一緒は、良くないと思います



「ふぅ~食べました」


「レイ、結構食べるね」


「出されたものは残さない。それが俺の流儀ですから」


「良いね」


 俺は、マスターのサービスでかなりの量あったカルボナーラを食べ切った。

 因みにユナさん、俺が凄いみたいに言っておいて既に数分前に食べ切っていた。

 マジで、あの体に何で入るんだ?

 ユナさんは、別に太っても痩せすぎてもない、至って健康的な体型なのだが。

 あの速度で、あの量が入ることに驚きを隠せない。


「マスター、いつもの」


「そろそろだと思ったよ」


 今、何頼んだの?

 正直もうお腹パンパンなのだが。


「いつものって何です?」


「ん?もうすぐ来るよ」


「そうですか……」


 答えになってないっす。


「ほら、いつもの、勿論レイ君の分もあるよ」


「ありがと」


「ありがとうございます」


 そう言ってマスターが持ってきたのは、ソフトクリームか?

 食後のデザートってことか、これならギリいける。


「マスターの作るソフトクリームは最高だよ」


「相変わらず、ユナちゃんはソフトクリーム好きだよね」


「ソフトクリーム無しで私は語れない」


「相当好きなんですね」


「人生で最も口にしてきた物!」ドヤァ


 ドヤ顔が可愛いです!!

 おっと、逸れた。

 じゃ、食べてみるか。

 んぅ~これは。


「美味しいですね」


「そうでしょ!これはマスターがすごい時間かけて完成させたやつだからね」


「素材に拘っただけさ」


「そんなこと言って、Sランクの材料入れてるし」


「Sランクの材料って?」


「マーダービー・エンペラーって蜂の蜜」


「マーダービーの王位個体でマーダービーを使役して人を襲い、単体でも強さは軍に匹敵すると言われているのだよ」


「げっ、蜂ですか、でもそれだけ強いのをマスターが倒したんですか?」


「そういうこと。今は此処で料理を作ってるけど、昔はSランク冒険者『鬼切おにきり』のランドって有名だったんだよ」


「Sランクですか、鬼切とは?」


「私の二つ名さ、現役の頃にオーガの特異個体『オーガ・ディストラクション』の討伐をした時につけられたのだよ」


 何か名前聞いただけでも強そうなやつ倒してる~。

 というかSランクて、見た目と合って無さすぎる。


「特異個体?王位個体とどう違うんです?」


「王位個体は、元の個体の正統な最終進化のことを言って特異個体は、言わば突然変異で元の個体が何らかの要因で本来とは異なる性質に進化した個体のことだよ。まあ特異個体と言ってもピンキリで強さの幅がかなりある」


「元の個体とそんなに変わらないもの居れば、破壊鬼のように強力な能力を持つこともある」


「能力って?」


「オーガ・ディストラクションの能力は『破壊進化ブレイクエボルブ』って言って、自身が壊したり殺したりした物や生物の力を吸収し自信を強化する能力だよ」


「ん~微妙じゃないですか?成長する前だったら簡単じゃ?」


「それがマスターの時は最悪の形だった。別の依頼で王位個体の討伐に来ていたSランクの四人パーティーが討伐対象との戦闘中に、オーガ・ディストラクションが現れ消耗した王位個体とSランクパーティーを全員殺した」


「オーガ・ディストラクションは未強化の状態でもAランク上位の強さを誇るから、消耗した状態で一方的にやられたみたいだ」


「それって」


「そう、化物の領域と言われるSランク冒険者四人と王位個体を殺した。オーガ・ディストラクションは、あり得ない程凶悪な進化をした。超級の魔法と秘術の技を扱い他のオーガを使役するようになった」


「無理ゲー過ぎません?」


 難易度バグりすぎだろ、因みに超級や秘術は魔法や武術の威力階級のこと。


「そうさ、実際私を含め皆、途方に暮れた」


「けど、マスターが居るってことは、勝ったんですよね?」


「ああ、そこに居た冒険者の一人が「出来るだけ俺達で住民が避難できる時間を作ろう、そしたら極昌の冒険者達クォーツァイズが来ることだってあるかもしれない」と言った、誰もが無謀だと思ったがそれが最善だと皆、行動した」


「その時に居たのは、全員で百人程の高ランク冒険者でマスターもそのうちの一人だったよね」


「そう、その時の私はまだAランクだったがね。その後全員でオーガ・ディストラクションとその軍勢に挑んだ」


「冒険者は次々と倒れていったが、何とか住民の避難は成功し、そして極昌の剣技職クォーツソードマンが駆け付けるまで時間稼ぎすることが出来て、極昌の剣技職のお陰でオーガの軍勢は減っていった」


「そこで、もう十人まで減った私達は、殲滅は極昌の剣技職に任せ本元のオーガ・ディストラクションの討伐へ向かっ。、そして戦闘を始めたが、奴の強さに私達は絶望しかけた。奴の破壊進化の力は配下の殺した分も自身に加算されるみたいだったのだ」


「つまりは、死んだ高ランク冒険者九十人分の力もオーガ・ディストラクションに行った」

「勝手が無いですね」


「そこで、十人の中の一人が言った「バッドステータスって取り込まれるのか?」と言った。その後に提案されたものは、その時最も火力の有った私を除いて、全員がバットステータスを自らに付けて殺され弱った所を私が殺すというものだった。正直正気じゃないと思ったさ、成功するかも分からない上に死ねと言っているのだからね」


「マジで正気じゃないですね。待てば極昌の剣技職が来るのに」


「ああ、だが奴のあまり強さに私達は冷静な判断が出来なくなっていた。そしてその作戦は決行された、結果から言えば作戦は成功、破壊鬼は驚く程弱まりそして私が止めを刺した。私以外は皆死んだがな」


「その後は、極昌の剣技職と一緒に戻り、事の説明をしてSランクになったんだよね」


「そうさ、今思い出しても、何故成功して生きているのか不思議に思うよ」


 確かにこれはもっと出来ることがあったかもしれないし、これが最善だったのかもしれない。

 これはあまり知られたくないだろうな。


「ありがとうございます、話していただいて」


「いいさ、これは年寄りの唯の昔話、今更気にしたって仕方ないのさ」


 そう言って、マスターは笑う、その顔には過去の後悔など微塵も無かった。

 強いな、この人はそんなことがあっても前を向けるなんて。


「さ、二人とも食べ終わったみたいだね」


「あ、美味しかったです」


「うん、いつも通り最高だった」


「なら良かったよ、済まないけどそろそろ閉店の時間さ」


「もうですか」


「今日は直ぐに時間が経った気がする」


「久しぶりだからさ。はい、おつりね」


「ありがと」


 いつ代金を払っていたんだ?

 全然気づかなかった。

 それにしても、こういうと失礼だが面白い話だった。

 特異個体か……やっぱり警戒するに越したことはないよな。

 

「また来てくれたまえ、勿論レイ君もな」


「はい!」


「またの~お越しを~お待ちしておりますぅ~」


「二人ともありがと、ご馳走様」


カラン カラン


「良い人達でした」


「そうでしょ、じゃあ今日はもう遅いから帰って寝よっか」


「そうですね、日も落ちましたし」


 人も結構減ってるな。

 そういえば、濃くて忘れてたけどまだ一日も経ってないんだな。

 あいつ等上手くいってるかね~。

 ナユタは頭切れるし、シンラも決める時は頼りになるから、気にしなくてもいい……はずだ。

 何処に居るか分からねぇのに気にしても仕方ないんだけどよ。


(本当にレイは心配性だね、もう少し信頼してあげてもいいんじゃない?)


 リュミス様、信頼も信用もしていますよ、けど俺は心配してしまうんです。

 何たって、唯一無二の親友達ですからね。


(そうか、良いね……そんな君に朗報だよ。他の二人にもそれぞれ天神王魔が見てるから安心していい、もしもの時は神魔器を通して守るから)


 ありがとうございます、リュミス様。

 で、神魔器って何すか。


(まだ言って無かったっけ、神魔器っていうのは僕達天神王魔が作った道具のことだよ。僕達が権能を使って作ってるからどれも強力無比さ)


 そうなんすか、じゃあ俺が持ってるものは基本的に神魔器ってことですか?


(基本的というか、全部だね。バレたら追いかけまわされること間違い無し♪)


 いや、何しとんじゃ!面倒事の塊だろうがよ!

 こいつらは、隠さなきゃいけないのか……


(大丈夫だよ。僕達が作ってるんだから、そんじょそこらの奴に判るわけないんだし、もし何かあってもユナちゃんがいるから安心さ)


 まあ、確かに、それでユナさんってそんなに凄いんですか?


(国を動かす位は出来るよ、これ以上は言えない)


 そんなにですか?この背中からは想像できないな。


(この世界は見た目で判断しちゃ駄目だよ)


 分かりました、肝に銘じて置きます。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 風波に着いた。

 廊下長いなー。


ガチャ バフッ


 ユナさんは部屋に入るなりベットに倒れた。

 やっぱこの部屋にベットは変だな、合わない。


「ふぅ~今日は長かったね」


「本当にそうですね」


「これからもよろしくねレイ」


「こちらこそです」


 ユナさんが第一発見者で本当に良かった。

 これからもかなり世話になるだろうなー。


「じゃ、寝る準備しよ」


シュルシュル バサッ


 え?なっなっ!?


「何で服脱いでるんですか!?」


「ん?着替えるからだよ?」


「俺も居るんですから、気を付けてください!?」


「別にレイだったらいいよ?」


「俺が良くないです!!」


 本当にこの人は、そういうこと直ぐ言ってくる!

 こっちの気持ちも考えて欲しいものだ。


「じゃあ、着替えるからね」


「いきなりしないで、最初からそう言ってください!」


シュン フォン ファサ~


「レイ、良いよ」


「分かりまっ……」


「…ん?どうしたの?」


 紫の……ネグリジェ…だと。

 然も、生地がめっさ薄い透けてるの。

 それ意味あるの?大事な所が隠れてるだけですよそれ?


「もうちょっと、しっかりしたの着ません?」


「ん?何で?いつも私はこれだよ?」


「俺の方が駄目です」


「……もしかしてレイ、照れてる?」


「照れてません!///」


「そんなこと言っても私には分かるからね」


「ぬぅ~もう寝ます!」


 恥ずかしぃ~~!その格好で来ないでぇ~~!///

 ……あれ?どうするんだ、これ?


「ユナさん、ベット一つしか無いけど、どう寝るんです?」


「一緒に寝るよ?」


「誰と誰がです?」


「私とレイが」


「何処でですか?」


「そのベットで」


「……一緒は、良くないと思います」


 最悪だ、いや、最高だけど最悪だ。

 今気づいたけどユナさんは着痩せするタイプなのか、太ってるとかではなくてさ胸部装甲がね、その……たわわです。

 語るのが、失礼なのは解ってるけど服着てる時はそんなだと思ったんだけどな、初対面の人の何処見てんのとか言われそうだけど男のさがでね、仕方ない。

 それにユナさん強いから、抵抗する時スキルを使わなきゃだし、使ったら傷つけてしまうかもしれないから、実質抵抗が出来ないんだよ。

 

「えいっ」


「うぉあ!?」


 力強ぇ!?

 考えている内にユナさんにベットに押し倒されたようだ。


「コート脱いで一緒に寝よ?」


「かっ、顔が近いです」


「ほら、ぬぎぬぎ」


 人の話聞いてくれませんかねぇ。


「レイは体で代金を払うって言ったよね」


「いや、言ってませんよ、ユナさんが決めたんでしょ」


「だから、それを払ってもらう」


「話を聞いて……」


「レイには、これからずっと一緒に私と寝てもらう」


「ずっと!?具体的にどれくらいですか?」


「期限なんてない、私の気分」


「…………」


 何か、嬉し恥ずかしでドキドキするというか。

 仕方ない、頑張れ俺!


「……分かりましたよ、一緒に寝ましょう」


「やったー」


「くっ、この流された感が何とも言えない」


「ぎゅー」


「ユっユナさん何してるんですか!?」


「今日はレイを抱きしめて寝ることにする」


「ユナさん!服装考えてください!!」


「そんなこと言って無いでさ~」


「ひゃあ!みっ耳元で話さないでください!」


「はぁ~レイは可愛いな~」


「もう寝惚けてますよね!」


「そんにゃ~ことわぁ~」


 あ、駄目だわこれ。

 もう駄目だ、抜けれないしこのまま寝るしかないのか。

 諦めて寝るか。

 ふぁ~ユナさんはやっぱり安心する匂いがする。

 意外に、疲労が…溜まって……いた……みたぃ………ZZzzz




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




リュミス・タナトス View


「レイ、君がこれから何をしていくのか、僕は楽しみで仕方ないよ」


 巨大な水晶板に映るレイの寝顔を見ていると、自然と口角が上がるのを感じた。


コンコン ガチャ


「誰だい?」


「私だよ…リュー」


「エクじゃないか、どうしたんだい?君がこの時間に来るのは珍しいね」


「新作の…エクレアが…出来たから…リュー…食べるかなって」


「じゃあ、食べるかなエクが作るの何時も美味しいからね」


 ノックの後に入ってきたのは、僕達にとっては見慣れた、ゴスロリ服を着た長い金髪の右が金色、左が銀色な虹彩異色オッドアイで身長は160㎝ちょい下くらいの少女。

 名前はエクレア・ゼウス、一般的には雷光天神と呼ばれている、趣味はエクレア作り、好物もエクレア。

 何でこんな説明をするかだって?

 そりゃこれを読んでいる人に説明しなきゃいけないからね。

 ………ん?メタいからやめろって?仕方ないね。


「今回は…苺で…作ってみた」


「なるほど、では……」


モグモグ


「美味しいね、てっきり表面のチョコだけ苺のにしたのかと思ったら、中も苺クリームにしたんだね」


「うん…頑張った」


「良いね、外側のチョコに入ってる苺の粒粒もいい食感だし、クリームも苺が出るように少し甘さが控えていて丁度ね」


「ありがと…今回は…結構自信あった」


 エクは趣味でよくエクレアを作って来て、僕に持ってくるのだが、偶に壊滅的な物を作ってくることがあって、最初に必ず僕の所に来るから最初の犠牲者は必然的に僕になる。

 壊滅的な時は権能を使うから僕は何とかなるんだよね。

 そして、他にも食べさせるように促す、だってあいつらは最初にあれが出来た時から、試食は僕の所に行くようにエクを誘導したし、お互い様だね。

 ん?何でこっち見てるの?


「何か…リュー…今日は…楽しそうだよ?」


「そうかな、もしかして嬉しさがもれちゃったかな」


「どういう…こと?」


「それは」


ドーーン!!!!


「あたしが来た!!!!!」


「……ノックくらいしてくれないかな?マジハ…」


「ありゃ、滑ったか?」


「マジハ…こんにちわ」


「おーエクじゃん、ちわー」


「部屋の主の方に先に挨拶するべきだと思うんだけど」


 扉を勢い良く開けて入って来たのは、金の刺繡が入った紫のローブを着て紫の髪をツインテールにした、髪と同色の瞳で身長140㎝位の少女。

 名前はマジハ・オーディンで魔法天神、趣味は魔法研究、好物はプリン。


「エク、それ新作のエクレア?食べてもいい?」


「…いいよ」


「ん~美味しいね、今回は当たりだー」


「当たりとかないから、で、何しに来たのさ?」


「そうだった、リュー、私達に隠してることあるんじゃないのー」


「やっぱり、君には伝わるか……」


「何の…こと?」


 マジハの使徒のであるユナちゃんと共にレイは行動してるから、伝わってるとは思ってたけどね。


「何って、リューが新しい使徒を取ったってことだよー」


「!?…ホントなの…リューが…使徒を…取った…なんて」


「本当さ、水晶板に映ってる彼がそうさ」


「寝顔可愛いねー」


「………」


 ん?エクどうしたんだろ、そんなに僕が使徒を取ったのが衝撃だった?確かに僕は全然使徒取んなかったけどさ。

 ……あれ?エクどっちかって言うと………。


「エクどうしたの?」


「いっいや…何でもない///」


「何でリューはレイ君にしたのー」


 明らかに何か、いつもと違ったけど、多分悪い方じゃないからいいか。


「何か雰囲気が好みだったから」


「リューは…前も…そうだった」


「まーそれがリューらしさかー、じゃあ今回来た他の二人はどうー?」


「二人共資質は十分、後はイーとルアが気に入るかだね、多分大丈夫だと思うけど」


「あと今天神王魔の中で使徒が居ないのは誰だっけー?」


「私…モノ…サクラ…ユイン…だよ」


「僕以外も結構、使徒居ないよね」


「最近使徒から外れたばっかりで、居ないだけだよー」


「前は…リュー以外…皆居たよ」


「今は居るからいいじゃないか」


 そうなんだよなー、こないだまで皆使徒居たんだよね、死んだとかじゃなく神や悪魔になってそれぞれ仕事についただけだけどね。


「今度パーティーしよっかリュー使徒を取ったお祝いで」


「そこまでするのかい?」


「うん…大きめの…しよう」


「はぁ~まあいいか、面白そうではあるし」


 皆でするのはかなり久しぶりだった気がする。

 後、あれ言っておかないと。


「僕が使徒取ったの秘密にしてくれないかな」


「ん?…何で?」


「そりゃ、そっちの方が面白そうだからさ」


「うわぁ~悪い癖出てるー」


「私は…リューが…言うなら…秘密にする」


「まあ、あたしもいいけどねー」


「ありがとう」


 さあ、知られる前にレイを強くしていくことにしようか。


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