第3話 人の少ない日のギルド



 ある二柱ふたはしらが話し合いをしている頃。


 ライトは自らの新たな剣、イグニティを背負って満足そうな顔で通りを歩く。



「さて今日はどんな依頼を受けようか」



 明るい声でそう呟きながら自身の考えを纏め、次の目的地、ギルドへと向かう。



 歩いて20分程。

 視線の先にあるのは木造の大きな建物。

 この世界でギルドと呼ばれている建物だ、正式にはギルド会館と言う。

 ギルド会館はギルド協会の運営する、冒険者のサポート施設しせつみたいなものだ。

 そんな建物に近付き閉じている両開き戸の扉の右側を引いて開け、中には入る。



「やっぱ人は少ないね。いつも通りだ」

 


 かなり広い内部に人は殆ど居なく、シンとしている。

 正面には受付、右側には依頼が貼ってある掲示板、左には軽く談話できそうな場所、更に奥には併設された酒場がある。

 ライトは人が少ないことを確認する。

 このギルド会館に現在人が少ないのにはしっかりと理由があり、ライトはそれを知った上でこの日を選び、今日の予定を立てていた。


 ここでこの世界ミルフィリアのことをちょいと説明しよう。

 一年は十二の月で構成され、一月ひとつきは一律31日、計372日で一年。

 一週間は火、風、水、地、光、闇、無の7日で、一日は24時間、一時間は60分、一分は60秒、基本は見ている皆様の世界と変わらない考えて頂ければ。

 続いて通貨は銅貨どうか鉄貨てっか鋼貨こうか銀貨ぎんか金貨きんか白金貨はっきんか黒金貨こっきんかで単位はDディア、銅貨が1D、鉄貨が10D、鋼貨が100D、銀貨が1000D、金貨が1万D、白金貨が10万D、黒金貨が100万Dの価値になる。

 そこいらのレストランでお腹いっぱいになるくらい食べるには鋼貨六枚ほどあれば十分、それを基準に大体物価を予測してくれ。

 後は法律等、これは基本的に皆様の世界と変わらない、けれど奴隷制度は存在する。

 死刑以外は基本奴隷堕ち、世界全体の犯罪率はまちまち。

 長さや重さの単位も皆様の世界と同じだ。

 これらのことはこの世界ミルフィリアのどの界でも通用にする、まあ常識というものだ、覚えておこう。


 この日は冒険者の休日と呼ばれ、毎週の光の日のことだ、つまり今日は光の日。

 光の日は魔物が大人しくなる、神々が決めた法則の為だ、代わりに闇の日は格段に魔物が狂暴になる。

 魔物が大人しい、それ即ち冒険者にとっては獲物が現れないということ、それにともない当然稼ぎも少なくなる、だから光の日は冒険者が休むことが多い。

 ライトは此処の普通の冒険者からは嫌われている為、厄介なことが起こらないように冒険者が少ないこの日や他の日でも冒険者が少ない時間にこうしてギルドに来ている。

 そんな理由で人の少ないギルドを見ながら受付へと真っ直ぐ歩いて行く。

 本来なら人が多い為、人を早くさばく用にかなり大きい受付には現在一人しか人が居ない。

 紫色の方の少し下くらいまでの長さの髪をサイドテールにし、全体的に緩い雰囲気漂う豊かな胸を持つ垂れ目の女性。

 身に着けている制服からギルドの職員だと分かる、所謂いわゆる受付嬢という者だ。

 そんな女性の許へライトは歩いて行く。

 近付くとその女性は、



「ライト君だっ!!今日は来ないかと思ってたのに!いやぁ~お姉さんテンション上がっちゃうな~」



 遠目からの雰囲気とは異なる高いテンションの女性に、いつも通りだな、という感じの苦笑を浮かべる。

 そしてその女性の言葉を流しながら口を開く。



「今日は久しぶりに討伐依頼を受けようかと思いまして」

「ら、ライト君がとっ討伐依頼!?だ、大丈夫?熱とかあったりしない?」



 ライトの言葉に驚き、本気で心配そうな声である意味失礼な返答をしてくる受付嬢の女性。

 その返答に対して少し不満の言葉を返そうとすると、



「流石にそれはライト君に失礼だよ。ナイア」



 受付の奥から声がした。

 その声が聞こえた後に奥から少女が出てきた……訂正しよう、少女に見えるがれっきとした女性だ。

 紅蓮のような色の膝下まであるわれた長髪、切れ長のつり目、ピシッとしたギルドの制服、全体的に出来る人という雰囲気のライトよりほんの少しだけ背の高い少――女性。

 その女性の声がした瞬間、紫髪の女性……ナイアの体はビクッと反応する。



「で、でも」

「でももヘチマもない。ごめんねライト君、うちのナイアが」

「そう言われても仕方ないと自分でも分かってますし、大丈夫ですよ。トアさん」

「ホントにライト君は……ナイア、良さげな依頼持って来てくれる?」

「はっはい、副マス」



 紅髪の女性……トアの言葉に大人しく従い、受付の後ろへと歩いて行くナイア。

 副マスとは、副ギルドマスターの略であり、トアはこのギルドで二番目に偉い、見た目では判断してはいけない。



「さて、ナイアも奥に行かせたし……ライちゃん、本当にだいじょぶ?姉さん結構心配なんだけど」

「はぁ……大丈夫ですよ。しっかり準備して行きますし、油断はしません」

「う~、まあライちゃんがそう言う姉さん止められないんだけど、本当に気を付けてね?」

(僕の前でも、もうちょっと威厳あるって言うかしっかりした風に出来ないのかな?)



 さっきまでの厳格な雰囲気をサッパリ消して、緩くそして近い感じで話しかけてくるトアにもう少し、自分の前でもしっかりして欲しいと思う。

 ライトは軽く自身を抱きしめてくる、トアから逃れる様に他の場所へと目を向け、依頼の貼っている掲示板に見慣れない男女?少年少女の方が合ってるだろうか、が居ることに気付いた。

 唯時間が合わなくて自身が知らないだけかとも思ったが、気になったので訊いてみることにした。



「トアさん。あそこの三人、新人ですか?」

「んにゅ?そうだねぇ、有望株の子達だよ」

「へぇ、トアさんが有望株って言うことは相当ですね」

「才能は勿論ある。けどあの子達の良いとこはそこじゃなくて、自分達の実力をよく理解しているってとこ。だからこそ今日もこうしてギルドに来てるし」

「成程、一番重要な能力があるってことですか。いいですね」



 全く、自分とは違うと思う。

 でもそれを口に出したり、当たったり、不満に思うことは無い、己は己、他人は他人だと既にライトは理解しているから。

 密かに彼女らが、上手くいくと良いなと願っておく。

 因みにだが、ギルドの登録は10歳以上からで、12歳未満は登録に保護者又はそれに準ずる人物の同意が必要である。

 

 そんな感じに有望な新人達を観察していると、受付の奥からナイアが帰って来る。



「副マス、持って来ました」

「ご苦労、はい、ライト君。どの依頼を受ける?」

「そうですね……」



 ゴブリン、コボルト、オーク、リザードマン等、人型。

 キラービー、キリングスパイダー、ベノムワーム、十頭百足むかで等、むし

 スナイパーオウル、ジェットクロウ、サウンドチキン、空斬りつばめ等、鳥。

 そして、サイトスネーク、アースイーター、ベリルマンバ、妖艶女蛇ヨウエンメノヘビ等、蛇。

 多種多様な依頼がある中で、ライトが選んだ依頼は、



「アトラスタイラントにします」

「いやそれ、ランクB依頼なんだけど……」

「別に受けちゃいけない訳じゃ、ありませんよね」



 冒険者の依頼にはランクが決まっており、基本的には依頼に書かれたランクと同ランク冒険者が行くことが望ましいとされる。

 まあ、望ましいだけであって別に合わせる必要は無い、むしろ危険は伴うが自身のランクより上の依頼を受けた方がギルドからの評価が上がり、通常より早くランクアップできる。

 ランクが上がると色々と責任が増えたりするがその分特権やサービスが受けれる為、皆が上を目指す。

 後、当然魔物にもランクがあり、ライトが選んだ依頼の魔物、アトラスタイラントは外壁を軽々しくぶち抜く鱗に鋼を容易く溶かす強酸、最近Aランクに格上げが検討されているBランクの蛇系の魔物だ。

 とてもでは無いがDランクの冒険者が倒せるような魔物では無い、けれど例外というものは存在する。



「ねえ、姉さんっいいでしょ?」

「っ!?うんうんっ!良いよ!全然許しちゃう!」

「副マス……」

「全く、ちょろいね」

「ライト君……」



 悩むトアにススッと近付き、甘~い声で囁くと、直ぐに許可を出してくれる。

 そんな二人をナイアが呆れたように見ていたとかいなかったとか。

 副マスがそれで良いのかと思うが、これも一応信頼あってのこと、決して姉と呼ばれたことが嬉しいからとかではない、無いったら無い。



「ナイアさん、手続きお願いします」

「はい……ホントに気を付けてね?」

「分かってます。僕もそこまで楽に行くとは思ってる訳じゃありませんから」

「あ、ライちゃ――ライト君、これを持ってくと良い、アトラスタイラントは大きいからね」

「魔法袋ですか、ありがとうございます……では、行ってきます」



 言葉はいつもと変わらず、だがその顔は真剣そのもの。

 自信と警戒、後ほんの少しの恐怖を胸にギルドを出る。



□■□■□



語り部「なあ、魔物って、一体何なんだ?」

蛇の王「はぁ、またか……まあよい、乗ってやろうかの」

語り部「流石、やっとわかって来たな!皆、ちょっとネタバレ含むから気を付けてね!」

蛇の王「魔物とは正確に言うと、『六天魔王ろくてんまおう』の残滓である”瘴気ミアズマ”というもの。それによって、変質してしまった魔力マナ、通常"負の魔力"と呼ばれるものを取り込み変異した生物を指す」

語り部「正確にはってどういうことだ?」

蛇の王「まあよくあることじゃよ。竜種のような変異していなくとも強い生物や瘴気そのものを取り込んで重度の変異した生物、それらも魔物と呼ばれることがある」

語り部「ああ、成程。正確にはそうじゃなくても似てるからそれだと見なす奴ね。てことは蛇王は、魔物じゃない?」

蛇の王「そうじゃ!我は魔物のような穢れた奴等では無いのじゃ!!『六天魔王』のような雑魚の系列の存在ではない!」

語り部(あ、これ長くなる奴だ)

蛇の王「我は古にて神々を喰らいて、円環を司る、蛇を統べし覇なる王。悪意の始祖だなんだという―――


その後、長々と自分語りを始めた蛇の王を、録画を取りながら聞く語り部の姿があった。


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