第7話 邂逅、蛇の王
「な…に、これ?」
ライトが無我夢中で飛び込んだ祠、そこの内部は外から見て想像した場所と全く別の光景が広がっていた。
色とりどりの花が咲く、見渡す限りの草原。
確かに祠の中の筈なのに、空が見え太陽がある。
あり得ない程の広さで、遠くに真っ黒な山脈が見える以外は特に異常は無い。
いや、外に見えること自体が異常なのだが、今はそれどころではない。
何故なら、
「う、ぐぅっ。ハァ、ハアッ」
消し飛んだ右腕の痛みの方が強いからだ。
先程まではフォレストドラゴンという恐怖で、感覚が麻痺していた。
しかし、その脅威が無くなり落ち着いたら、痛みが蘇ってきた。
何とか意識を保ち、地面に倒れ込んで、己を落ち着かせる。
ライトが痛みに苦しむこと40分程。
感じる痛みが薄れてきた、というか痛みに慣れてきた、というか感覚が麻痺してきた。
何はともあれ、痛みは軽減されたので、行動を再開することにしたようだ。
そして気付く、
「……無い、無い無いんだけど!?」
自身が入ってきた入り口が無いことに。
まあ、お決まりというやつだ。
先程も言った通り、辺りは花が咲く草原と山脈のみ、既に入り口など消えている。
この事態を認めるのに数分かかった、正常な反応だ。
「過ぎてしまったことは仕方ない。これからどうするか、考えよう」
ライトは全てを割り切り、頭を働かせる。
と、言っても物がない、取り敢えずいやに目立つ山脈を目指すことにする。
まるでそこだけ空間が切り取られたかのように真っ黒で吸い込まれそうな山脈だ。
左腕を支えに立ち上がり、バランスの悪くなってふらふらする身体を保ち、ゆっくりと歩く。
「この腕、治すのに幾らかかるかな?最悪、トアさんに泣きつこう」
普通ならば、腕が無くなれば冒険者を辞めるという選択をするところが、ライトの思考には一切そんな選択肢は無い。
腕を治す方法に、心当たりがあるから治すと考えるが、仮に治す方法が無くともライトは片腕で冒険者を続けるだろう。
それは意地かプライドか、
「歩きだしたはいいものの、遠いよな」
花咲く草原を歩み進める中で、改めて目的地が遠いことを認識する。
それは、山脈の全体が見える程なのだ、かなりで済まない程の距離があるのは明白だろう。
「…………ん?」
ふと、違和感を感じ足を止める。
少しだけだが、地面が揺れた気がした。
だが、足を止めた時には揺れを感じることが出来なかった。
ただの勘違いと判断し、再度足を進める。
「……ん?あんな形だったっけ?」
また、違和感を感じた、が足を止めはしない。
何故なら先程の違和感と違って、足を止めなくても確認できるものだからだ。
山脈の形が変わった、とライトは思った。
具体的に言えば高さが減って、横に広がった気がする。
「気のせいかな、きっと疲れて………」
ライトは勘違いではないと理解する。
今、確かに山脈が動き、同時に地面が揺れるのを見て感じた。
足を止め、警戒する。
「どういうっ!?」
ライトの視線の先で、山脈が……山脈と見違う程の巨体のナニカが動き出していた。
そのナニカは、かなりの距離があるゆっくりに見えるが、途轍もない速度で、確かにライトの方へと迫って来ている。
「逃げっ――っぁ…………」
ライトは逃げようとした、が足を止めた……いや、まるで地面に縫い付けられた上に、凍らされているのかと錯覚する程に、何故か足が動かないのだ。
その時、ライトは気付く、己が身体が
そして理解する、自身があのナニカに本能から恐怖を抱いているということを。
「…………」
ライトが動けない間にもナニカは近付き続ける。
遂には、ライトの目の前まで来た。
[
「っ…………」
山脈と見紛う程のナニカは、それはそれは巨大な"蛇"であった。
芸術かのように美しい漆黒の鱗、どんな宝石でも眩むと思わせる金剛のような瞳、そのどちらも今のライトには恐怖を掻き立てる材料にしかならない。
大蛇は問う、「お前は何の為に此処に来たのか」と。
ライトは、恐怖で喉が震え、声を出すことが出来ない。
[再度、問おう。何をする為に此処を訪れた?]
「…………」
全ての見通さんとする、その瞳をライトに向け、大蛇は再度問う。
しかし、又してもライトが答えることはない、恐怖が故に。
[……それは我が『
「ッ!?」
大蛇……
ライトは、己の息の根が止まったと錯覚した、が気を失うことは無かった。
また、このままでは不味いと考え、
「ぼ、僕は……ドラゴンから……逃げている……途中で……見つけた……此処に、身を……隠す、為に……入り、ました……」
震える体を抑えつけ、ライトは真実を語る。
此処で無理に取り
[…………]
「…………うぅ」
されど、蛇王は答えず、沈黙するばかりである。
その沈黙にライトの精神は、まるで音が立ちそうなほどの勢いで削れていく。
[……ふむ、嘘はついていなようだな。ならば、その誠意に我も答えよう、お主、名は?]
「ふぅ……ライト・ミドガルズ、と申します」
[ミドガルズ、だと?]
ライトは蛇王から漏れる覇気が、弱まり落ち着いたのを感じ、心を鎮め名乗る。
だが、ライトの名を聞いた蛇王は、静かに驚嘆する。
[その名、誰から受け継いだ?]
「誰から、とは?」
[そのミドガルズという家名、家名であるからには、その血筋で受け継ぐものであろう?]
「そうと言えば、そうなのですが……僕のは少し特殊ですね、そもそも家名なのか……」
そもそもライトは、一種族の普通の血筋だ。
貴族でも無ければ、家名を得られる程の何かを為したわけでもない。
では、何故ライトには、家名があるのか?それは白魔という種族の仕来りに理由がある。
あとライト、落ち着いているように見えるが、内心ガクブルである。
「僕の種族、白魔には古い仕来りあるのです」
[ふむ]
「僕達の種族の起源は未だ解明されていないのですが、何故かその仕来りだけは忘れられず現代に伝わり続けています。それが『稀に生まれてくる髪の黒き子には、必ずミドガルズという姓を名乗らせよ』と、いうものです」
起源は不明だが、守る仕来り、一体どんな意味があるのだろうか?
[そうか、それにしてもミドガルズ、か。これが運命というものなのだろうな]
「ん??」
ライトはその言葉の真意を理解することが出来なかった。
しかし、先程までの敵意に近しかった覇気は完全に鳴りを潜めているという変化は感じた。
その理由は不明だが、どうしようもなくそれがライトにはありがたかった、主に精神的な意味で。
[ふ~む]
「…………」
蛇王は思案しているようだ。
一体何を悩んでいるのか、それは私の知るところではない……実は知っている。
数分の後、蛇王はライトを見据え、告げる。
[お主、我と契約せぬか?]
□■□■□
蛇の王「我、登場ッ!」
語り部(うわぁ~テンション高ぇ、面倒臭そう)
蛇の王「なあなあ語り部!我、格好良いじゃろう?」
語り部「ああ、格好良いな。"今はまだ"な」
蛇の王「何じゃ?その含みのある言い方は」
語り部「別に他意は無い、あまり気にするな。『七種覇王』第一席様」
蛇の王「う~む、何か納得いかんのう……」
この後、蛇の王は語り部に対して追求するが、語り部はそれを風のようにひらりと避け続けた。
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