参 ゴウエモンの帰還
「
おじいちゃんは仏間に行くと、押入れを開けた。
そこには、古い
新しい小袖も
「この地にいる間に仮説を立ててみたのです」
おじいちゃんは刀を
刀は、まったく錆びついておらず、冴え冴えとした光を含んでいた。
「霧の立つときに、ひとり来るなら、そのときに、ひとり還れるのでは、と」
「
「
おじいちゃんは、その手をやさしく引きはがした。
「この地に慣れるには、しばし時が必要でしょうが。何のことはない。
おじいちゃんは私に向き直った。
「頼んだ、
「た、頼まれた」
ああ、なんて自分は
「われも行くっ」
「試されるのは構いませんが、おそらく、来た者はすぐには還れぬのです」
「でも、でも、試してみようよ。おじいちゃん!」
「
子供ふたりにぶらさがられた、おじいちゃんは観念してくれた。
おじいちゃんと
そして、私たちはまた山へ向かったのだ。
霧は、うねるように体を伝う。
1メートル先も見えない。
「
まだ、
「見えぬ」
「では」
そして、私の指に指を絡める。
いや、これって恋人つなぎ。
あったん? あったん? そんな戦国時代から。この手つなぎ。
「この先に山小屋があります。そこまで、行ってみよう」
おじいちゃんの後ろ姿が、霧の中にぼんやり浮かんでいる。
カチャカチャ、
山小屋には
「そう言えば、おじいちゃん、よく、ソロキャンプしてたね」
「あぁ、還れぬかと思ってねぇ」
とろんとした霧に辺りは包まれて、昼なのか夜なのかもわからないほどだ。
「疲れてもいましょう。昼も夜も山の中を急いでおったから」
こんな子供でも、戦国の世では、いっぱしオトナの役目を担っているのか。
「
「そう言ってた、クマスケも」
楓花は、さっさと
「生きていてほしかった」
おじいちゃんは、それだけ言って、あとは
「私、なにかできるの?」
そう聞くのが、精一杯だった。
「
「がってん……」
「おじいちゃんな、
うん、そうだね。
「おじいちゃんは還れるはずだ。調べた文献には、敵兵に囲まれた城を抜け出した密使は
「その文献、どこで見たの」
「この村の資料館」
びば! 村の資料館。
そのとき、ライン通知が鳴った。
「あ、お父さんから」
楓花は最速でタップした。
『
おじいちゃんのところから帰ってくるの何時』
『もうちょっと
かかるかな』
『迎えに行く』
『さんきゅ
おじいちゃんの名前
ふるえた』
『
お父さんの
いきなり、電話が鳴った。
お父さんからだ。
電話に切り替えてきた。
『
「いっしょだよ。山小屋」
『もしかして、霧。霧、出てるのか』
「うん。おじいちゃん、おじいちゃーん」
おじいちゃんを呼んだけど、返事がない。
いない。
おじいちゃんがいなくなった。
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