痛ってぇなぁ!!



同時刻


ナユタ・スノーホワイト View


「広いのですぅーーーーー!!」


「ホワっち、元気だねー」


「ナユタの嬢ちゃんは、元気いっぱいだな!」


「あ、ガイルさん準備終わったんですかー?」


「おう、バッチリだ」


 私達は、レイがどこかに行ったことを七色カラーズの皆さんに伝えて、昨日この迷宮都市メイジスやって来たのです。

 昨日は、この世界の常識の説明だけで時間が無くなってしまったので今日からが本格的な訓練なのです。

 ここで何をするかというと。


「今日から此処で、武術と魔法の実戦訓練をするっす」


「それがある程度身に着いたら、お二人のランク判断試験をします」


「魔法よりのナユタさんはシアさんとマリーさんが」


「近接よりのシンラさんはガイルさんとアッシュさんが担当するぞ」


「姉、私達は何するの?」


「妹よ、やることが無いから依頼を受けに行くぞ」


 ミルさんとメルさんは本当にやること無いのです?

 それは置いておいて、遂に、魔法を教われるのです!

 ファンタジーと言ったら、これは欠かせないのです、だから朝からテンションMAXなのです!

 シアさんとマリーさんが近づいてくるのです。


「ナユタさん、これからよろしくお願いしますね」


「シアも、よろー」


「こちらこそなのです!」


 今のうちにもレイは何かしてるはずなのです、そんな中遊んでるとか出来ないのです。

 それに、負けるのは、何でも負けるのは悔しいのですよ!


バキバキバキッ!!!


「ガイル、もう始めてる」


「久しぶりに、教えるから張り切ってるんですよ」


「むぅ~シンにも負けるのはヤなのです、お二人共こっちも始めるのです!」


「そう、じゃあ、実戦から」


「怪我をしても、私が直しますので、先ずは思う通りにやってみてください」


「分かったのです!」


 緊張するのです。

 とりあえず、レイが帰ってきたら、ぶっ飛ばせるくらい強くなるのです!




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




レイナイト・カラーレス View


 来た時より人がかなり減ってるな、皆探索や依頼に出たのだろう。

 俺は、壁際にあるベンチに腰掛けた。


「何ランクになるんだろうな」


 せめて、高望みだけどAランクがいい、Aからが色々と楽だから。

 具体的に言うと、多くの最難関迷宮に入れるようになるからだ。

 最難関迷宮は、場所によって入って良いランクが変わるのだ、全体で言うと最低の所がDランクから、最高はSランク且つギルド協会からの許可証、またはQランクというのがある。

 因みに最低は大迷宮ラビリンスの上層、最高は覇天頂塔バベルの深層だ。

 最難関迷宮の内部、上層、中層、下層、深層に分かれる、上に登るものでもこの言い方をする。

 階層が変わると難易度が別物になるらしい。

 Aランクだと、どの最難関迷宮でも下層までは基本的に行けるようになるから、Aランクが良いんだ。

 

「俺の予想だと、ユナさん達はQランク、極昌の冒険者達クォーツァイズなはずだ」


 気づいたのは、試験前、いくらランクが高かったにしても一介の冒険者に訓練場の半貸し切りなんてできるわけない、それに試験の内容を変えたり省くなんて、尚更できないんだよ。

 決定的だったのは、シュティレさん達のアクセサリーだ。

 特徴的な白金色の水晶のような物で作られていた。

 つまりは、あれが極昌具クォーツィムだろうな。

 何故ユナさんも含まれるかというと、今日の朝、俺はユナさんの右耳に極昌具と同色のイヤリングを付けているのを見たからだ。

 ま、仮に本当に極昌の冒険者達でも何もしないし、する必要も特にないのだが。


パリンッ!!


 ん?何か落したみたいな音だな。

 音のした方を見る。

 はぁ~何処にでも居るもんだな。


「テメェ!何しやがるっ!」


「しゅっしゅみません……」


 そこには、激昂する大柄の男とへたり込んでいる少女が居た。

 少女の横には割れた瓶があった、男が若干濡れているから、転んでかけてしまったとかそこらへんだろう。

 そこで、男が剣を抜いた。

 あいつっ!周りに居た冒険者が先を予測し駆け出した。

 けど、間に合わないな…やるか。

 俺は、意識を集中させスキルを使う。


「《次元襲歩ディメンスクリール》」


 瞬間、腹に鋭い痛みが走った。


「痛ってぇなぁ!!」


 反射的に俺は、目の前の男を全力で殴り飛ばした。

 自分の腹を見る。

 綺麗に男の剣が腹を貫通している。

 ミスったな、男と少女の間に転移したのだが、そこに丁度在った剣が俺と重なったせいで俺にぶっ刺さったっぽい。

 何か温かい、刺されるとこんな感じなのか。


「だっ!大丈夫ですかっ!」


「心配しなくてもこれくらいっ――― バタンッ!


 俺の意識は途切れた。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「レイ、起きて」


 んにゃ?


「全く、僕の使徒は寝坊助みたいだ」


 この声は?


「そんな君には、これをあげる」バチッ


「痛ったっ!」


 身体がビリビリする。


「フフッ、寝てるレイが悪いんだよ」


「……普通に起こせないんですか」


「起こせるさ、でもこっちの方が面白いだろ?」


 そんなこと言う、俺の神様にジト目を向ける。


「昨日の夜?今日の朝?どっちでもいいや、また会ったね、レイ」


「そうですね、リュミス様」


 俺の目の前には、俺と髪型以外はほぼ同じような見た目の少女が居る。

 というか、俺がショートヘアにして、ちょっと遠くから見たら判別付かないと思う。

 しかし見た目こそ、俺と同じようだがその内に秘める力は、比べ物にならない。

 リュミス・タナトス、この世界で死天神として信仰される、天王神魔の一柱だ。


「で、今回は何でここに来てるんですか?俺」


「君が死の痛みに耐えきれなくて、気を失ったから此処に呼んだのさ」


「死の痛み……ですか、つまり俺は死んでないんですね」


「ああ、もうレイは何度も《モルス》を使ったから、その中の一回分の代償が支払われただけだね、死にはしないが、痛みは来るからね、それに君は耐えられなかった、ていうより急で対応できなかったの方が正しいね」


「…………」


 アレが死の痛みか、軽いようで、精神には負荷が掛かったみたいだ。


「さて、状況の確認も終わったし、アレしようか」


「またアレですか?」


「そうさ、君を鍛えるためにね♪」


 俺が此処に来るのは、今回が初めてではない。

 昨日の深夜にも呼ばれた。

 そして、装備の能力やスキルの使用法を詳細に教えられたりした、実戦形式で。

 そのおかげで、全然寝た気はしなかったが、試験ではかなり戦えた。


「じゃ、先ずは、天王技のおさらいね、天王技は僕達の使う奥義を君達使徒用に改造したもの、ここまでは覚えてる?」


「はい、俺のは《死神がクフィス扱いし奈・アディス落の黒刃・タナトス》ですよね」


《死》の発動を触れたものだけに限定することで効果を強くして、切ったものだけを正確に殺す技だ、試験みたいに真っ向から使うものじゃなくて、隠密からの一撃必殺みたいな感じで使うのが本来の使い方なんだよな。


「そうだね、でも僕の奥義を改造してるからって、劣化版ってわけじゃないのさ」


「そうなんですか?」


「いや、正確には今は劣化版だね」


 今は?じゃあ、この先は違うってことか?


「使徒の体が耐えられるように調節してるが、してるのはそれだけじゃないのさ」


「何をしたんです?」


「天王技事態を使徒に合わせて進化するようにしたんだよ」


「進化ぁ?」


「威力が上がったり、効果自体が変質したり、これまでの使徒も元はそれぞれの天王神魔の天王技を伝授されてるんだけど、最終的には自分だけの奥義に到らせたよ、そしてそうなった天王技を真義しんぎという」


「真義……」


 なるほどね、そこまで行く道は長そうだ。


「まあ、これは先の先のもっと先の話だからね、でもいづれレイにもそこまで到ってもらうよ」


「はぁ~頑張りますよ」


「次に魔法だね、レイには属性適性が丸っ切り無いって話はしたね」


「代わりに、潜在能力や戦闘の才能はあり得ないくらいあるってのも聞きました」


「はっきり言って、異質だけど、それはまあいいや」


 異質言う無し。


「でも君には、魔法を使う手段があるね?」


黒白ノワール・ブランの属性変化ですね」


「そう、黒白を杖にして属性を決めて、魔法の完成をイメージして魔力を流すとあら不思議魔法が放てる、その理由は、君には属性適性が無いが魔法適性が無いわけじゃないから」


「魔法とは、魔力を属性魔力へと変換し自身のイメージを現象として起こすもの、自身の適性のある属性にしか魔力を変換出来ないから、属性適性が無い者は実質的に魔法を使用することが出来ない」


「けど黒白が魔力変換の部分をすることでレイは魔法を使えるってわけさ」


 深夜にこれを聞かされて魔法が使えないとか異世界じゃなくない?へけっ。

 とかやったんだぞ、びっくりさせやがって。


「この話を聞いた時のレイの顔は最高だったよ♪」


「因みにどんな顔でした?」


「檻の中から、目の前で大好物を食べられるのを見てるみたいな感じ♪」


「よくわからん」


「じゃあ、嗜虐心をそそる顔♪」


「…………」


 ちょっと殴りたくなった。


「じゃ、話はここまでこっからは実戦ね」


「強くなるのはいいんですけど、モチベが出ません」


「じゃあ、ん~と、僕に攻撃を当てられたら、どんなことでも一つ言うこと聞いてあげるよ」


「……マジすか」


「ああ、マジだね、神は約束を守るよ」


 こいつは、頑張る理由が出来たね。

 絶対当ててやるからな!




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 皆、壁は高かったよ。


「神なわけだからさ、新人の使徒に攻撃を当てられるなんてさ、あっちゃいけないからね♪」


 そうだった、神だったわ。


「これからもこの約束続くから、頑張っていこう」


「ありがとうございます」


 全ての攻撃を尽く殺され、完封で負けましたけど頑張りますわ。

 ん?この感覚は。


「そろそろ時間みたいだね」


「そうみたいですね、現実ではどれくらい経ってるんです?」


「三十分くらいだね」


「体感三時間くらいだから此処の時間の進み方は現実の六分の一くらいですか」


「まあ、それくらいだね、さ、もう時間だよ」


「また来ます」


「会話ならいつでも出来るから声掛けまくっていいからね♪」


 了解です。

 身体が浮遊感に包まれ、視界が暗転する。

 お、体の感覚が戻った。

 目を開ける。


「知らない天井だ」


 一度は言ってみたいよね、これ。

 というか何処だ此処?何か保健室っぽい。

 服は、穴開いてないし、脱がされても無いな。


ガラガラッ


「レイッ!起きたの!大丈夫!?痛むところない!?」


ボフッ!グニュッ


 部屋に入ったユナさんは、俺を見るなり飛び着いてきた。

 にゅっ!あのっ!アレの弾力と圧が凄いんだがっ!


「ひぁへへはひへふ、へははふ!」


「ああ、ごめんね、レイ」


「はぁっ!危うくまた気を失うところでした」


 何とは言わないが凶器にもなると思う。


「それで、体に違和感はない?」


「大丈夫です、特に何も」


「心配したよ、レイが倒れたって聞いて」


「すみません」


「でも、剣が刺さってたのに傷が無いって変じゃない?」


「え~とちょっと、回復が早い体質というか」


「………ま、レイが話したくないならいいや」


「…ありがとうございます」


「じゃ、はいこれ」


「何ですかこれ?」


 ユナさんは黒くて縁が金の装飾がされた、Sと俺の情報が書かれた、スマホくらいのサイズのカードを渡してきた。


「レイのギルドカードだよ」


「なるほどこれがですか………」


 裏面には色々な武器が重なるように描かれている、武器職のマークなのか?


「このSって何ですか?」


「レイのランクだよ、良かったね」


 あ…そうすかぁ、ま、まあ、AからSまでの手間が省けていいし。

 別に、ランクを上げる過程を楽しみにして、Aになれとか思ってなかったし。

 本当だからな。


「そうですか、じゃ、此処から動きましょうか」


「駄目、レイは私に心配かけたし、言ってないことがあるから、今日は此処に居てもらうよ」


「え?」


「私の玩具になってもらう」


 何か、俺の色々なものが危なそうなので逃走を図る。

 ………ん?なっなんじゃこれ、スキルが使えないし、硬ッ!!

 俺の体に軽く光る銀の鎖が巻き付き拘束する。


「私の鎖は、切れないよ?」


 強いと思ってたけど、ここまでか。

 

「あ、れ、体の力が、抜けるっ」


「ちょっとした魔法だから、明日には動くようになるよ、よいしょっと」


「何で、ベットに?」


「それは床だと、ゆっくりできないし、ここで遊ぶからだね」


「み、耳元で喋らないでください」


「ダ~メ、これはある意味お仕置きでご褒美、レイの好きなことも、苦手なこともするよ」バサッ


 あのローブを脱がないでください、あとコートを脱がさないでください。

 これは色々とマズッ。


「ひゃあ!」


「ホントにレイ、耳弱いよね」グニグニ


「あっ、やめっ、てっ」


「今日はじっくりやるからね、レイ」


 その後、何があったかは、想像にお任せする。

 一つ言うとすると、何も覚えてないが色々と体に刻み込まれた気がする。

 俺が覚えているのは、何かの後に倒れるように寝たことだけだった。


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