第5話 アトラスタイラントっぽい強そうな蛇



 木々の間から、目標であろう存在を見る。

 そこには恐らく"10m"を越えるであろう長さの丸太のような体躯をとぐろを巻くようにして寝ている蛇。

 そして表面をおおう鱗は"青みがかった橙色"をしており、一目で危険だと理解できる。

 ライトは一通りアトラスタイラントらしき蛇を見て、



「何か違くない?」



 と小さく呟く。

 依頼書と一緒に見せてもらっていた写真や情報とは全然一致していない。

 写真のアトラスタイラントは"緑がかった橙色"の鱗で、体長は"5m"程と書かれていた。

 その二つの情報両方とも目の前の個体には当てはまらない。



「でも、まあ多分アトラスタイラントではあるだろう。ならることは決まっている」



 多少違っても問題ないと決める、ライト。

 それで良いのかと思う、がアレはアレで何かしらに害になるであろうことは見ただけで分かる、だからこそ別に問題はない。

 覚悟を決め、息を殺しながら、ゆっくりとその蛇との距離を詰める。

 蛇は今だ寝たまま、殺すには絶好の状態だ。

 ジリジリと、蛇が起きないように近付き続け、後1mまで来たところで足を止める。



「………」



 音をたてないように、イグニティを引き抜き、自然体で構え、足に力をめる。

 蛇の頭の位置は地面から2m程、確実に仕留めるならば、跳躍は不可欠。

 観察しそのまま、しゃがみ更に足に力を籠め、ながら魔力を全身に巡らせる。

 そして、



「ふぅ~……ッ!」



 溜めた力を一気に解放し、跳躍する。

 隣で膨れ上がった気配に蛇はカッと目を見開くが、時すでにお寿司。

 軽々と頭部の高さ以上へと跳んだライトは両手でイグニティを持ち、魔力を流しながら、



《気配遮断-剣術:初級-怪力》



 上段から一気に振り下ろす。

 剣筋は悪くはない、けれど良くもない程度だがライトの全力と全体重に魔力を乗せた一撃は、並みの冒険者達の全力をはるかに凌駕りょうがする。

 しかし、その一撃をもってしても、



「マジかっ!?」

[シャァーーーーー!!!]



 蛇の首の三分の一しか切り裂くことが出来なかった。

 その肉の硬さに驚きながらも蛇の体を蹴って飛び、距離を取る。

 


「どうすっ――ヤベェ!」

[シャアッ!!]

「グッ――……危なかった」



 地面に到達する瞬間に自身の左側に感じた気配に危機を覚え、ソレが体に当たる前に何とか間にイグニティを滑り込ませる。

 ゴリッ、とおおよそ剣から鳴ってはいけない音と同時に凄まじい衝撃で体を横へと吹き飛ばされる。

 どうやら、先程のは蛇の尾だったらしい。



「ん?…傷一つ無いな、凄い…てことはあの音は?」



 流石の音に、イグニティを確認するが、そこには傷一つない綺麗なままの刀身があるのみであった。

 と、いうことは、あの音は別の物から鳴ったことになる。

 何から鳴ったか消去法でなくとも理解したライトは、注意深く蛇の周囲を見る。



「お、あったわ」



 蛇の下の地面に数枚の青色の鱗が落ちているのを見つけた。

 やはりあの音は蛇の鱗が削れた音であったようだ。

 都市の外壁に容易く傷を付けるアトラスタイラントの鱗、それを無傷で剥がすイグニティに流石に驚く。

 だが、直ぐに意識を蛇へと戻す。



[シャアァッ!!!]


《気配探知-回避術-怪力》



 巨体に似合わない速度で突進をしてくる蛇を横に跳び、回避する。

 長い身体をバネのような使い方をして、瞬間の速度を底上げしていると考えられる。



「ほっ!とと、速い。何とか動きを止めて、もう一度同じ場所に攻撃を決めたいな」


 

 少しの間の後、再度繰り出される突進を同じ要領で回避しながら、攻め時を見極める。

 この速度では、攻撃を当てることは出来ても傷を付けるには至らないかもしれない。

 何か手は無いかと思考を巡らせる。

 


「う~む、やっぱ力押しが一番か、傷付けないように頑張ろう」



 結局の所は技術があるわけではないので、力押しで何とかすることにする。

 その準備の為、後ろに木がない場所へと徐々に回避しながら移動した。

 そして、目的の場所へと着いた時、



[シュルルゥ――シャアァッ!!!]


《気配探知-回避術-怪力》


「ホイッ!よし、距離取れた。後はタイミングだ」



 ライトは横への回避ではなく、真上へと跳躍し蛇を飛び越える。

 先程も言った通り、蛇の突進した方向には木々がない為、かなりの距離が空いた。

 それを確認してから着地する。



「ふぅ……」



 息を整え、少し姿勢を低くして、イグニティを剣先が地面へと向くようにして両手で構える。

 蛇はこちらへ向き、体勢を立て直してライトを睨み付けている。



[シャアァ…シュルルゥ――シャアッ!!!]


《魔法:初級-聡明-剣術:初級-怪力》



―――初級雷魔法:スタンボルト



「ここだぁ!!!」



 自身と蛇が激突する寸前に紫電しでん纏うイグニティを強引に振り上げる。

 雑だが、所謂いわゆるパリィという剣術の基本的な技だ。



[ジッ!!シュァァ………]



 かなりの重量のある筈の蛇が、上空へと吹き飛び、落ちてくる。

 ドンッ!と、大きな音を立て、地面を揺らす。



[シュ………]



 如何やら蛇は発動した雷魔法の影響と強い衝撃により、今は動くことが出来ないようだ。

 魔法の効果が切れる前に仕留しとめる為、急いで駆け寄り、いつものように首を落とす為にイグニティを蛇の首へと添わせる。



《魔法:初級-聡明-剣術:初級-怪力》



―――初級無魔法:シャープエッジ



 そして、一気に振り下ろす!

 今度は蛇の胴と首がしっかりと別たれ、蛇は永遠の眠りへと落ちた。

 イグニティを振り、刀身に付いた血を飛ばす、いつも通りの行動をして戦闘の興奮を落ち着かせる。

 ライトは深呼吸をする。



「上手くいって良かった。流石に最後のは危なかったよな」



 流石にあの行動は無茶だったとライトは思った。

 成功したからいいものの、失敗したら怪我どころではなかったろう、多分死んでた。

 


「さて、大きいけど血抜きをしよう。今日はこれで終わりかな、魔力が少なくなってきたし」



 これまでの獲物通り、首の切断面に手を当てて魔法で生成した水を入れる。

 このアトラスタイラントらしき蛇は戦闘前に言った通り、10mもの体長を誇る為、その分血抜きに使う水も多く必要だ。

 魔力は時間で回復するが、当然直ぐに戻ることはない。

 既に何度も行った討伐狩りとその後処理でライトの常人より多い魔力も半分ほどになってしまっている。

 蛇を完全に血抜きするにはかなりの魔力を使うだろう。

 魔力が減った状態で『迷いの大森林この森』で行動するのは危険過ぎる為、ライトはこれで今日の探索を止めることにした。

 また、周囲にある魔力を意識的に集め、練り上げることで魔力の回復を早めることも出来るが、今日はもうそこまでする必要はないとライトは判断したようだ。



「これでも、今日の稼ぎは充分過ぎるしね」



 アトラスタイラントの討伐依頼の成功報酬は1万D、金貨1枚である、これだけでも普段の稼ぎより全然多いのだ。

 今日はこれ以外にも魔物を狩れているので、むしろ普段と比べれば多すぎる程だ。

 同じDランク冒険者、いやC・Bランク冒険者でも、今日のライトほど一日で稼げる者は両手で数えれるだけだろう。

 



 10分程掛かって、ようやくアトラスタイラント?の血抜きが終わった。

 大量の水で地面はびちゃびちゃである。

 同時に作業が長かったからか、辺りに血の臭いが広がってしまった。

 魔物は血の臭いに敏感な為、早く退避する必要がある、強力な魔物が来るかもしれないからだ。



「ふぅ~じゃ、来た道を――」

[ク"オ"オ"ォォォーーーーー!!!!!]



 突如、何らかの生物の咆哮ほうこうが森を揺らした。



□■□■□



魔法技録

初級雷魔法:スタンボルト 微弱な雷を放つ又は纏わせる

初級無魔法:シャープエッジ  対象の切れ味を上げる



語り部「蛇王的には、同族が殺されるのはどうなの?」

蛇の王「全然問題無いのじゃ、この世は弱肉強食、負けた方が悪いのじゃよ」

語り部「ああ、そういう感じね」

蛇の王「だからと言って、無闇矢鱈に命を奪うのは好ましくない」

語り部「戦闘はいいけど、殺戮は駄目な感じ?」

蛇の王「まあ、そんなことじゃの」

語り部「因みに暴力はどんな判定?」

蛇の王「戯れじゃ」

語り部「スゥーー、そうっすかぁ~。――戯れパンチ!」

蛇の王「甘い」

語り部「う、うぎゃぁぁ!痛い痛い!腕が引きちぎられるぅー!」


展開からして、この後に倒れ伏す語り部としたり顔の蛇の王の構図が出来上がるのは自明の理である。


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