2.「銀葉亭茶話」シリーズ
代表作と言える話。
何と言ってもまだ94年。
韓流とか出る前だし、そもそもあの方の国籍は北とはいえ生まれも育ちも東京なんで、実際の向こうの国のことはわざわざ調べなくちゃならなかった状態。
それだけに史実的にはどうか、と「今となっては」思える部分も。
本当にお茶問屋が李朝の時代にありえたか? とか。
デビュー作の後に書いた文庫第一作「舞姫打鈴」が初購入作。
基本的にこの話は「死後の世界」にある「銀葉亭」を中心にしているので、全体的に話が重いのは確かなんですよねえ。
だがしかしそれだけに綺麗でしたな。
琴の話辺りはもうちょっと…… だったけど、ともかく蝶々姫の結末である銀珠までは何度も繰り返し読みましたなあ。
つかうちに未だにありますもん全巻。
一話ごとのヒロインは違うんですが、
・全体主人公の「銀葉亭」の主
・蕾姫(地仙姫と柳の樹精の間に生まれた娘)
とそれに関わる精霊はレギュラー。
打ち明け話系の「打鈴」と物語な「綺譚」で分けられていると思っていい。
で、「打鈴」の場合、亭の主の元にやってきて話すことから、まずヒロインは死んでいるという前提。
・金剛山綺譚
デビュー作。「蝶々姫綺譚」収録。
気まぐれな山の精霊、地仙姫が昔縁あった男の目が見えない娘を育てて行くうちに本当の愛情を知っていくという話。
ここで育てた娘が「善華」という名だったことから、柳の樹精との間に生まれた蕾姫の名がそれと同じになる。
ちなみに育てた娘は、目が見える様になって彼女達の正体を知ってしまったことで記憶を消され、「お告げ」で知り合った高麗王子と結婚し、「蕾姫綺譚」で「善華太后」と呼ばれることとなる。
・溟州打鈴
デビュー翌月雑誌掲載作。文庫「玄琴打鈴」収録。短編。
緋鯉の精を尋ねてきた乙女と、その彼との関わり。可愛がられていた鯉が断れない縁談のある彼女のために手紙?を飲み込んで元々の婚約者の元に届く様に調理されて~という。その功績? なので精霊になった彼の身体には一直線に金糸で縫われた跡があると。
・舞姫打鈴
時代的には新羅。
舞が神がかってる公主と将軍の話。
この公主が前世でやはり舞の名手で若き日の恋人。
身分違い過ぎたことで結ばれなかったことで、生まれ変わらせてもらう時に「せめて公主様でもあったら!」と願ったら叔父姪の関係になってしまったのでやっぱり報われず、結局は死後の世界で二人ようやく結ばれる、という。
・蕾姫綺譚
高麗末期が舞台。
蕾姫と高麗の不遇の王子の悲恋物語。
王子の後見としてのちの李氏朝鮮の開祖・李成桂が登場。
モデルとした王子は時間的にはありそうだけど、まあそこは。
王子が成長していくのに対し、少女のままの蕾姫。「大人にならなくてはならない」彼のために記憶を消してやる蕾姫。
最終的に彼は即位させられるが結局廃位。幽閉されているところから逃げて死ぬ直前に地仙姫との約定を思い出し、生まれ変わってももう人間にはなりたくない、木になりたい、と願う王子。
そのことでずっと蕾姫は実家の金剛山が血の様な赤の色に染まる季節は銀葉亭に避難してくる、という。
・蝶々姫綺譚
結婚せず死んだ娘は死んで蝶々姫になる。李朝に入ってからの両班の娘だった彼女が楓の精霊と恋に落ちて結婚することになるのだが、共寝してしまうと消えて輪廻の輪の中に入ることができる、という。
ここから楓の精霊と蝶々姫の話が続く。
・錦繍打鈴
李朝半ば~後半辺りの王の時代。
蝶々姫は茶の商家に生まれて、人間の姿をした楓の精霊に求婚されるのだが、気持ちの行き違いでとりあえず宮仕えに逃げ込む。
だが母の様に慕っていた、当時は冷遇されていた王妃に裏切られ、王子の代わりに呪詛を受けて死亡。
彼女が死んで「打ち明け話」することで彼等は「次」をまた待つことに。
・銀珠綺譚
蝶々姫と楓の樹精の最後の話。
次に転生したのは巫女。その耳に生まれつきついていた銀の珠と、生活困窮のせいで巫女の家に。
ただしこの巫女というのは呼ばれた先で夜の相手をする、というのが通常。
何故か彼女の場合は常に直前で相手が眠りこけてしまうということで純潔を保ってきた。
彼女の実の兄と、後に現れた楓の精の人間体(というか人間になってしまった)、それに少し育って子供から美少女になった蕾姫が竜の精を呼んだりして、まあ色々大団円。
ようやく二人は結ばれると。
・玄琴打鈴
・伽椰琴打鈴
この二つは同じ話の続きもの。
琴・狐・兄弟…… かな。
これも打鈴だから死んでからの打ち明け話系なのだけど、話の重さから内容が記憶から飛んでまして。
・牡丹綺譚
コバルト2006年2・4月号に前後編掲載。これのみ挿絵は藤井迦耶。文庫未収録。
……ということでこれは未読。
ただ韓流や、今のWebトゥーンよりはずっと感情が「日本的」ですね。
とは言え、逆に「水の都」で「向こう的だなあ」と思うこともあった訳ですが。
それでもそもそも「日本語の小説を書く文章修行に『細雪』をまるまる写した」というくらいですから、文章は綺麗なんですよ。ともかく。
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