第12話 習うより慣れよ





「ハアッ!」


《回避術-気配遮断-気配察知-怪力-聡明》



 魔力を循環させ、身体能力を上げ、更にスキルを使用してヨルとの距離を詰める。

 そのまま、自然体のヨルに杖を振り下ろす。

 手は抜かない、抜いても抜かなくてもどちらでも勝てないことは理解している。

 なら今の全力の方が得るものが多いだろうとライトは判断した。

 


「フッ!――って!?」

「ほいっ」

「――クッ!あっぶない」

(素手、然も片手、ヤバいね) 



 杖がヨルに止められた瞬間、空を蹴るようにして跳躍し、距離を取る。



「ほれほれ、かかってこい」

「言われなくてもっ!」

(でも、どう攻めようか……――っ!?……成程、これが仕込みって奴ですか!存分に使わせてもらいますか)



 急に頭の中に、どう杖を扱えばいいのか、複数のイメージが流れて来た。

 それが何か察したライトは、複数のイメージの中から一つを選び、それをもとに本能で動き出す。



「行くぞ」


《杖術:◆級-回避術-怪力》



―――◆級杖術:閃突牙セントツガ



 駆けた勢いを全て杖に乗せ、閃光の如き突きを放つ。

 それは、



「ふむ、先程のより数段は良くなったのじゃ」

「う…そ、だろ?」



 防御すらしてないヨルに傷すら付けることなく、素の身体に止められた。



(出鱈目なっ!?)

「そう、暢気にしていていいのか?」

「しまっ――ガハッ!?」



 ヨルの堅さに驚いているライトの腹にヨルの拳がめり込む。

 そのまま、殴り飛ばされるライト。



「――カッ、ゴホッ、うがぁ……ハァッハアッ」

(一撃が重すぎる、助骨が何本か逝かれた)

「ライト、蛇王蛇法を回復にのみ使用を許可する、さっさと立ち上がれ、かかってこい」

「了…解ッ!!」



―――いやなお聖蛇せいだ



(一瞬で治った、相変わらず凄い力だよ)



 改めて使う、蛇王蛇法の力に驚きながらも、それを思考の隅へ押しやり、手足を軽く動かし、一応違和感が無いか調べる。



(うん、問題無いな)



 確認を済ませ、近くまで転がって来ていた杖を手に取り、構えて再度駆け出す。



「フッ――ラァッ!!」


《杖術:◆級-回避術-怪力》



―――◆級杖術:かた戦刃せんじん昇流ショウリュウ



 杖の先端に魔力を籠め、下から上へ斬り上げるようにヨルへと振る。



「ほいっと」



 事も無げにその一撃を手で受けるヨル。

 その瞬間ライトは、



「シッ!――ハッ!」



 上に投げるように杖を手放し、同時に跳躍する。



「なっ!?」



 杖の先端に籠めていた魔力が炸裂し、杖はヨルの手を支点に半回転してライトの方へと弾き上がる。

 飛んできた杖を掴み、即座に魔力を籠めてから、ヨルの頭目掛けて、全力で振り下ろす。



「――ルァ!!」


《杖術:◆級-回避術-怪力》



―――◆級杖術:型無き戦刃・降流コウリュウ



「良い動きじゃ、しかし、まだまだ荒削あらけずりじゃな」



 ライトが振り下ろした杖は、圧縮され可視化した魔力をまとうヨルの右手に止められる。

 杖の先端に籠めた魔力の炸裂も無く、完全に掴まれた。

 突如、ライトは嫌な予感を覚えた。



「しっ――ウワッ!?」

「対処が愚鈍ぐどん、その程度では実戦で通用せんぞ?」



 反射的にヨルを蹴り、距離を取ろうとしたライトは、蹴りを放つ瞬間にヨルの左手に足をつかまれ、投げ飛ばされる。

 驚きながらも、早過ぎる身体の移動に何とか対応し、床にぶつかる瞬間に受け身を取る。

 しかし、受け身を取ったものの衝撃を殺し切れず、腕を負傷する。



「馬鹿力がっ」



―――癒し治す聖蛇



「ライトが脆いだけじゃ、ほれっ」

(んなわけ、あるかっ!!)



 腕を即座に治し、内心でキレながら、投げ返されてきた杖を掴む。

 一度、落ち着き、警戒を怠らず思考を巡らせる。



(あの程度のフェイントで足りなすぎる、もっとひねりを加えろ。不意を見逃すな、えぐれ!)

「――ハッ!」



 思考を纏め、又も駆け、距離を詰める。

 ライトは感じた、まだまだヨルには届かないと、だからこそほんの一端にでもいいから、己が牙を届かせたいと、魂が震えた。



(今の出来ること、していいことの内で、僕の全力を――ぶつけるっ!!)


《杖術:◆級-回避術-気配遮断-気配察知-怪力-聡明-■□■□Errer


「行きますよ、ヨル」

「かかってこい、我が全て受けてやる」

「その余裕、崩してみせるっ!!」



―――◆級杖術:天水てんすいの三日月



 左上から右下へと、綺麗な弧を描くように杖を振う、杖の軌跡が波打つように空間をゆがめる。

 それを当然のようにヨルは、後ろへのステップで回避する。

 回避されることを知っていたライトは、杖の軌跡から生じた歪みの上に飛び乗り、一気に力を籠めて跳躍する。



―――◆級杖術:閃突魔牙セントツマガ



 ヨルへ目掛け直下で杖での突きを放つ。

 魔力によって形成されたあぎとがヨルを喰らわんとす。



「効かぬぞ」

「予測済みっ!」



―――◆級杖術:型無き戦刃・昇流


―――◆級杖術:型無き戦刃・降流



 魔力の顎はヨルに触れる前に何故か霧散した。

 直感的に突きは効かないことを察していた、ライトは杖をヨルに掴まれる前に引く。

 杖の先端に魔力を籠め、杖を振り上げ、転じて振り下ろす。

 それは、またしてもヨルに避けられる。



「次っ!」



―――◆級杖術:型無き戦刃・薙流ナギリュウ



 杖を斜め上へと強引に振り切る。

 それもまるで知っていたかのように、ヨルは避ける。



―――◆級杖術:型無き戦刃・薙流・三連


―――◆級杖術:型無き戦刃・降流


―――◆級杖術:型無き戦刃・薙流・ニ連


―――◆級杖術:型無き戦刃・昇流



(ほんと、捉え切れないっ)



 ライトの横薙ぎ、振り上げと振り下ろし、その連撃を全て霧のように回避するヨル。

 一撃ごとに杖の先端に籠めていた魔力は、最早魔力が可視化できる程に圧縮され、大きな刃となっていた。



(キツイ、習得したばかりの技に身体が慣れてないせいだ、あとこの杖こんな速度で振るには重すぎる)



 ライトは異常な程の疲労を感じていた。

 初めて使用する技と思った以上に重い杖に、身体が付いて行けていないせいである。

 それほどの疲労をしても、一向にヨルに攻撃は当たる気配はない。



(限界は近い、盛大に全力をぶつけるとしますか)



 魔力も体力も切れかけである為、ライトは決めにかかる。



「次の一撃で決めます」

「それは、楽しみじゃのう」



 ライトの宣言に対し、ヨルは嘲るように返すが、ライトは全く嫌な感じはしなかった。

 言葉や口調は嘲ている、しかし、そのライトを射抜く瞳に見えるのは、確かな期待だった。



「ふぅ~――ッ!!」


《蛇王蛇法-杖術:天級-回避術-怪力-会心-■□■□Errer



―――天級杖術・変異:天喰テンクラウマガヘビ絶牙ゼツガ



 ライト自身から溢れた、濃密な"黒"が全身を包み込み、巨大な蛇と化す。 

 まるで全てを喰らい尽くすと思わせる黒蛇は、大きく顎を開き、その暗黒の牙を覗かせ、ヨルへと迫る。

 それを見て、ヨルは深く笑みを浮かべる。



「良き黒を持っておるわ、我の見込み通りの、な。褒めて遣わす、褒美に我が力の一端、見せてやろう」


《蛇之覇王-蛇王蛇法-武術・蛇道:神級-戦威無為-堅牢堅固-神喰-不動-隔絶-破魔》



―――神級武術・蛇道:不壊ふえ御手みて蛇邪冥命ジャジャメイメイ



 紫黒しこくを纏ったヨルの右手がライトの黒蛇とぶつかる。

 その瞬間、



「――カッ――……」

「まっ、こんなもんじゃの」



 黒蛇は霧散し、その手に触れた刹那せつなにライトの意識は刈り取られた。

 訓練場には、戦闘の後は無く、眠るライトと無傷のヨルが残った。



「これは、全く、面白くなりそうじゃなぁ……くくっ」

 




□■□■□



スキル技録

中級杖術:閃突牙セントツガ 移動の勢いを全て杖に乗せて放つ一直線の突き

上級杖術:閃突魔牙セントツマガ 閃突牙+杖の先端に魔力で形成した顎のようなものを作り放つ突き

上級杖術:かた戦刃せんじん昇流ショウリュウ 杖に魔力を籠め当たった瞬間に炸裂させ吹き飛ばす振り上げ

上級杖術:かた戦刃せんじん降流コウリュウ 杖に魔力を籠め当たった瞬間に炸裂させ吹き飛ばす振り下ろし

上級杖術:かた戦刃せんじん薙流ナギリュウ 杖に魔力を籠め当たった瞬間に炸裂させ吹き飛ばす薙ぎ払い

超級杖術:天水てんすいの三日月 杖の軌跡の空間を歪めさせる 歪みは足場や壁として利用可能 歪みに弾性あり

天級杖術・変異:天喰テンクラウマガヘビ絶牙ゼツガ 虚を纏い大蛇の形に成して行う縦横無尽の突撃 魔力破壊・耐性貫通・防御不可など理不尽な能力あり


神級武術・蛇道:不壊ふえ御手みて蛇邪冥命ジャジャメイメイ 蛇王蛇法を組み込んだ闘気プロエリを手に纏わせ手をほぼ他存在から干渉不可能な状態にする 言わば局所的だが究極の防御バフの術



語り部「いや~流石に強いね、蛇王」

蛇の王「まあ我、王じゃしな」

語り部「で、何で最後の技でライトは意識を失ったんだ?上のスキル技の説明じゃ、ただ手が無敵になるだけなんだけど」

蛇の王「我のスキルの効果でじゃな。スキル-戦威無為ユーズレスで、あらゆる現力イオや防御に理を無効化し、スキル-神喰ゴッドイーターで意識を喰らったわけだ」

語り部「そこら辺のスキルの説明って本編でされる?」

蛇の王「最低でも序章ではされんな。いつかお主が説明することを願う」

語り部「確かに、言うの僕か。じゃ、蛇王のスキル詳しく教えてくれ!」

蛇の王「うむ、良いだろう、しっかり聞くのじゃぞ!」

語り部(あれ?嫌な予感が……)

蛇の王「我がスキルは全部で"10000程"ある!全て覚えよ!」

語り部「あっ――」

蛇の王「先ず一つ目は――


その後、録音機片手に、やつれた顔で蛇の王の話を聞く語り部の姿があったとか。


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