第8話 誇示の契約、進むは茨の道
ライトは、混乱していた。
何故、自分にそのような申し出をするのか理解出来ないからだ。
というか、展開が唐突で思考が追い付いていない。
「な、何故、そのようなことを?」
[何故?それは、お主に我が力を扱うだけの才があるからだ]
「……御言葉ですが、僕は蛇王様の期待に応えるだけのものは持っておりません。僕には戦闘の才能はありませんので」
これは、ライトの正直な気持ちだ。
己には才能はない、無能だと、言われ続けてきた。
ライトの過去が、
[カッカッカッ、何を言いおる。お主に才がなければ、他に才を持つ者などおらんだろうに]
「え?」
ライトは、またしても蛇王の言葉を理解することが出来なかった。
それもその筈、ライト自身は、自身が無能だと疑っていないのだから。
[お主がどのような風に育ってきたかは知らぬが、間違いなくお主には、他を超える才があるぞ]
「…………」
[それとも、蛇の王たる我の言葉が信じられぬか?]
ライトは、今だ信じられない、たとえ自身を
だが、
「……契約の内容を聞きます。するかしないかは、その後にさせてください」
[カカッ、いいだろう]
話を聞くことにした。
自身でも分かっていないだろう、何故聞く選択をしたのか。
きっとそれは、後に語ることになる、かな。
[して、契約の内容だったか?]
「はい」
[お主には、我が力をもう一度世界に知らしめて欲しいのだ。つまりは我が力を誇示して欲しい]
「誇示?」
[一度は一つの界を統べ『
「誰にですか?」
話の途中だが、思わずライトは聞いてしまった。
ライトは蛇の王についても、『迷いの大森林』の伝説についても全然知らない、施された封印についてもだ。
ライトからすれば、目の前の蛇の王を名乗る大蛇は自分が絶対に敵わない何か凄い存在で、祠の外の森も何か迷いやすくて魔物が強い森程度にしか思っていない。
自身の経験からしてこの祠には、人など簡単には来ることが出来ないと思ったライトは、自分以外に此処に訪れた者がいたことが気になり、聞いたのだ。
[他の『七種覇王』の奴らが、此処から出られぬ我に外界の話を持って来るのだ]
「成程……ありがとうございます。話の続きをお願いします」
[む、分かった]
薄々気付いていたが目の前の
[だから、もう一度世界に我を知らしめたいのだ。それを才あるお主に代行して成してほしい]
「ふむふむ」
[お主には我が力を与え、その命を保証する代わりに、我が力を誇示する機会から逃れることが出来なくなる、というのが契約の内容だ]
蛇王の言葉を
「では、質問をさせていただきたいのですが、いいでしょうか?」
[うむ、いいだろう]
「何故、僕に代行をさせるのですか?蛇王様ならその必要もないかと思いますが」
蛇王は先程一度は界を統べたと言った、ならば今回も自分でやればいいとライトは思った。
何故回りくどく、自分にやらせるのか分からなかったようだ。
それに対して蛇王は、
[同じことを二度やっても詰まらんだろう。楽しみたいのだ、我は。前と同じようにしたならば、それは唯の作業ではないか]
[だから今回は趣向を凝らし、才あるお主を使うのだ]
と、答える。
(詰まるところ、僕にやらせた方が面白そうだからってことか)
ライトは、そう結論づける。
多分そうであろう、この世界の強者はその傾向が強い。
奴らが求めているのは、純然たる結果ではなく、面白味のある過程だ。
敢えてライトにやらせるのも、その一環だろう。
「分かりました。では次に、僕に与えられる蛇王様の力とは、一体何ですか?」
理由についてはこれ以上の情報は無いだろうと判断し、次に気になることを聞く。
[口で説明するより、見た方が早いか]
「蛇王様?」
[動かぬ方が良いぞ、少々危ないからな]
すると、蛇王は頭を持ち上げ、
―――
と、唱えた。
その瞬間、カッと空が輝いたかと思うと、
「おうあぁぁーーーー!?!?」
光る何かが、地面へと落ち、盛大に爆発する。
その威力は凄まじいの一言、かなりの距離、凡そ2㎞ほど離れた地点で爆発したにも関わらず、その爆風でライトが吹き飛ばされてしまった。
吹き飛ばされる刹那、ライトは見た、落ちて、いや墜ちて来た"蛇を模した雷"を。
―――
「ああぁーー――ぉあ?」
[いや済まなかった。久しぶりで少し調節が甘かったようだ]
飛ばされていた体が、クッションのような何かに包まれる感触と共に止まる。
「こ、れは……?」
[それこそ我が力と技、名を『
「…………なる、ほど」
ライトを包むのは、半透明の
飛ばされていた最中に聞こえた言葉から、急に色々起き過ぎて纏まらない思考の中で恐らく風なのだろうと思う。
独特の浮遊感で上手く動かしにくい体を少しづつ何とか動かし、雷の蛇の落下点を見る。
大きく地面が抉れ、クレーターのようになっている。
「凄い威力ですね」
[これでも、抑えている方だ。これはまだ、我が力の一端でしかない]
「………この力を、僕が?」
[うむ、お主ならば、扱いこなせるだろう]
「そう、ですか」
これだけのことが出来てまだ一端という、強すぎる力を何故そうも簡単に自分に扱えると断言できるのか、ライトは疑問に思う。
[怪我はしておらぬか?]
「元々のしか無いです」
[そうか、ならばそれも今治してしまおう]
―――
「なっ、それ大丈夫なんっ!?」
蛇王がまた蛇法を唱えると、ライトの目の前に白く光り輝く、全長1m程の蛇を模したものがライトへと迫る。
[動くと逆に危ないぞ]
「…………」
掛けられた言葉を聞いた瞬間に、まるで彫刻になったかと思う程綺麗に固まるライト。
そんなライトの無くなった右腕へと白き蛇が近付き、触れると眩い輝きを放つ。
「うっ、眩しい」
[…………む?………ふむ、終わったぞ]
溢れる輝きに思わず目を
その直ぐ後に、蛇王から終了の言葉が告げられる。
目を開けると、
「………凄い」
綺麗に元に戻ったライトの腕があった。
それは異常の一言、本来完全に欠損した部位を治療するのには、黒金貨1枚かかるのだ。
然もその治療を受けるには相応の地位、評価や信頼も必要である。
更には、高度な技術が必要
それが、たった一瞬で治されたのだ。
[改めてこれが、お主に渡す力だ。どうだ、素晴らしいだろう]
「はい、凄いです。では、次に命の保障とは具体的にどういうことでしょうか?」
力については取り敢えず、頭の
ライトは今考えても仕方ないことは、後回しにするタイプである。
[お主には、これから我と共に行動してもらう。その間に先程のような怪我や損傷があった場合や『死んだ』場合も全て我が治し、蘇らせよう。無論、それは我とお主の契約が終了するまでの期間全てでだ]
「なるほど……」
「では、最後に、先程の力を誇示する機会から逃れられなくなるとは、どういうことですか?」
[そこまで難かしいことはない。ただ、戦闘から逃げれなくなると思えばよい、決闘からも戦争であろうとも、魔王や神が相手であっても、逆にどんなに雑魚であろうとも逃げる・避けることは許されなくなる、ということよ]
(これは、無理難題を吹っかけてくれる……)
単純明快であるからこそ、それが適応する範囲はあり得ない程に広い。
何が相手であろうとも戦闘を避けれない、それも能動的にではなく受動的に。
然も、誇示するということは、敗北は許されない、敗北とは即ち力を示すことが出来ていないのだから。
そして、死んでも蘇えさせられる。
この蛇王は幾らでも戦えるようにして、勝利する為の力は与えてやるからどんな相手にも負けるな、と言ってきている訳だ。
茨道もいいとこである、されど進んだ後に振り返ればそれは正真正銘の『覇道』であろう。
(けど、結局の処、この道を進むしか無い。この契約を断れば、残る道は"死"だけなんだから)
ライトは気付いていた、選べる道は最初から一つのみだということに。
そもそも、蛇王とライトの間には、今覆せぬ差がある。
この契約も、蛇王がただ気が乗っただけだとライトは考えている。
ならば機嫌を損ねる選択を、契約を断るという選択をした場合自分は、この怪物にいとも簡単に殺されるだけだろうとも。
最初に反射で断ろうとしたが、アレは中々に危険だったと反省している。
ライトは考えを纏め、決まり切っていた選択をする。
「蛇王様、その契約、受けます」
[お主ならば、そう答えると思うたわ。ではこれより、契約を結ぶ、右手を出せ]
「分かりました」
蛇王の指示通りに治ったばかりの腕を出す。
すると、蛇王の
[『これより契約を結ぶ』]
[『我が名はヨルムンガンド、汝が名はライト・ミドガルズ』]
[『我が命と汝が命は共に在り、如何なる時も離れること違わず』]
[『求めるは戦と勝利、対価は命と力』]
[『終わりは、汝が覇に至る時』]
[『これを破ること即ち、双方の死と換わる』]
[『この全てを世界に記す』]
[『契りは覇の王と彩の王の座と共に』]
―――神級契約術:
□■□■□
蛇王蛇法技録
スキル技録
神級契約術:
語り部「さて、蛇王はライトに何を思い、何を感じ、何を求めているのだろうか?」
蛇の王「何なんじゃろうな?」
語り部「いやお前じゃん、ほら、ベラベラと俺より語れ」
蛇の王「嫌じゃ~それだと、面白味がなくなるでは無いか」
語り部「ちょっとだけヒントを頼む、ちょっとだけ、先っちょだけでいいからさ」
蛇の王「その言い方は何か嫌じゃ、何かくれたら注文通りに少しだけヒントを出しても良いぞ」
語り部(現金だな……何かあったっけ?……)
語り部は、自身の収納を探ることにした。
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