創設者ァッ!!



 戻ってきた、風波かざなみです。

 夕食を食べて、時間も丁度良いのでまた温泉へと足を進める。

 明日は多分、黒竜と戦うから体を出来るだけ休めよう。

 暖簾を潜り、服を脱いでストレージにしまう。


ガラガラッ


「相変わらず人は居ないと」


 別に良いの、流石にここまで居ないと気になる。

 入っちゃ駄目な時間って訳でもないし、もしそうだったら店員が勧めないよな。


「とりあえず昨日と同じようにするか」


 ボディーソープとシャンプーを使い、体と髪を洗う。

 そしてしっかりお湯で流す。

 軽く体の水分を落とし、湯に浸かる。


「あ~やっぱ良い~」


 何故こんなにも温泉とは落ち着くのだろうか?

 最高ですね~ナユタ達とも絶対来よう。

 あいつらの方は、今何処にいるんだろう。

 Aランクで活動とかして、俺を探すか、依頼をこなしてたりするだろうな。

 あいつらはBランクは無いな、きっとAに決まっている。

 というかその方が集まった後の活動に支障が出にくいから、そうだと嬉しい。


「早く見つけないとな~ん?」


トタッ ガラガラッ


「先客か、ん?レイ殿ではないか」


 なっ何で、此処にっ!?

 ドアが開けられた先には、一糸纏わぬ姿のベリーナさんが居た。

 あまりの想定外に俺は、


「……キャーーーーーーー!!!」


 絹を裂くような声を上げてしまった。

 いやっ!?どうしてっ!?何故ッ!?


「レッ、レイ殿ッ!落ち着いて欲しいのだ!」


「いっいや、なっ何ッ!?」


「あまり、湯の中で暴れないでっ!」ガシッ


 嫌ァー!?その姿のまま近付いて、体を掴まないでぇーー!


「落ち着くのだっ!!!」


「ひゃあ!うぎゅっ………わかりゅましゅたぁ」


「それでいい、そして済まない、咄嗟とはいえ口を押さえてしまい」


「いっいえぇ」


 何故俺は昨日会ったばかりの女性に温泉で抱き着かれたような形になっている?

 何処で間違えたのだろうか?

 というかどうしてベリーナさんは、入ってきたんだ?


「あのっ、どうしてベリーナさんが?」


「それは、私も温泉に入りに来たからだけど?この時間は人が少ないからな」


「何で、人が少ないんですか?」


 今回の事の根本はそこに在る気がしてならない。

 色々考えてみたが、逆にそれ以外無いと思う。


「ああそれは、この時間はだから入る人がほぼゼロになるんだ」


「え?」


 コンヨク?……こんよく……混浴…混浴ッ!?

 え?は?何で?


「どうして!混浴の時間なんてあるんですか!」


「どうしてって言われても、創設者がこの時間を作ったみたいだそ」


 おいこらっ!創設者ァッ!!

 ネタは入れるなとあれ程言っただろうがよぉ!


「じゃあレイ殿、私は体を洗ってくる」


「あ、はい」


 何でそんなに落ち着てられるんですか?

 俺はもう、ぶっ倒れそうです。

 何でだろうな?こんなこと一週間の内に何度も経験したはずなんだけどな。

 シチュエーションの違いか?強制と偶然の差だ、これは。

 取り敢えず俺も落ち着こう。

 ベリーナさんが問題無いのなら俺が気にする必要もない。

 うん、そうだ。

 あ、ベリーナさんが来た。


「では、私も入らせてもらおう」


「ど、どうぞ」


 いや何故一緒に入る。

 混浴でも別に一緒の必要はない筈なのだが。


「レイ殿、話をしようか」


「ん?いいですけど」


 もう気にしない方向で行こう。


「レイ殿は何か好きなものはあるか?」


 めっちゃ普通の質問きた~。

 

「そうですね~、オセロかエクレアですかね」


「なるほど、では私がアルカディアのスイーツ店の話をしようか?」


「本当ですか!」


「ああ、こんな機会だしね」


「いや~一週間分部屋取ったので、黒竜を狩った後にどうするか悩んでたんですよね~」


 ありがたいな、この世界でまだエクレア食べてないから気になってたんだよな。

 俺がどれくらいエクレアが好きかというと、一時期は一日に三個必ず食べるくらいだった。

 流石に食べ過ぎで健康に良くないってナユタに怒られたけどな。


「では、詳しく話していこうか」


「はいっ!」


 その後、一緒に時間ギリギリまでスイーツについて話し合い、さらに俺が黒竜を狩った後に一緒に行ってくれることになった。

 ん~普通に楽しみ。

 時間になったので湯を上がり、言葉を掛けて部屋に戻って明日に備えて眠った。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 ということで起きて準備をし、31階に来ました。

 こっから深層だから奈落穴の警戒が重要だ。

 ま、浮いていくから関係ないんだけどね。


「大剣、浮遊フロート固定フィクス


 一気に大広間まで行くか。

 そもそも大広間だから、黒竜以外とも戦わなくちゃいけねぇから極力戦闘は避けて、最速で向かう。

 ここの階は階段から大広間遠くないからそろそろ着く。


「よし此処っと、確か入った瞬間から出るんだよな」


 大広間の前で大剣から降りる。


「長剣、分離セパレーション、これで行くか」


 準備を済ませ広場へ足を踏み入れる。

 床から黒い靄が出て魔物になった。

 へぇ~そんな風に出てくるんだ。


「ワイト、リッチにデュラハンか、全部Aね」


 白い靄と布が浮いたような、ワイト。

 スケルトンが法衣を纏い杖を持った、リッチ。

 兜のない汚れた鎧がデカい斧を持っている、デュラハン。

 デュラハンって斧なんだ、何か鉄球とか剣だと思ってた。

 Aランク魔物が、初っ端からか面白そうでなによりだ。


「《黒纏こくてん》,《極撃きょくげき常時発動シエンプレ》,燃焼コンバス


 両手に持つ黒白ノワール・ブランの剣身が炎に包まれる。

 便利な命令コードだな~、魔力使わんしどうなってんだろ。

 それは、後で良いか。


「先ずは面倒なレイス系からでしょっ!はっ!」


 距離を詰めて、浮遊する布を切りつける。

 お~めっちゃ燃える、然も靄のとこも燃えてるからこの状態なら切れるんだね。


「おっと、やっぱリッチは魔法使うよね」


 背後から火の玉が飛んできた。


「遠距離から潰すのが定石だっ、チッ、そう簡単に行かないか」


 リッチを潰すために駆けようとしたところに斧を振り下ろされた。

 然も直ぐに振り上げられて、俺へと迫ってきた。

 両手の剣を交差させるようにして、斧を止める。


「重っ!然もその速さで動かせんのは厄介だなっ!」


 床からデカい棘がっ、リッチの魔法か。

 これは先にワイト潰しといてよかったな。

 上手く連携される前にさっさと倒す。


「鎧の結合部に狙いを定めて、切り離すっ!」ガチャンッ!


 斧を振り上げられる前にデュラハンの腕を切り落とす。

 畳みかけるように、デュラハンをバラバラに切る。


「オッケ、次リッチだ」


 この感じ、魔法が来る。

 回避してから、銃で打ち抜くか。


「チッ、デケェな、リボルバーッ!」


 リッチの放ったバカデカい雷球が向かってくる。

 変化した左の白に暴食の力を流し、右の黒に魔力を流す。

 そして白は雷球に向けて、黒は先のリッチに向け、白の引き金を引いた。

 白から黒い弾丸が放たれたのを確認してから黒の引き金を引く。


「しっ!成功っ!」


 黒の弾丸は雷球を喰らい、妨げが消えた魔力弾は正確にリッチを吹き飛ばした。


「まぁこっからが本番だろうな」


 リッチを倒した瞬間から、大広間のあちこちから黒色のナニカが溢れて魔物になった。


「気持ち悪い上に数が多いな」


 ざっと数えて百くらいか?その中で特に強い反応は三つか。

 雑魚は一気に蹴散らす!

 燃焼を解除して黒白を杖に変え一つにし、魔力を流しながらイメージする。

 極撃で飛び上がり、見下ろしながら唱える。


陽光爆裂サンライトエクスプロージョンッ!」


 爆発音と共に空間が光に包まれる。

 やっぱアンデットには光でしょ!

 着地して、煙を吹き飛ばす。

 床にはバラバラの黒焦げの魔物だったものが散らばっていた。

 成功したが、やっぱ残ってるよね。

 さっきの強い三体だろうな。


「うへぇ、キモイな、それに特異個体二体と王位個体ねぇ、バグってんだろ」


 一体はイビルグライト、ゾンビ系の特異個体で屍を無理やりくっ付けたみたいな肉塊にデカい口が付いたような化け物だ。

 もう一体は、豪華な装飾のマントを付け武器を持ったスケルトンが骨の馬に跨った、スケルトンの王位個体スケルトンジェネラル。

 最後のが、くすんだ色の鎧の背面から黒い蜘蛛の脚のようなものが生えている、リビングアーマーの特異個体デスパラードって魔物。


「確かスカルジェネラルは統率系だった筈だ、先にやんねぇと物量でやられるな」


 王位個体には統率系と強化系の二種居て、統率系は自ら仲間を作り出して戦わせたり、元からいる同族を支配して戦わしたりする。

 強化系はそのまま元の個体の値を大きく上回る強さと偶に特殊な力が使えたりもする。

 スカルジェネラルは統率系の中でも特に面倒だ。

 仲間の蘇生に召喚に支配、どれもするから先に潰すのが得策だ。


「ショットガン、分離、炸裂エクスプロード標的ターゲット誘導ホーミング準備セット


 これでいけるか。

 準備は他の命令を入れたり形態を変えない限り、先に言われた命令を実行し続ける命令だ。

 一気に殲滅する。


「砕け散れ」


 黒白の引き金を連続で引く。


「チッ、肉壁かよ、それに再生能力が高ぇな」


 スカルジェネラルを守るようにイビルグライトが前に出た。

 放たれた弾は全てイビルグライトに当たり防がれた。

 身体がグチャグチャなっても直ぐに再生しやがる。

 どうすっかっ!


「そこから出んのかよ!テメェ絶対鎧じゃなくてそっちが本体だろ!」


 突如デスパラードが後ろの脚を俺に向けその先から魔法を放ってきた。

 でもそんな威力は無いな暴食グラで喰らい切れる。

 どうすっかね、今の内にも続々とスケルトンが増えてやがる。

 それに統率系は配下の強化も出来る、時間が経てば経つほどこっちが不利になっていっちまう。

 この後に黒竜もいるし、攻め切るしかないか。


「《暴食浸透ペネトレーション》,追加アディショナル自動オート威力パワー100」


 毎発100も魔力を消費したら回復無しじゃ直ぐに魔力が底を突く。

 それを黒白に暴食浸透を使い、弾でも回復を可能にすることでそれを補う。

 恐らくこれで再生も数も削り切れる筈だ。

 攻撃の前に叩き潰すっ!

 

「喰らえっ!」ガチッ


 銃口を前に向け、左右のの黒と白の引き金を引き続ける。

 炸裂音と共にイビルグライトとスケルトンがバラッバラに砕け散る。

 それと同時に少しづつ虚脱感が襲ってくる。

 想像以上にきついなコレ、魔力が抜ける感覚だけが永遠とくるみたいだ。

 せめてイビルグライトとスカルジェネラルは潰す。


「うぉっと!危ねぇ、まあお前は動くよな」


 デスパラードが脚と剣で攻撃してきた。

 両方ともに毒っぽいものが塗ってある。

 攻撃を回避しながらも引き金を引き続ける、誘導の命令出してるから別に銃口をあいつらに向けてる必要無かったんだよな。


「やっと8割くらい削ったか?」


 デスパラードを黒白で殴りつけながら、状況の確認をする。

 イビルグライトは跡形も無くなっててスケルトンも後数体だ。

 こんだけ撃ってても、時間かかるとかスケルトン強化され過ぎだろ。

 後五体とスカルジェネラルのみ、デスパラードを除けば。


「こいつ、もう少し怯んでも良くないか?ショットガンで殴り続けてるのに、全然攻めてくるんだけど」


 もうそろいけたか?次の一発で終わりっと。

 スカルジェネラル討伐完了、本体は強く無くて助かった。

 そしてもうデスパラードだけか、近距離で黒白を撃っても大丈夫か?

 炸裂が俺にもダメ入りそうだな。

 距離取ってからにしよ。

 足でデスパラードの胴を蹴り距離を取る。


「一発でいけるか?…駄目かこいつは近距離の方が良さそうだ」


 試しに一発撃ったが、魔力壁みたいのに防がれて当たらなかった。

 俺は黒白を結合させて短剣にして持ち、戦壊無刃ホロウ・エンドを抜いて構えた。


疾風ゲイル貫通ペネトレイト透明インビジブル消音サイレント、ふっ!」


 黒白をデスパラードの上に行くように投げながら距離を詰める。

 タイミングが重要………ここだ。


「落ちろ!加速アクセラレートッ!」


 急加速して落ちた黒白がデスパラードを床に叩きつける。

 そこへ戦壊無刃を振り下ろす。


「絶断!…態々言う必要無かったか」


 デスパラードは真っ二つになり、後ろの蜘蛛脚とかは何故か溶けて無くなった。

 これで取り敢えず全部倒したっ。


「ぐはっ」ドゴンッ!


 背後からの途轍もない衝撃で俺は壁に叩きつけられた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る