第11話 蛇王蛇法語録
「……ふぇぁ?」
「すぅ……すぅ……」
ふと、目が覚めたライト。
目覚めの要因が陽光ではない為、まだ思考が目覚め切っていないようだ。
「んにゅ~ん?」
「すぅ……すぅ……」
ライトは纏まらない思考の最中、違和感を感じた。
向かって左側から等間隔に聞こえてくる寝息。
同じく左側から感じる、人肌の温もりと柔らかな感触。
「…………んっ!?」
ライトはゆっくりと目を開き、音を立てないように左を向く。
「すぅ……すぅ……」
そこには、ライトの左腕に抱き着くようにして寝ている、
ライトの思考は急速で形を取り戻す。
「っ!?!?」
(よく頑張ったぞ僕!流石に寝ている人を起こすのは良くないからね)
ライトにとって、睡眠とはとても大切なものだ、他の誰にも邪魔されたくない。
同時に他人にとっても重要なものだと思っている。
だから、他人の睡眠は出来るだけ邪魔しないようにするし、自分の睡眠の邪魔をする存在には容赦がない。
その矜持の下、ライトはヨルの姿と存在に驚きながらも、なんとか声を抑え、寝かせたままにした。
(というか、何で裸?ていうか僕もだな。寝る前に僕何してたっけ?)
そう過去を探る思考を、やけに鮮明に、
起きたばかりだからか、それとも男としての本能か、知識が無くともライトの身体は色々と反応している。
(覚えてるのは……ヨルに唇を重ねられたとこらへんまで……かな)
邪魔ある思考の中、過去の行動と状況を振り返る。
如何やらライトは、ヨルとの熱いキスまでしか覚えていないようだ、ん~もったいないなぁ……。
(あと何かちょっと体が
ライトはヨルとは別の違和感を覚えた。
軽い倦怠感を覚え、また全身にスライムを触った後のような若干のべたつきを感じた。
(これは、湯浴みがしたい)
「すぅ……すぅ……」
その不快感に近しい違和感に、即刻お風呂に入りたくなったライト。
しかしながら、腕はガッチリとヨルにホールドされており、微塵も動く気配がない。
寝ていても呆れた腕力である。
(仕方ない、とても忍びないがヨルを起こそう)
ライトは、流石に矜持を捨てることにした。
違和感のせいもあるが、普通に精神的にも厳しいからだ。
「ヨル、起きてください」
「ん……にぁ…ら、いと……か?」
「そうです。ライトですよ」
「おは、ようじゃぁ……」
まだ脳が起き切っていないのか、ふにゃふにゃなヨルである。
初めて会った時の威厳はそこには欠片も存在していない。
「湯浴みがしたいです、ヨル。腕を離していただけると助かります」
「そう…つれないことを言うなぁ、我も一緒に風呂へ行くぞぉ」
「っ……そうですね。では起きてください」
「キスしてくれぇ……そしたら起きるのじゃぁ」
「なっ!?……わ、分かりましたよ」
本格的に頭が働いていないのか、ライトに対して注文をしてくるヨル。
しかし、ライトはヨルの言葉を真に受けた。
ヨルをそっとライトから抱きしめ、自身の唇をヨルの唇と重ねる。
「んっ……んんっ!?」
「んっれろっ……んちゅ……」
唇を重ねた瞬間、即座にヨルの舌がライトの口内に侵入する。
いつの間にか、ヨルの腕はライトの背に回されており、ライトは逃げることが出来ない。
「……んあっ……ありがとうじゃ、ライト」
「あ、うぅ、いえ、あぁ……はいぃ……」
ライトは数分、ヨルに口内を嬲られた。
終わった時には、ライトは既に息絶え絶えである。
「さて、お風呂に行こうか、ライトよ」
「はい…分かりましたぁ……」
◆◇◆
「さてライト!蛇王蛇法の修行といこうか!」
湯浴みを済ませ、ヨルの作ったご飯を頂き、城内の地下、闘技場や訓練場と呼ばれそうな円形の広い空間に来た。
「遂にですか……」
「うむ、ということで、ほれ」
「軽いですね、これ……で、何ですかコレ」
ヨルは、ライトに辞書二冊分の厚みで外側が黒塗りの本を渡した。
本は見た目よりも非常に軽く、文庫本一冊分程の重さだった。
ライトは、その見た目と軽さのギャップに驚きつつも、パラパラと本を開いて中を見る。
内容は辞書のように、色々な単語、主に動詞が並んでいた。
「蛇王蛇法に修行は、いらん!!」
「即刻矛盾したこと言わない!!」
「理由は、蛇王蛇法は発声によって簡単に発動出来るからじゃ!」
「無視するなぁっ!」
「その本は蛇王蛇法語録、通常の蛇王蛇法に使える単語集じゃ!」
「もういいです……」
ライトは、諦めた。
「それをライトには全て覚えてもらう!」
「こ、コレを全て?」
(いや、無理じゃないかな?)
覚えるには流石に多すぎる、無謀だとすら思った。
というか修行ではなく、これでは暗記である。
「通常の蛇王蛇法は、動詞二つと属性や性質を決める
―――
ヨルの手の平から放たれた、炎の蛇が訓練場の壁へと進むうちに段々と増殖し、壁にぶつかる寸前には千を越える程になっていた。
その蛇たちが壁に当たった瞬間、
「――ッ!?あっつっ!?!?」
凄まじい爆発が巻き起こり、城全体を揺らす。
爆発の熱気がライトの全身を覆う。
ライトは、改めて凄まじい力だと認識した。
「……成程、ということは、覚えている単語などが多い程、戦術の幅が広がるというわけですね」
「そういうことじゃ」
「その為の暗記ですか……」
(ゴリ押しが過ぎるのでは?いや、一周回って効率的なのか?)
ライトは分からなくなった。
気分的には、漢字のテストで良い点の取り方を聞いた時に「全ての漢字を覚えればいいです」と言われたような感じである。
確かに間違って無いが、そうじゃないと言いたくなる。
(まあ、ヨルに言われたからにはやりましょうか)
割と無謀であるが、ヨルには従順なライトであった。
「通常の蛇王蛇法はこれだけじゃ。他にも更に強力だったり便利なものもあるが、難しいものもある故、後回しにする。それでは、共に覚えて行こうか、ライトよ!」
「はい、ヨル!」
数時間後。
訓練場には、
「…………」
一人、黙々本を読み続けるライトと、
「ハアッ、ハァ……ン"ッ、アッ……」
その横で、地面に伏したまま頬を上気させ、興奮しているヨル、という混沌とした状況が広がっていた。
「……よし!覚えた!ヨルッ終――え?」
「ハアッ、ら、ライトよ、お、終わったのか…頑張った、の……ハアッ、アッ……」
「…………」
驚異的な集中力と記憶力で、蛇王蛇法語録を覚えたライト、ヨルの惨状を見て絶句である。
だが、原因はライトにもあったりする。
暗記を始めて数分、正直にライトはヨルがウザくなったのだ。
そもそも、暗記なので一人で良いのに、横から喋りかけてくるヨルに痺れを切らしてしまった。
そこで、読んでいたページの使えそうな語で、蛇王蛇法を使ってみたのだ。
使ったのは、
―――
―――
―――
の三つだ。
その三つにより、見えない蛇に縛られ、動けず逃げれもしない状態のヨルが完成した。
そこまでは良かった、しかし一つ誤算があったとすれば、ヨルが
―――蛇王蛇法・解除
「だ、大丈夫ですか……?ヨル」
「ああっ、解いてしまうのか…もう少しやっても良かったのだぞ?」
「……何言ってるんですか。アレはヨルが五月蠅いからやっただけで、ヨルを愉しませる用ではありません。というか何でアレで興奮できるんですか、僕には分かりません」
「今度、ライトにも教えてやるのじゃ、して、蛇王蛇法語録は覚えたのじゃな?ライトよ」
「はい、暗記は得意なので」
今度教えるという言葉に嫌な予感を覚えながらも、ヨルの問いに答える。
ライトは、戦闘に関する才能は皆無だが、それ以外は普通、いや異常に天才である。
多少、知識が少なかったり、
「ふ~む……ふむ、確かに覚えているようじゃな、では戦闘訓練に入ろう」
「蛇王蛇法のですか?」
「いや違う、杖術のだ」
「え?何故ですか?」
ヨルの言葉を聞き、
「蛇王蛇法は覚えてさえいれば感覚で使える」
(それつまり、使う時はぶっつけ本番でやれと?無茶ぶり過ぎる……)
「そして、ハッキリ言っておかねばならぬことがある」
「……何ですか?」
急に真剣な顔になり近付いてくるヨルに、ライトは気を引き締めた。
「ライト、お主には基本的に武器を扱う才能が無い、これっぽっちもじゃ」
「そんなことですか?それくらい分かって――「じゃ!が!」――うわっ!?」
ヨルは更に一歩、グイッやズイッという効果音がしそうな程、ライトに近付き、分かってると言おうとしたライトの頬を両手で挟み込む。
「杖術の才能ならある」
「え?」
「それも物凄いのがの」
「えっ!?……で、杖術って何です?」
驚いたものの、ライトは杖術について知らなかった。
いや、一般的な知識を持つ者でも、その手の武術の研究者でも知らないだろう。
何故なら、杖術は既に[ミルフィリア]では廃れているからだ。
「杖術も知らんのか……我が時代では知らぬ者はいなかったんじゃがの。これも時の流れというものか、では先に杖術について説明しようかの」
「お願いしますヨル、でも先に手を放してくれると助かります」
「おおっと、済まぬ」
ライトは頬に集まった熱を首を振ることで逃がそうとする。
しかし、簡単に逃げることは当然なく、落ち着くのに少し時間がかかった。
「ヨル、もう大丈夫です」
「では、始めよう――
杖術とは、杖を使った武術である。
技術としては棒術の一種もしくは異称であり、犯罪者を捕縛するための捕手術、護身術や自衛武器の技術として発展した。
また純粋な棒術ではなく、戦場で槍や薙刀が折れた場合の技術を伝承しているとの意を込めて槍や薙刀折れの棒もしくは杖として伝わっている場合もある。
まあ、これは皆様の世界の場合の話ですが。
――というような武術のことじゃ」
「つまりは魔法使いが近接戦闘にも出来るように、色々な武術を組み合わせて編み出した術なんですね?」
「うむ、それで良い、幸いライトは身体能力は高いじゃろ?才能に身体が付いて行く筈じゃ。基本的に魔法に似た戦い方になる蛇王蛇法と杖術を扱うのにピッタリじゃ!」
「早速訓練ですか?」
「うむ、ほれっ、受け取れ」
「おっとと!これ、結構重いですね」
ヨルが虚空から取り出し、投げ渡してきた2m程の黒い棒を受け取ったライトは、その重さに驚く。
70㎏程の重さのイグニティを素の身体能力且つ、片手で軽々と振れるライトが重いということは、この棒相当な重さである。
「それは、我が鱗を溶かし、圧縮して固めた物じゃ。大体何が起きても折れぬ壊れぬ、更には
正式名称は、"
当然のようにライトはコレを知らなかったので、ヨルのに聞いて説明を受けた。
「杖術は特殊な方法で、儀式の時に伝授しておいたのでな。我と戦えば自然に理解するであろう」
(特殊な方法……気になる……ん?)
「……そういえば、この祠の外の時間って、どうなってるんですか?」
ライトは気になったことを聞いた。
既にライトの体感では一日は経っているが、外ではどれくらい経っているか、と思った。
「ここと、全く同じだけの時間が流れておる。ライトが来てから丸一日は経っておらんな、恐らく早朝くらいだと思うぞ?」
「成程……体感より時間が経ってない……ありがとうございました、ヨル」
(儀式で変な時間に寝てしまったから、感覚がズレたみたいだな)
ライトはヨルからの話で、正しく自分の状況を理解した
そして改めて、杖術について考えた。
(きっと、ヨルは嘘をついていない、なら確かに僕の中に、杖術がある筈。思うままにやってみるとしますか!)
「始めましょうか」
「良い目じゃ、では、この金貨が床に落ちた瞬間から始まりじゃ」
いつの間にか持っていた金貨を見せながら、ヨルはそう言う。
「了解です」
「行くぞ!」
ピンっと音を立てながら、ヨルの指に弾かれ金貨が飛び上がり、落ち始める。
ライトは腰を低くし杖を構え、時を待つ。
「「…………」」
静寂を辺りが包む。
遂には――金貨が床へと落ちた。
「ハアッ!!」
その瞬間、ライトは勢い良く駆け出した。
□■□■□
蛇王蛇法技録
語り部「――ふぅ、何とかなった」
蛇の王「あぅ……うにゅ~、語り部ぇ……」
語り部「何だ?意外とへばるの早かった蛇王」
蛇の王「やはり主は、我がぁ~隣に立つことを認めた存在、だなぁ」
語り部「これで再確認されんの癪なんだけど、滅茶苦茶嫌だ」
蛇の王「前は、我がリード――「ストップ!」――なんじゃぁ」
語り部「そう言うこと言うな!フラッシュバックするから!」
蛇の王「何を言っておる、さっきだってあんなに激しく求め――「ヤメロ――!!!」――くくっ、身体では勝てても口では我に勝てると思うなよ?」
語り部「アアァァ―――!!!」
語り部の叫びが木霊する、やはり蛇王には勝てないと語り部は再認識した。
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