こいつらに手を出すなら…
「お前ら!!西から三キロほどの距離からこっちにとんでもない速度で迫ってくる反応がある!!」
ちっ、何故もっと早く気づけなかった装備を使ったら七キロまで感知できるはずなのに!
「何個反応があるのです?」
「六個、動きからして恐らく人間だ」
「おー、現地人と会えるってことだねー」
「そんな暢気なこと言ってる場合じゃないのです」
「どういうことー?」
「現地人が友好的でも、この人達が友好的だとは限らないのです」
ナユタの言う通りで俺も危惧しているのは、それだ。
「この速度で移動できるってことは、この森に慣れた奴らだってことだ」
「戦い慣れてない私達なら、一方的に殺されるに決まってるのです」
「そういうことか、ヤバいね」
シンラ、本気になったな、こいつマジになると語尾伸び無くなるんだよな。
「お前ら武器準備しとけ、初手攻撃だったら俺が対応する」
「大丈夫なのです?」
「任しとけ、秘策くらい準備してるさ、シンラはナユタ守っとけ」
「わかったよ」
ナユタが下がり、シンラが前に出て盾を構えた。
魔法に特化してるナユタが前に出るのはマズいからな。
俺も切り札の準備を始める。
「あとどれくらいなのです?」
「この速度なら一分もかからねぇ」
反応はもうすぐここに到達する、恐らく先行して二人来る!
「来るぞっ!」
前方から二つの影が迫ってきた、そして…チッ!
「クソがッ!」
あろうことか、二つの影は三本ずつナイフを投げてきた。
そして、ナイフは的確に俺たち三人の頭を狙っていた。
俺は、早々に切り札を切ることにした。
「《
俺がそう唱えた瞬間。
――――
これは、装備を見ている間に思い付いた方法だった。
大して難しいことはしていないただ、クロノ・コーロスにある時間操作能力で俺の思考を加速しているだけだ。
しかし、効果は絶大だ、迫ってきていたナイフがさっきが嘘かのように遅くなっている、これなら触れることは容易だ。
俺は、即座に両手に
両手が黒い靄に包まれる、そしてナイフに触れた。
するとナイフは触れたところから、砂のように粉々になり黒い靄に吸収された。
二人の恐らく双子の女たちの顔が驚嘆に染まる。
くくっ、いい気味だぜ、しかしこれで手を緩めたりはしねぇ。
俺は、駆けながら右手に集中し、イメージを固めて言う。
「ガントレットッ!!」
思考が加速しているため、言うのに時間がかかる、しかし。
俺が発言しきった瞬間、この加速した状態でも知覚することができないほど速度で元々そこにあったと思うほど自然にそれは、俺に腕にあった。
右手から肩口まで覆う、白と黒のガントレットがそこにあったのだ。
装備が変形してくれて歓喜が湧き上がるのを押さえつけ俺は思考を切り替えた。
再度右手に意識を集中し、
ガントレットに包まれた、俺の右手が淡く光り出す。
徐々に右手の光が増す。
すると双子の後ろから四つの影が見え、その中の一つの影が一気に迫ってきた。
白い大盾を構えた、大男だ、双子は男の後ろに飛んで行きやがった。
今からでは、避けることが出来ないと感じた俺は足を止め、反動を利用し、光る黒白の拳で白い大盾を全力で殴りつけた、その瞬間。
――――
周囲の木々は吹き飛び、俺の前方の地面は、融解し、無くなっている。
だが、唖然としている時間はない、恐らくあの六人は生きているからだ。
再度辺りを警戒をしようとしたら、世界が戻った。
いや、思考時間加速が切れただけか。
流れる世界が元に戻ったからか、少し思考が落ち着いた、ナユタ達のもとに戻り周囲を警戒する。
「レイ!今なにしたのです!?」
「ナイフを喰って、殴りつけただけだが?」
「いや、意味が分からないんだけど、爆発してるんですけど!」
「んなこと言ってる場合じゃねぇぞ、まだあいつら生きてやがるぞ」
「え!?あれで生きてんの!?」
「多分あの割って入ってきた人がいるからなのです?」
「ああ、双子だけなら仕留めてたはずだ、けどあの大盾男、クソ硬ぇ」
「すみませんが、少し思うことがあるので、次来た時少し待って欲しいのです」
「何でだ?と言いたいとこだが、何か考えがあるんだよな?」
「はいなのです、予想が当たっていれば、敵ではないかもしれないのです」
「慣れてない僕たちじゃ、分が悪いからその方が嬉しいね」
「だが、最悪を考えて、準備はさせてもらうぞ」
「むしろ頼むのです」
俺は、再度右手に極撃を発動させた。
改めて、ガントレットを見てみる。
黒を基調として白の模様が入ってる感じで、手の甲に、
「ナイっち、それ変形できたんだね」
「ああ、これが無かったら俺の腕は吹き飛んでいただろうな」
そうだ、これが変形してくれなかったら、俺の腕は確実に極撃に耐えられなくて爆散していただろう。
我ながら、デカい賭けだったと思う。
「土壇場で、上手くいって良かったぜ」
「本当に良かったのでっ……」
ガサッ……ガサッガサッ…ザッ
「来たか」
俺は、光る右手を構え直した。
そして、さっきの六人が姿を現した。
先頭に、白い鎧に身を包んだ、白髪の大男、イケオジって感じだな。
その後ろに、薄緑の法衣を纏った神官っぽい女、金髪の美人だ。
神官に並ぶ形で、茶色に少し赤色が混ざった髪の弓士の男と、水色髪の小さめな魔法使いの女が居り。
一番後ろに、先ほどの盗賊っぽい恰好をした、黒髪の双子の女ども、何故か片方は頭を押さえているが、居た。
「済まないことをしたと理解している、しかし対話に応じてもらえないだろうか」
そう発言したのは、さっき俺が殴った大男だ。
「済まないだと?あと少しで死ぬところだったんだが?」
意図せず、語気強くなった。
「ふざけんなよ、それが「レイ」……っち、わぁーったよ」
「こちらは、対話に応じるのです」
「感謝する」
「感謝します」
リーダーっぽい大男と神官の女が、頭を下げながら伝えてくる。
「それでは、こちらの話をさせてもらってもいいだろうか?」
「その前に、私の予想を少し言わせてもらってもいいのです?」
「では、そちらから」
「私の予想はズバリその頭を押さえてる方の盗賊の方の独断専行だったということなのです」
ナユタがそう言うと、六人は目を見開いた。
つまり当たりだってことか、ナユタ、スゲーな。
「何故そう考えたか聞かせてもらってもいいか?」
「当然なのです。初め、貴方達は私達と同じように何らかの方法で私たちの存在を感知したのです。そこでその盗賊の方は、私達を悪者だとか魔物だとか考えて攻撃しに一人で向かったのです。それに気づいた貴方達は、もしもを考え彼女を止めに走ったのです。結局はステータスや装備的にもう一人の盗賊の方しか追いつけなかったようなのですが」
「そして私達の所に着いた彼女はナイフを投げたのです。ここでレイ少し聞いてもいいですか?」
「何だ?」
「お二方が、投げたナイフは同時に投げられ、同じ場所を狙っていたのです?」
同時?同じ場所?何故そんなことを聞くのか?けど確か。
「同時ではなく少しずれて、後に投げられた方が少し先に投げられたナイフの方に投げられていたはずだ」
「そうなのですよ、彼女が投げたナイフを空中で落とすために、もう一人の方は、ナイフをなげたのです」
「はぁ!?いやそれは、おかしいだろ後のナイフ少し寄っていたくらいでバチクソ頭狙ってたけど!」
「まあ、しようとしただけで失敗して結局の所、殺しにかかってきたのと同じなのですけど」
いや、よっぽどの達人じゃなきゃできるわけないの簡単に分かるだろうよ。
「つまり、纏めると、先走りとミスで俺達は、殺されそうになったってことか?」
「簡単にするとそうなのです、で、どうなのです?当たらずとも遠からずだと思うのですけど?」
「御見逸れした、こちらが、聞いたこととほぼ同じです」
「そして、仲間があなた方の命を危険にさらしたこと、深く謝罪致します」
「此度は、誠に済まなかった」
今度は、全員が深く頭を下げてきた。
しかしだ。
「謝罪だけで物事を済ませるわけじゃあねぇよな」
「ちょ、ナイっち」
「ああ、我々にできる範囲で、あれば何でもしよう」
「ええ!?」
「当然だ」
こいつ等、其処ら辺は弁えてるみたいだな。
ところで、俺の右手が極限まで光り輝いているのだが、これどうしよう。
「ナユタ、これどうしようか」
「眩しいので、あまり向けないでほしいのです、上に放つのが一番被害が少ないと思うのです」
「じゃあ、そうするか」
「ナイっち、待っ―――
シンラが言い切る前に俺は、既に空に向けて腕を振っていた。
振った瞬間に台風のような音を伴い、暴風が吹き荒れた。
いやー、強すぎねぇか。
暫くして、風は止んだ、幸い全員髪が乱れたくらいで何か無くしたとかは、無いようだ。
「レイ、全然一度目を生かしてないのです、どうなるかくらいは予測できたと思うのです」
「凄い威力だな」
「はぁー、まだ落ち着けてないみたいだ、済まない、ちょっと頭を冷やしに行ってくる」
「あんまり、遠く行かないのですよ」
「ああ分かった、ナユタとシンラで何してもらうか話し合って決めろ」
「オーケー」
「わかったのです」
これでいいか、少し落ち着いて考えよう。
あ、まだ、言い忘れてることがあったな。
「おいてめぇら」
急に呼ばれた六人は、姿勢を正した。
「いまは、信用してやるが、俺は許しちゃいねぇ、こいつ等を信頼して今は見逃すが、もしもこいつらに手を出すなら――――
自分でも驚くほど、冷たく鋭くその言葉は出た。
やはりまだ、落ち着けてないみたいだ。
「じゃ、俺は少し散策してくる」
「わかったのです」
「いってらっしゃーい」
二人に見送られ俺は、森に足を踏み入れた。
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