肆 ゴウエモンの最期
霧がすごい勢いで引いていく。
「おじいちゃーん」
叫んでみるけど、返事はない。
「
いつの間にか、私の後ろに
「ク、クマスケ」
彼は、まさに置いてけぼりの小熊だった。
おじいちゃんは帰ってこない。
還ってしまった。
なぜだか、そうわかったのだ。
『もし、もーし。
地面に取り落とした携帯で、お父さんが絶叫していた。
「ごめ、お父さ。おじいちゃ、いなくなった」
『落ち着っ、
いや、あんたがてんぱってるだろ。
『もしかして、そばに
お父さんて、
楓花は自分の胸でしゃくりあげる
「いる、て、
『おじいちゃんの
お父さんは、車をすっ飛ばしてきた。
そして、おじいちゃんの家で、
「わー、本物」
「
「も、もうす」
なってねぇ。
「く、
「お父さん、その話、知ってるの」
「うん……。村の資料館で」
びば! 村の資料館。
「援軍を呼びに行った密使は、援軍より先に城へ戻ろうとして、その城の目前で、その」
お父さんの歯切れが悪くなる。
「敵に捕まって、
「
「いや、その密使の名は
「……」
ぱちんと、
それから、
小さな村の資料館は、しんとしていた。
この辺りにあった城についてとか、各時代の領主についてとかの古文書の複製が閲覧可能になっている。
「おかしいな」
古文書資料を見ながら父が首を傾げている。
「僕が前、見た時は、密使の名は
だが、そこに書き記されている名は。
敵方に捕えられた
いったんは了承したと見せかけておき、
敵大将の怒りすさまじく、すぐさま
そう、記されていた。
「おじいちゃんが変なことを言うから、前に僕なりに調べたんだ」
「お父さんは、仏間の押入れの
「ああ、絶対、開けちゃダメって、おばあちゃんに言われていたけど、開けたことある。そう言われたら、子供は開けるよ」
お父さんの自己弁護、すごい。
「『霧が山に出れば』とも言っていたなぁ。もし、自分が急にいなくなっても悲しむなとも」
おじいちゃんは、ずっと還る機会をうかがっていた。
「おじいちゃんが、クマスケが処刑される役割を代わったの?」
「いや、本来、おじいちゃんが、その立ち位置だったのに、こっちに来たから、それで
「おじいちゃんとクマスケ両方が、こっちに居続けたら?」
「それはない」
それまで黙っていた
「
楓花と楓花の父を見る
楓花の父は、「……今は
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