第2.5話 不滅なる剣



「さあ、何か言うことがあるんじゃないですか?『ヘファイストス』」

「え?あっ、その……黙っていて申し訳ありませんでした」

「良くできましたね。で、何がどうなったら、ライト君に"神器じんぎ"を渡す状況になるんですか、大体王蛇鉱石をライト君が持って来たってどういうことですか!」



 ライトが去って行った後のヘイス鍛冶工房。

 先程までの楽し気な雰囲気から一変し、緊迫感が漂っていた。

 その理由はファイスがライトに渡した剣『イグニティ』にある。


 『イグニティ』について話す前に、先に王蛇鉱石のことを説明しよう。

 王蛇鉱石は太古に存在したと言われる、蛇の王の力の残滓ざんしが永い時間を経て鉱石化したものだ。

 特徴はその希少さ、加工のしにくさ、採掘難易度の高さだ。

 鉱石の出来る経緯から鉱石として形になる場所は散り散り、量も不定、それ故希少である。

 また、途轍もなく加工が難しい。

 彼の蛇の王は山脈より大きな体躯、万物を物ともしない鱗を持つと言われている。

 その他にも数多の世界を滅ぼしたとか、神や悪魔を喰らい糧にしたとか信じられない逸話いつわばかりだが、その中に万物を無効化しているのは彼の蛇の王自身の魔力であるというものがある。

 正確には魔力ではないが、これはおおむね正しい、彼の蛇の王の特殊な力によってあらゆるものを無効化している。

 鱗は圧倒的な強度を持つのみで特に能力は持っていない。

 この特殊な力というのが、鉱石になる経緯から想像は容易たやすいが鉱石にも残っている為、生半可な技術や力では加工できない。

 それこそこの世界ミルフィリアには両手の指で数えられるくらいしか加工できる者は居ない。

 ではそれを成した、ファイス……ヘファイストスとは一体何者か?まあ、読んでいる皆様はもう分かっていると思うがな。

 


「ライトは迷いの森で偶々たまたま拾って手に入れた。と言っていた、かなり、いや奇跡と言って良い程今回は運が良かったみたいだ」

「それはそうでしょうね。王蛇鉱石の周りには強力な蛇系の魔物がうじゃうじゃと居るのが基本ですから、偶々で手に入れられる物な筈ないのですけど」

「本人がそう言っているんだから、そうなんだろうよ」

「まあ、ライト君は嘘付くの下手ですし本当なんでしょうね」

「その後、儂の処に持って来て「剣をこれで作ってくれ」と言って来た訳だ」

「ライト君、また剣壊したってことですか?」

「ああ、根元から綺麗に折れていたぞ」



 王蛇鉱石は残っている蛇の王の力の欠片や気配に強力な蛇の魔物が確実に集まる、その為"偶々"で手に入れることなど不可能である。

 鉱石本体も圧倒的硬度と重量を誇り、常人には到底持てない。

 更に鉱石である為、埋まっている、つまりは落ちている訳も無ければ、拾うことなど以ての外なのだ。

 運ぶことに関しては白魔で説明がつくが、それ以外は詳しく知る者からすれば荒唐無稽こうとうむけいに他ならない。

 まあ、現在その話をしている二人は他に気になることがあるからか、気にした様子は無い。


 でだ、そんな感じの王蛇鉱石を加工し、インゴット状にしたものをセルピエンテという。

 王蛇鉱石そのものよりかは加工しやすくはあるがそれでも、化け物級に加工しずらい……が出来上がる物はそれはもう素晴らしい性能になる。



「ふむ、ライト君が王蛇鉱石を持って来て剣を作ることになった過程は分かりました。で、何故"神器"にしたのですか?」

「…………………が来たんだよ」

「ん?聞こえませんでした」

「『ナイアーラトテップ』が来たんだよ!『アポロンッ!!』」

「何故ここで混沌神が?」

「知らんっ!だがナイアーラトテップに神器を作れと言って来た。流石に"概念がいねん世代"の混沌神様に言われたんじゃ、儂も断れんかった」

「あのトリックスターが動きましたか、して、何と言っていました?」

「とんでもねぇこと言っていきやがったぜ?"新たな王への贈り物"だとよ」

「なっ!?」



 ヘファイストスが告げた言葉を聞き、ポロン……アポロンは驚嘆きょうたんを禁じ得ないという表情をする。

 新たな王とは?反応から唯の国の王という訳では無いのは明白だ。

 では、この二人の間で使われている"王"とはどういう意味なのだろうか?



「王とは……まさか『八彩鉱王はっさいこうおう』ですか!?」

「そうだろうよ。今、埋まっているのは『赤銅の王ロート』『青鉛の王ブラウ』『黄金の王ゲルブ』『紫鋼の王リーラ』『橙鉄の王オランジェ』『緑銀の王グリューン』の六つだ」

「そして埋まっていないのは『黒剛の王シュヴァルツ』と『白剛の王ヴァイス』のみ……」

「『黒剛の王』と『白剛の王』は対の王、片方が存在しなきゃもう片方も現れねぇのは当然だ」

「ライト君は………」

「恐らく『黒剛の王』の方だろうな。見た目まんまだし」

「なんてことですか……ライト君はつくづく騒動に愛されている様で」

「違いねぇ」


 

 途轍もなく実感の籠った声色で呟き、二人……二柱はこれから災難が降り注ぐであろう少年に同情の念を贈る。

 『八彩鉱王』について語るのはまた今度とする、が言うことがあるとすれば『黒剛の王』と『白剛の王』は別に対という訳ではない、いや、間違いでも無いか?

 『白剛の王』は『黒剛の王』の強すぎる力を抑制する為に、本来七つしか無かった王の座に新たに捻じ込まれた王の座である。

 ………何故、そんなことを知っているか?それは今、語るべきではないだろう。

 


「……神器を作った理由は分かりました。仕方が無いのも理解しました。ので、あの神器の本当の名は?」

「『不滅剣イグニティ』…それがあの剣の本当の名だ」

「『不滅』ですか……能力は絶対に壊れないってとこですか?」


「広義的に言えば当たりではある、イグニティの能力は『森羅万象への完全耐性』何が起きても消滅することは無い、それこそ恐らく"開放"すれば破壊神様でも無理だな。正しく『不滅』という言葉がピッタリなチート能力だ」


「何ですそれっ!?ヘファイストス!貴方そんな剣いつも作ってるんですか!?」

「んなわけあるかボケがっ!!あんな化け物作ったのは今回が初めてだよ!!」



 アポロンから向けられた疑惑の視線に、心外だと返すヘファイストス。

 幾らでもこんな化け物のような武器を量産できると思われるのは流石に、鍛冶師として嫌だったらしい。

 少しすると顔を怒りに染めていたヘファイストスは、切り替えたように若干悔しさを滲ませて言う。



「けど何故か"開放"後の能力や代償が全く分かんねぇんだ。推測するにナイアーラトテップが何か仕込んだか、セルピエンテを使った弊害へいがいだろう」

「それはセルピエンテを使った弊害で間違いないでしょう。九割九分の確率でそちらです」

「何故そこまで断言できる?ナイアーラトテップの方も充分あり得るだろ?」



 自身の推測の片方を「それはない」とほぼ完全否定され、ちょっと不満顔で言葉を返すヘファイストス。

 そんな彼をまるで気にしないでアポロンは語る。



「いえ、ナイアーラトテップでは恐らくありません。彼女は一つのことに集中すると周りが目に入らなくなりますから、今はきっとライト君に夢中でそこまで頭が回ってない筈ですよ」

「流石、幼馴染だな」

「……そう云えば確かヘファイストス達、"現象世代"は彼の蛇の王を見たことが無いんでしたっけ?」

「ああ、俺達が生まれた時にゃ既に蛇の王は倒された後だったからな」

「丁度良い、今日は彼の蛇の王に付いて語りましょう。あの創造神様と破壊神様をして"怪物"と言わしめた。存在の話を」



 その後の二柱の会話は、日が落ちるまで続いたという。



□■□■□



語り部「お前……昔に何してたの?」

蛇の王「なに、若気の至りと言う奴よのう。――というかお主は知っているだろうが!」

語り部「ハハッ、何を言っているんだい?僕には分からないなぁ?」

蛇の王「はぁ~この、馬鹿者が!我が力をもってして、その性根、”叩き潰して”やる!」

語り部「あれ!?”叩き直す”じゃなくて”叩き潰す”って言ったよね!?それ俺死ぬっ」

蛇の王「避ける出ないぁーーい!」

語り部「理不尽すぎるぞ蛇王ッ!?」


その後、最早戦争と呼べる追いかけっこが行われ、クタクタになって二人とも倒れるまで、あと一時間。


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