第10話 お礼の癒し、会得の儀式(意味深)





「ライト、部屋を綺麗にしてくれたお礼にお主を癒そう!」



 その突然の提案にライトは戸惑う。

 食器を洗った後、黙々と掃除を続けたライトとヨル、時間にして二時間ほど経った。

 現在部屋は、ピカピカ、新築並みである。

 


「い、癒す?」

「うむ、と言っても、蛇王蛇法の会得の儀式の下準備じゃがな」

「あ、成程…」



 ライトは納得してしまった。

 先程のだらしない部屋で、多少下がってしまったが、まだまだライトの中でヨルの評価は高い、自身よりも遥かに強いからだ。

 然も契約のという名の信頼の根拠こんきょ?があるからか、尚更なおさら信じている。

 ライトは割と純粋なのである、多少人間不信なところはあるが。



「ほれ、ここに頭を乗せるのじゃ」

「ここって、そこですか?」



 綺麗になったベットに腰掛けたヨルが、自身の膝を示しながら、ライトを誘う。

 ライトには、その意図が今一掴めず、場所の確認をする。



「うむ、我が膝に頭を乗せよ。その前に、お主が来ている軽鎧は脱いだ方が良いぞ、邪魔になる故な」

「分かりました……よしっと」



 ライトはヨルに言われた通りに、邪魔になりそうなマントと軽鎧を外し・脱ぎ、薄着になる。



「では、失礼します」



 ベットに移り、ヨルの膝の上に自身の頭を乗せる。



「ふむふむ、ライトは可愛い顔してるのう、肌も綺麗じゃスベスベじゃ」

(流石に、照れるなぁ……)



 ライトが記憶している限り、同性でも異性でも今ほど他人を近付けたことは無かった。

 

 それは、怖いからだ。

 一度信用した相手であろうとも、裏があるのではないかといつも勘繰ってしまう。

 現在ハジノスで関わっている数人だって、今のような状態になるまで長い月日が掛かっている。

 だが、何故か会って数時間の筈のヨルに、やはりライトは無意識に気を許してしまっている。

 ライトはそれを自覚しながらも、やっぱりヨルを拒絶出来ないでいた。



(何でなんだろう?何でここまでヨルの近くは安心してしまうのかな)



 自身を見ながら、頭を撫でてくるヨルを見返しながら、ライトは言いようのない心地良さに今一度疑問を抱く。

 だが、こんな時もあっては良いのではとも思った。

 ライトは自分自身を理解していると思っている。

 日々、相手を警戒しながら過ごすことで、自分の心が擦り減っていると感じていた、でも止めることは出来ない。

 ならば気を抜く時が必要だと、そして今がその時なのではないかと思ったのだ。



「髪の毛もさらさらじゃの、手入れが行き届いている。これは癖になってしまいそうじゃ」

(この温もりを感じるのは……いつぶりだったかな。ヨルはまだ正直怖いがけど、今は忘れて、もう少しだけ、この温もりを……)

「さて、準備を始めようかの、ライト、左耳を我に見えるようにしてくれ」

「わ、分かりました」


 

 今の一連の行為自体が準備だと思っていたライトは、少し動揺しながらもヨルの指示通りに、ヨルと反対の方向を向き左耳を見せる。

 ライトが動いている間にヨルが虚空から取り出したのは、黒く細長い20㎝程の棒、特徴は片側の端にヘラのような形状になっているのと、もう片側の端にはフサフサの毛玉のような物(正式名称梵天ぼんてん)がついているところだ。

 所謂、耳かき棒と呼ばれる物である。



「では、耳かきを始めていくぞ。儀式では我の声を聞くことが重要じゃからな」

「ヨル、耳かきとは?」

「む?そんなことも知らぬのか、では我が教えよう――



 耳かきとは、耳の穴の内側をこすって掃除する行為。または、その際に用いる先端がへら状になった細長い棒状の道具のことを指す。

 


――というような行為やこのような道具を指すぞ!」

「要は耳の中の掃除のことですね?」

「うむ、その解釈かいしゃくで良いぞ」



 さほど重要でもない知識が、ライトの中に増えた。



「ではこれから耳かき棒を入れていく、あまり動くでないぞ。鼓膜などにブスリといくと治せるが、凄く痛いからの」

「……分かり…ました」

「そう緊張するな……気を抜いて、我に身を任せよ……」


 

 その落ち着かせるような言葉に、一瞬でライトの緊張は溶かされた。

 表現できない心地良さと共にライトは全身の力を抜いた。




 時間にして15分ほど、念入りに両方の耳を掃除されたライト。

 ライトは心なしか、身体が軽くなったように感じた。



「ライト、一度立ち上がってくれ、少し物を取って来るからの」

「あ、分かりました……」



 あまりの心地良さに半ば寝そうになっていたライトだが、ヨルの声で一気に目が覚める。

 直ぐにヨルの膝から頭を退けて、ベットから立ち上がる。



「よいしょっと……ん~と、何処だったか?んん、あったぞ!」



 ベットから移動し、冷蔵庫の中を探るヨル、何かを探していたようだ。

 そしてヨルは、その探し見つけた何かを持ってライトの前に戻って来た。



「ライト、これを飲むのじゃ」



 そう言って、ヨルは手に納まるくらいのサイズの小瓶をライトに渡してきた。

 瓶の表面のラベルには"蝮"と書かれており、ライトには読むことが出来なかった。



「これは?」

「う~む、儀式用の薬と言うところかの」

「そうですか……」

(まあ、害のある物ではないだろうし)

「じゃあ、頂きます……何か、独特な味ですね」



 ライトは飲んだが、特に身体に違和感を覚えはしなかった。

 


(薬なんだから、そんな直ぐに聞く「ハッ」――わっ!?」



 突然、ヨルに押し倒され、ベットへと倒れ込むライト。

 ヨルは倒れたライトを四肢で押さえつけるようにして被さる。



「さて、儀式を始めようか、ライトよ」

「あの、この体勢は……」

(ちょっと、待って、これは、ヤバいっ、かも……)



 頬を撫でるヨルの吐息に、ライトは自身の顔に熱が集まるのを感じる。

 同時に、ライトの思考は纏まらなくなってしまった。



「なに、儀式をする為に、これが最適なだけじゃ」

「儀式って具体的に何をっ」

「我に身を任せておけば良い……んぁっ」

「よっ、ヨルッ!?」

 


 ヨルの細長い、蛇のような舌がライトの首筋を這う。

 その感じたことのない感覚と感触にライトは驚き、ヨルを引き離そうとするが、まるで城壁を押しているかのように微塵も動かせる気配が無い。



(力強すぎじゃない!?)

「久方ぶりに頂く男の身体は実に美味じゃのう」

「はうっ…あ、れ?」



 ヨルの舌が離れ、一時的に安泰あんたいを取り戻したライトは気付く、いつの間にか自身の衣服が無くなっていることに。



「ん?あぁ、儀式に邪魔だから、衣服は奪取しておいたぞ」



 その言葉を聞いてライトは心配する、これは本当に大丈夫なのだろうか、と。

 


「それにしても、良い体をしているでは無いか、ライトよ」



 当然である。

 ライトは自身に才能が無いと知った時から、日々の鍛錬を怠ったことは無い。

 それは、ライトが才能が無くても自身に価値があると証明したいが一心だったが故だ。

 因みにだが、ライトの素の身体強度は軽トラに正面からぶつかられても、余裕で生存できるくらいはある。


 そんなこと、ライトは知る由もなく、今のライトの思考は混沌を極めている。



「そんなに顔を背けるでない。ほれ、はむっ……んちゅ……んっ……」

「んんっ!?んぁ」


 

 ライトの唇にヨルの唇が重ねられ、ライトの口内をヨルの舌が蹂躙する。

 そのドロドロに熱い接吻キスは甘美な快楽と共にライトの思考を溶かす。



「んぁっ、くくっい奴よの、これくらいでとろけた顔しよって……これは愉しめそうじゃ」

「はぁっ、はぁっ……よ、ヨルゥ……?」



 ライトには、こういった行為の体験はおろか、知識すら皆無だ。

 そもそもライトは教育機関に通う時間も余裕も無かったので、最低限の一般常識と、経験から来る重厚な戦闘知識しかない。

 だから、困惑している。

 これが必要なのか、正常な反応・感覚なのか判断できないから。

 今ライトが頼ることが出来るのは、真に残念なことにヨルだけである。



「安心せい、これは必要なことじゃ。我に身を任せておくのじゃ、ライトよ……」



 また、その落ち着かせるような言葉と再度迫るヨルの顔を見ると同時に、ライトの思考は溶け切り、深く深く沈んで行った。



□■□■□



語り部「……何か言うことはあるかな?」

蛇の王「いやぁ~そのぉ~特にないかの……」

語り部「何も知らない少年を誑かし、弄ぶのは、そんなに面白かったか?」

蛇の王「ああ!最高に楽しっ――しまっ!?」

録音機[ピッ]

語り部「はい、言質頂きました。逃げられないぞ、この変態が!」

蛇の王「へっ!?――ハァッ、ハアッ、良いぞ!そんな風に上位者のようにもっと我を罵倒しろ!」

語り部(ヤベ、僕としたことが工程ミスったな)

蛇の王「さ、さあ早く!」


頬を上気させる蛇の王を前に、語り部は思考を巡らせる、果たして、この状況を何とか出来るのだろうか?


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