第6話 迫り来る竜、謎の祠





[ク"オ"オ"ォォォーーーーー!!!!!]



 凄まじい音と共に大地と大気が震える。



「ッ!?」



 驚くことにそれは、ただ一匹の生物によって引き起こされている。

 何度かこの咆哮を聞いたことのあるライトは一瞬にして自身に迫る危機を理解し、血抜きの終わったアトラスタイラントらしき蛇を無理矢理、魔法袋に捩じ込み音源と逆の方向へと駆ける。



《気配遮断-回避術-聡明-怪力》



 ただ只管ひたすらに全力で、息と気配を殺しながら。



「光の日なのに、然も何でこんな浅いところに”ドラゴン”がっ」



 あまりの想定外に気配を殺そうとしているにも関わらず、小声で不満を漏らしてしまう。



[ク"ア"ア"ァァッ!!!]

「あっ、これはやったかもしれない!?」



 声を出した後直ぐに、竜の鳴き声が聞こえ、竜が移動している証であろう地面の震動の間隔かんかくが短く、そして感じる揺れが大きくなっていく。

 竜が近付いている証拠だ。

 どうやら完全に竜にロックオンされたらしい。



「不味い、不味い不味い不味いっ!?!?」



 いくらライトが常人より圧倒的な速さで走っていようとも、竜とはそもそもの体の大きさが違う、追い付かれるのは自明の理。

 だが、この状況を打開する為の行動を考える為、何とか接触を送らせるようにと足の動きは止めない。



「何種だ、何種なんだ!?フォレストだけはやめてくれよっ!?」



 竜には種類があり、特化する属性や適応する環境によって呼び名が変わる。

 例えば、火属性に特化したフレイムドラゴン。

 光属性に特化したホーリードラゴン。

 豪雪帯に適応したブリザードドラゴン。

 暴風域に適応したストームドラゴン等々、多種多様な竜がいる。

 そして、『迷いの大森林』には属性特化種は全ており、環境適応種は一種のみいる。

 その中、森林域である『迷いの大森林』最強は唯一の環境適応種、フォレストドラゴンだ。

 周囲の木々を己が体のように自由自在に操る力を持つ、『迷いの大森林』は正に奴らにとって最高の環境と狩り場だろう。



[ク"オ"ンッ!!!]

「これは、最悪だ!?くっ、何とかっ!」



 竜の鳴いたかと思うと、背後の地面が隆起りゅうきし始め、そこから大量の木の根が現れライトを拘束しようと動く。



《魔法:初級-聡明-■□■□Errer



―――初級無魔法:ストレングス



「アレッ!?」



 複数回の狩りと血抜き、先程アトラスタイラントとの戦闘とその後の処理によって残り少なくなっていた魔力を使って身体強化魔法を発動させる。

 半ば自棄じきなって発動させた魔法だが、使った本人も驚く程に何故かいつもより効果が高く、少しだけ竜と距離を離すことが出来た。

 しかしながら、逃げられる程では全くない。



「ここからどう――あっ、ヤバイッ!?」



 次の策考えている途中で真横から現れた木の根が左腕に巻き付き、体の動きが止まってしまう。

 直ぐに右腕だけで何とかイグニティを引き抜き、根を切ろうとするが、体勢故に切ることが出来ない。

 幾らイグニティの切れ味が良かろうと、力を入れなければ切れないのは当然だ。

 根がライトの胴より太いのも、切れない要因ではあるだろうが。

 そんな風に足を止めている間にも、竜は近付いてきており、もう距離は数十m程しか無いだろう。

 すると、何故か竜の足音が止まる。



[ヒュゥーーーー!!!]

「この音は、まさかっ!?くっ、切れろ!!」



 そして、突如聞こえ出した呼吸音に、身体が警鐘けいしょうを鳴らす。



「切断は無理だ!引きちぎるしかない!」

 


 何度か試すが、今のままではイグニティで根を切れないと分かり、作戦を変える。

 引きちぎるとうう選択は、はたから見れば無謀だとしか思えないだろうが、ライトにはその選択を選べるだけの力がある。

 万力を右腕へと込めて、体重を使い全身で右腕を引く。

 メキメキと巻き付いた根から音が立ち始め、そして、



「うらぁっ!!よし、取れっ――



 遂には木の根から右腕は抜けた。

 が、しかし、



[ヴォンッ!!!!]



 少し遅かった。

 竜が居るであろう方向から、木々と地面を軽々と吹き飛ばす光線……竜の代名詞、ブレスがライトへと迫る。

 


――ウグッ!?……え??」



 光線はライトの横ギリギリを通って行った

 ギリギリで横に飛び、全身に当たるのは避けれた。

 けれども、伸びていた右腕は他の部位より動きが遅れてしまった。

 その結果、煌々こうこうとした光線に右腕は呑み込まれ、消し飛ばされた。

 痛みはなく、一瞬のことだった。



「………」

[ク"オ"オ"ォォォ――――――!!!!!]

「ッ!?」



 正に茫然自失ぼうぜんじしつという言葉通り、行動を忘れ、止まったいたライトは再度響く竜の鳴き声で我に返る。

 腕が無くなろうと、逃げなければいけない、今度無くなるのは己が命かも知れないのだから。

 再度意識する恐怖で急速にライトの思考は冷めていく。

 


《気配遮断-回避術-聡明-怪力》



 人体に於いて腕とは、ただ物を触り、感じ、扱うだけの器官ではない。

 身体のバランスを保つ大きな役割を持っているのだ。

 それが突如片方欠け、慣れていない状態では、普通ならば走ることなど不可能と言ってもいい。

 そこで、回避術が良い働きをする、ライトが全力で走ってさえいれば、他から干渉されない限り、物理法則を無視してでも転ばないのだから。

 だが、竜の脅威は健在している。



「問題なのは、僕が今何処にいるか分からないことだ」


《気配察知-聡明》



 ライトは、最初に竜の鳴き声を聞いた瞬間に反対方向へと駆け出した、ハジノスへの方向や来た道のことなど考えず確認せずに。

 なので自身が今何処に居るのか分からなくなってしまった。

 この森に既に四年通っているライトでも、適当に移動すると場所が一瞬で分からなくなる。

 まあ、少しでも分かる時点で凄いのだが。

 周囲の別の魔物の方向に行かないよう、スキルを使って探知しながら竜から逃げる。

 そんな中、ライトは前方遠くに、妙なものを発見する。

 


「あれは……ほ、こら?祠!……でも、そんなもの今まで見たことないな……」



 石造りで苔むした円錐えんすい形の建造物。

 正面には入り口のような穴が空いており、その上に遠目なので良く見えないが何らかの模様が彫られている。

 大きさは恐らく一軒家より小さい、小屋ほどのサイズだ。

 身を隠すにしても竜との距離がまだ近い為、すぐバレてしまうだろう。

 苔むしているところを見ると、かなり古いものであるということも分かる、竜に一撃で破壊されそうな感じだ。

 だが何故かライトは、あの祠に惹かれた、命の賭かっている状況にもかかわらず。



「このままでも追い付かれて死ぬだけだ。賭けよう」



 走りながら思考し、結論を叩き出す。

 目的地をあの祠に決め、一直線で進む。

 実際は、木があるのでそれを避ける為、完全な直線ではないがな。



[ク"オ"ンッ!!!]

「来たか、今度は避けきる!!」



 再び、ライトの背後の地面が隆起し、根が現れる。

 一瞬で押し潰されそうな量の樹根を紙一重で回避し続ける。

 駆け、跳び、翻る、ただ直線に移動するだけならば、直ぐに拘束されると考えたライトは上下左右、少し進む速度を削ってでも、捻りを加え避けながら駆ける。

 されど、絶対や完全はこの世に無く、



「――ッ!?クソッ!仕方ないっ!!」


 

 迫り唸る根の一つが、イグニティの鞘の金具に当たり、パキンッと音を立ててそれが砕け、イグニティを落とす。

 落としたと認識した時には既にイグニティは根に飲み込まれ、回収が出来なくなった。

 ライトは、惜しいが自身の命を優先することにした。

 とことんライトには剣の運が無い様だ。

 が、悪いことだけでは無かった、ライトは片手で普通に振れるが、イグニティはかなりの重量がある、70㎏というところだろうか。

 その重さが消えたことで、格段に移動速度と精度は上がっだのだ。



「あと、少しっ!」

[ヒュゥーーーー!!!]



 祠まで後10mほど。

 


[ヴォンッ!!!!]



 背後からブレスが迫る。



「うおおぉぉ!!!」



 全身全霊を尽くし、ライトは、



「と、ど、けっ!!!!!」



 ブレスが直撃する寸前で、祠の入口へと飛び込んだ。



□■□■□



魔法技録

初級無魔法:ストレングス 身体能力を上げる



語り部「ブレスって実際どんな原理で撃ってんの?」

蛇の王「口内に魔力を集めて圧縮し放っているのじゃ、螺○丸とか尾○玉みたいなもんじゃ」

語り部「どっちも同じ作品のじゃねぇか、というか先の方って後の方のを参考に作られた術な気がするんだが?結局一つじゃん」

蛇の王「それで合ってるんじゃよ、今回の森竜のように球状で放つ個体も居れば、ビーム状とか機関銃みたいに連射するタイプの個体も居るしな」

語り部「ほ~もしかして竜以外でも出来たりする?」

蛇の王「我は可能じゃ、人型でも口内でなくても出来るぞ。要はただ魔力の塊を飛ばしてるだけじゃからな、大量の魔力を持つ者なら誰でも可能じゃ――こんな風になっ!」

語り部「か○はめ波じゃねぇか!?」

蛇の王「我がこれから魔力で色々な技を再現してやるから全て答えろ、間違ったらその技を生身で受けてもらう」

語り部「うわ~クソ理不尽……まあ、やるがな」


……読めるので、語ることなし。


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