第2話 何か凄い、新しい剣



 ライトは窓から入る、暖かいの光で目が覚める。

 これはいつものことで、陽の光のお陰で朝から特に問題なく行動できるのだ。



「よし、今日も頑張りますか」



 意気込みをしっかりと言葉にして、体を起こして行動を始める。




 着替えを済ませ、食堂へと向かう。

 教室二つ分の広さの食堂にはまだそこまで人は少なく(まだ日が上がってそう時間が経ってないので当然なのだが)何となく閑散かんさんとした雰囲気ふんいきだ。

 そんな空間の左の側にあるカウンターに行き、奥に居る人物に声を掛ける。



「おやっさん、何時いつもの頼みます」

「おうっライトか!今日も頑張れや!ほいっ何時ものな!」

「ありがとうございます」



 その人物は声に反応して食事の乗ったお盆を渡してくる。

 金髪の角刈りで盗賊のように凶悪な顔の大男、一見しなくても悪人だと思えるようなその人物の名はマルク。

 この緑円亭の店主であり、元Aランク冒険者だ。

 マルクの見た目で緑円亭はマナーの悪い客は滅多に現れず、現れても直ぐマルクに力で叩きのされ追い出されることになる。

 更に見た目からは想像できないが途轍もなく料理が上手く、評判も良い。

 あと正直、凶悪な顔のマルクの娘であるシアがあそこまで可愛く育つことに驚きを禁じ得ない。



「何時もの場所にっと……流石おやっさん。今日も美味しそうだ」



 ライトは入口に一番近い窓際の席に座る、此処は基本的に空いていたらというかこの時間帯は人がほぼ居ないので実質ライト専用席になっている場所だ。

 そこへと座り、手に持つお盆を目の前のテーブルに置き感嘆の言葉を漏らす。



「いただきます」



 シンプルなかぼちゃのポタージュ、見るからにふわふわそうな白いパン、トマトとレタスの簡素なサラダ。

 言葉にすれば質素と考えられるそれらはシンプルだからこそ、料理人の腕の良さが出る。

 まあ、今一心不乱にそれらの料理を食べているライトはそんなこと露程つゆほども気にしていないのだが。



◆◇◆



 朝食の後、何時もの軽鎧とボロボロのマントのフードを被り、腰に長剣を背負い、まだ人の少ないハジノスの街の大通りを歩く。



「先ずは……ファイス爺のところに行こう」



 行く場所を決め、軽やかな足取りで進み続ける。

 



 30分程大通りを進み、目的の場所が見えてくる。

 レンガ造りのそこそこ大きさの堅牢けんろうな建物、上部に煙突からはもくもくと煙が噴き出ている。

 デカデカと看板には『ヘイス鍛冶工房』と書かれており、そしてそれが目的地となるあの建物の名前だ。

 その工房へと近付き、慣れた動作で入り口である大きな扉を開ける。



「いらっしゃいませ、ってライト君ですか」

「どうもポロンさん、ファイス爺は居ますか?」



 何処を見ても必ず武器が見える、外よりも幾らか温度が高い如何にもという雰囲気の工房内、そこで何やら棚の整理をしていた女性が入って来たライトに会釈と共に挨拶をしてくる。

 特徴的な長耳に橙色の長髪を後ろで纏めた褐色肌の長身な女性、ぞくにダークエルフと呼ばれる種族である。

 そんな彼女、ポロンに目的の人物が居ないかと訊く。



「ああ、確か依頼の品が出来たとか言ってましたね。ファイス師匠!ライト君が来ましたよ!」

「おおっ!来たか来たか!待っておったぞ!」



 ポロンの呼びかけの後、直ぐに言葉と共にカウンター奥の扉を開け放ち男が現れる。

 名をファイス、既に初老という感じだが全身から生気が溢れる、正に鍛冶師という見た目の爺さんである。

 特徴は顔や雰囲気からかなりの歳ということが分かるのに、その身長は小柄なライトより低いというところだろう。

 まあ俗にドワーフと呼ばれる種族だ。



「お前さんがあの素材と引き換えに依頼した剣、出来上がっとるぞ!いやー久しぶりに良い仕事だったわい」

「そうですか!では、早速見せてもらえます?」

「こいつじゃ」

「へ~そんなの私、聞いて無いんですけど?」

「気にするな!素材は残っとるから、お前にも渡してやるわ」



 ポロンとファイスの会話は既にライトの耳には入っておらず、意識の全てはカウンターの上に置かれた剣へと注がれている。

 刀身は灰色の鞘に収まっており見ることが出来ず、黒紫色のグリップ握りガードのみが見えている。

 全長は150㎝程で、そのうち刀身は120㎝程、ロングソードより長いがツーハンドソードより短い、所謂バスタードソードに分類される剣だ。

 その剣を手を取り、鞘から抜き放つ。



「っ!?…………」

「何て美しい刀身、流石は師匠ですね」

「そうだろう!儂も"セルピエンテ"を扱うのは久しぶりだったからの、久々に本気出したわい!」

「"セルピエンテ"って師匠ッ!?まさかこの剣"王蛇おうだ鉱石"使ってるんですか!?」

「そうだ!」



 尚、この会話もライトの耳には入っていない。

 想像より重かった剣を一瞬思わず取り落としそうになるが、そこは白魔、想像より上だっただけなので直ぐに力を入れて持ち上げた。

 そして流れる様に抜き放った刀身に言葉も出せず、見惚れている。

 青紫色の銀河のような吸い込まれるのではと思う程に綺麗な刀身、ガードの直ぐ上には八芒星オクタグラムに似た魔法陣が刻まれていた。

 


「……ハッ!」

「片手とは流石だの、かなりの重量がある筈なのだがな?」

「フッ!シッ!……良いですね。ありがとうございます、ファイス爺」


「その剣の銘は『イグニティ』お前さんが持って来た王蛇鉱石に更に複数の希少鉱石を使った、唯只管ひたすらに重く、硬く、壊れない、そんな剣だ。勿論もちろん切れ味も抜群、依頼通りだと思うがどうだ?」


「完璧です、けど他の鉱石も使ったんですか?かなりの金額になったんじゃ……」

「なに、気にすることはない。お前さんの王蛇鉱石の量ならこの程度、余裕でお釣りが来るわ」



 しっかりとイグニティを握り、片手で数回振るう。

 その後、喜色満面きしょくまんめんの笑みでファイスに話しかけると、一転して不安そうな顔になる。

 が、ファイスからの言葉を聞き、また一転して安堵した表情となる。

 因みにこの剣を作ることになったのはいつも通りのことに偶然が重なった結果である。

 ライトには剣を扱う才能が無い為、上手く剣を扱うことが出来ず、更に白魔の筋力もあり負荷がどうしても掛かってしまい、よく剣を折ってしまっていた。

 折る度にヘイス鍛冶工房で剣を買っていた、稼いだお金の3割程は剣に消費されてしまう程に。

 そんな日々の中、先日、よく分からないがやたら重くて黒い、不思議で何やら良さそうな鉱石を森の中で手に入れた。

 その謎の鉱石でファイスに新しい剣を依頼したのだ(素材持ち込みの方が費用が掛からない為)。



「そうですか、良かった……早速、僕は依頼を受けてくるので失礼しますので、こちら返します」

「ああ、ありがとよ。イグニティに何かあれば持って来い、メンテしてやるからな」

「分かりました、ポロンさんも次来るときは何か持って来ます」

「楽しみにしてますよ。ライト君」

「……では、また」


 

 イグニティが出来るまでの間、代わりに貸してもらっていた剣を返し、少しの会話の後にライトはヘイス鍛冶工房を出る。

 足取りは軽く、それはもう嬉しそうな笑みを浮かべて。



□■□■□



蛇の王「シンプルな料理は美味しいのじゃ、お主もそう思うじゃろ?」

語り部「まあ確かに――いや、本編に関係ないことじゃん」

蛇の王「ライトが朝食でシンプルな料理を食べていたではないか、関係がある」

語り部「関係が無い!……同意はしよう。だが、結局は料理人の腕次第だろ?万人が絶対に美味く作れる料理は存在しない。この世界には絶対はないからだ」

蛇の王「そうなんじゃが……そうじゃないというかの」

語り部「……こういう時は、記憶忘却ビーム!(物理)」

蛇の王「ただのパンチでは無いかっ!?」

語り部「チッ、避けたか。僕が、微妙に会話をミスったことを忘れろ蛇王ッ!!」

蛇の王「理不尽じゃっ!?済まぬが、ただでやられる訳が無いぞ!受けて立つ!」


その後、最果ての観測所にて、二人の王がぶつかり合ったとか?


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