなかった。
極とは10の48乗である……その異常さ、理解して頂けただろうか?
<して、もうこの門から出てもらうが、お主には出る前に最後に一つだけ聞いておきたいのじゃ。>
「何ですか?」
<お主は、我との契約で戦う、これからあるであろうその戦い何を求め、どんなスタイルで戦う?>
「求めるものとスタイルですか」
あまり予想していなかったことを聞かれ、ライトは考えこむ。
(求めるもの、それは勝利、これは今までもこれからも、ライト・ミドガルズという男が、契約何かが無くても求めるものだ。そして、戦闘のスタイルですか、考えたことも無かった。戦闘と勝利を求めていても、日々の生活では戦闘を主に行動していませんでしたし)
過去の記録と、手に入れた力などを頭の中で振り返り、自身のスタイルを考えてみる。
(正直、正面から戦ってあの竜に、それ以上の化け物共に勝てる気は全くしない……何もよりもヨルに)
ライトは率直にそう思った。
幾ら力を得たところで、勝てるビジョンがまだ全く出来ていないのだ、それは経験の欠如が原因だが、今無いものは無いのだから仕方ない。
思考の末、ライトは一つの作戦を、スタイルを思いついた。
(そうだ……正面から戦う必要は無い、卑怯と邪道の限りを尽くせばいい……どんな相手にも通じるとは言えないだろう。けど、今一番成功しそう、そして、僕が一番得意なスタイルだ)
それは正に常道を外れた考え、一般的にも、白魔としても、ライト自身の『戦闘』というものに対する矜持からしても全く外れている。
だが同時にライト自身が最も多く経験し錬成し、得意としているものでもあった。
気配を殺し隙を突く、敵を誘い罠に嵌める、戦闘の才能の無いライトがただ
そう、言うなれば、
「邪道……いや、外道か?まあ、関係ないですね。決まりましたヨル」
<真っ向から戦うのが好きな我としては、少々納得しかねるぞ?>
「関係ありません。そこまで指定するのは、契約外ですよ」
<言いよるな……まあ、良いじゃろう>
「僕は邪道を進みます。ただ、生きる為に、負けない為に」
<まあ、良いじゃろう、決めたならば曲げるなよ?>
「当然です」
確認は終えた。
ライトはヨルを持ったまま門へと歩く。
「勝手に開くんですね」
<そりゃそうじゃろ、手動だと面倒じゃし>
ライトが歩き出すと同時に門は開き始め、その隙間から溢れていた白光が強くなる。
そして、遂には門を潜り抜けた。
「――うっ、光強い」
<おお~久方ぶりの外界、じゃが、森じゃなぁ>
門を抜けた瞬間、最高潮に強くなった白光にライトは少々目をやられた。
特にヨルには影響がないようだ、そもそもどうやって周囲を見てるのか理解できない。
だって、杖だし。
数分後、
「ふぅ~……この跡、ブレスのだ……そうだっ!」
<何じゃ?ライト>
「イグニティ!イグニティを探さなきゃ!……壊れて無いよな?持ち去られてる可能性も……」
<イグニティとは何じゃ?>
「僕の剣です。全長は150㎝程、灰色の鞘に納まった剣です。フォレストドラゴンに追われてる途中で落しちゃいまして、多分壊れて無いと思うんですけど……」
ライトは落としたイグニティのことを、森竜のブレスの跡から思い出した。
性能からして壊れてないと判断したが、持ち去られているのではと良くない考えが出てきた。
だが、それはない、何故なら此処は森の深部だからだ。
人が来ることは、ほぼ無いと言って良い、そしてライトは片手で振るが、イグニティは70㎏程の重さだ。
通常持ち歩いて行くのはかなり困難である、持ち歩ける種族も限られる為、持ち去られたなんてことは恐らくないだろう。
<蛇王蛇法で探せば良いじゃろう>
「そんなことに使って良いんですか?」
<普段から使わないものは、いざという時にも使えんよ>
「成程、では」
―――
その瞬間、ライトの頭の中に周囲の空間の情報と、イグニティがどこにあるかの情報入って来た。
(なんだこれ、凄い。早速イグニティ取りに行こう)
<うむ、そうだな>
「ああ、思考が筒抜けなんでしたね」
便利だけど、少し恥ずかしい気もするライトであった。
◆◇◆
ライトはイグニティを回収し終わり、周囲を探索している。
だが、全く森竜が現れる気配がない。
「最深部に戻ってしまったのかもしれませんね」
<ふ~む、手始めにライトに倒してもらおうと思ったのだがな>
「でも、居ないなら無理ですよね」
正直、居なくてもいいとライトは思っている。
初戦はもうちょい弱くても良い気がしているからだ。
<仕方あるまい>
「何するんですか?」
<森竜を誘き出す、我に任せよ>
「いや、別に――」
―――
杖から紫色の光球が現れ、弾ける。
その瞬間、
[ク"オ"オ"ォォォーーーーー!!!!!]
「効果早過ぎだろっ!?」
竜の咆哮が森に響く。
ライトはその効力の強さに少し引き気味だ。
<ライト、構えよ>
「っ・・・了解ッ!」
(フォレストドラゴンが来ることはもう決まってしまった、なら全力で試すのみ!)
―――
杖から現れた黒い蛇がライトを包む。
そして、近くにあった巨木に身を隠す。
<まあよいか、自由にやってみよ>
「分かりました」
即座に身を隠したライトに対して、ヨルは何か言いたげだったが、口を
だが、これこそがライトが決めたスタイルだ。
―――
「見える、流石ですね」
杖から現れた白い蛇がライトの腕に巻き付くと、周囲の物体が透けて見えるようになった。
こちらに迫って来ている森竜が丸見えである。
深緑色の鱗が全身を覆う巨大な竜が、迫って来ているのだ。
「何か、デカくないか?」
(僕が見たことがるのは全長15mってとこだったけど、アイツはデカすぎる30mはあるぞ?)
ライトは、透けた視界で見た森竜の大きさに驚く。
だが、今は気にしないことにした。
(特殊な個体だとかは知らない、僕が今求められているのは勝利だけなんだから。さあ、竜狩りと行こうか)
―――
[ク"オ"ア"ッ!?]
杖から放たれた極大の水で出来た蛇が森竜の全体を包み、縛り付ける。
全長30m程の森竜を包むのだから、途轍もない水量であるのは想像に
(第一段階完了、次だ)
―――
「どれくらい効果があるかな」
巨木から離れ、水蛇によって悶え苦しむ森竜の正面に移動してから、雷蛇を放つ。
[――――――――ァ!?]
(ここら辺は魔法と同じで、水と雷の相性はいいみたいだな)
雷蛇は水蛇との相乗効果によって猛威を振るう。
森竜の叫びが周囲に響くことはない。
<ライト、油断するな>
「ん?分かっ――」
[ク"オ"ア"ア"ァァァーーーーー!!!!!]
ヨルが気を抜き始めていたライトに声を掛けた瞬間、水蛇と雷蛇が弾け、森竜の一際大きい咆哮が響き渡る。
「マジッですか!?」
<竜種の切り札『
「了解ッ!」
森竜の表面を覆う深緑色の鱗に紅の線が走る。
(これは、ヤバい。フォレストドラゴンの
[ク"オ"ンッ!!!]
「樹根操作か、然も全方位、回避は悪手。なら」
―――
杖から放たれた無数の
[ヒュゥーーーー!!!]
「ブレス・・・回避は難しそうだ。真正面からぶち抜くしかないか」
森竜の呼吸音が聞こえ始め、ライトは思考を巡らせた。
周囲は今でも樹根が迫り続け、それを蛇が切り刻んでいる為、回避は困難である。
ブレスを相殺するしかない、だが、ライトは気付いていた。
森竜の口内に集束されている
「技の選択を間違ったら即死かな」
(でも、きっと行ける)
だが、不思議と胸の内は落ち着ていた。
[ヴォンッ!!!!]
煌々とした極太の光線、竜種最強の技、ブレスがライトへと放たれた。
―――
ライトの正面に現れた巨大な赤黒い蛇が迫りくる光線を、
「成功だ」
残さず喰らい尽くす。
光線が喰らわれた瞬間に、ライトは森竜へと全力で駆け出す。
(ブレスが連発出来ないのは知っている!)
「決めるっ!!」
遂には森竜の前まで着いた。
ライトは脚に力を込め、一気に跳躍する。
森竜目掛けて、杖を振り下ろす。
―――
杖から放たれた紫黒の蛇が森竜へと吸い込まれる。
[ク"ア"ッ―――………]
森竜は地に伏し、息絶える。
「――っと、終わりましたかね」
<及第点というところかの>
「これは、手厳しいですね」
<我なら一撃で終わらせられたぞ>
(いや、ヨルと一緒にされても……でも、反省点も多かったのは確かだ)
ライトは息を整える。
結局の処ライトは、今回邪道を完全に貫き通せてはいなかった。
(目指すものは、改めて見ると、高いですね……)
□■□■□
蛇王蛇法技録
語り部「杖に変形とか、本当に生物の域から逸脱してるよな、蛇王」
蛇の王「身体の武装化くらいなら、上位者ならば誰でもできるわ」
語り部「その上位者って表現、僕の台本でもよく使われてるけど、何か意味ってあんの?」
蛇の王「ただ自身より上の者であるという意味……ではないな」
語り部「やっぱそうなんだ」
蛇の王「ライトの心情の表現に使う時にはそういう意味で合っているであろうが、我などの一定以上の強者が使う場合は意味が異なる」
語り部「で、どんな意味なの?」
蛇の王「一定以上という部分が重要でな、通常――が限界だと思われている――がそれ以上になった者のことを言う」
語り部「後書きなのに伏字ってありなん?」
蛇の王「仕方ない、一応重要な設定部分だしのう。だが、既に伏せの部分に入る言葉は本編に出ているし、皆の者、頑張って考えよ!」
そんな、見えもしないのにビシッとポーズを決めている蛇の王を語り部は白けた目で見ていた。
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