第2話
◆
戦闘はオルシアス軍から仕掛けられた。
騎馬隊が突っ込んでくるのを歩兵隊は指揮官の指示のもと、機敏に二つの別れて道を作った。遅れた歩兵が蹄にかけられるが、構っている暇はない。騎馬隊が後方へ回っていく頃には、味方の騎馬隊がそれを追尾し始め、一方で敵の歩兵が突っ込んでくるので今度は密集隊形でエッセルマルク軍の歩兵も前進。
両者の歩兵が押し合いになる。こういう時はとにかく一塊になることだった。
問題は歩兵の中でも奴隷の歩兵が最前線に立たされることで、俺も直接、オルシアス軍の歩兵と剣を交えることになった。
一人を切り、一人を突き、あとは何もわからない。
ある時には俺は吠えながら剣を振り回していて、またある時には盾を振り回していた。槍なんて最初にどこかに消えてそれきりだ。
いつの間には日が暮れていて、両軍が下がっていた。
野営が始まり、しかし炊き出しなどしない。何かを練って焼いた、歯の方が砕けそうな硬い物体を舐めることになる。
歩兵の小隊長が損害を報告しに行ってから戻ってくると、夜の闇の中で隊の再編成が行われた。
俺は何気なく、あの遠い日、指揮官の首を取れば生き残れる、と呟いていた仲間のことを思い出し、探してみたものの見つからなかった。
夜の闇のせいだ。そうに違いない。そう言い聞かせた。
夜明けと同時に、戦闘が再開される。
今度は騎馬隊が突っ込んでこず、騎馬隊同士で駆け合っている。実に見事な動きをした、と言いたところだけど、俺にはそれを見物する余裕はなかった。
この日も早々に槍は手からもぎ取られて、オルシアス軍の歩兵の死体と道連れになった。
剣はあっという間に切れなくなり、そして折れた。しかしここは戦場で、ここにいるものは全員が武具を持っており、さらに言えば持ち主が戦死している所有者を失った武器が多くある。
とにかく、転がっているものはどんな武器でも使うしかない。
押し合いの中で俺は全身に傷を負った。鎧の一部が強烈な刺突で引きちぎられ、脇腹に激痛が走ったが、まさか戦いを中断するわけにはいかない。目の前にいる異国の歩兵が、俺の頭をカチ割ろうとする剣を繰り出すより先に、こちらが相手の頭を粉砕しなければそれで終わりだ。
必死だった。
どれくらいを戦ったか、気づくと両軍が引いており、しかしこれは小休止といったところらしい。両軍ともが疲弊し、立て直しが必要なのだろう。
エッセルマルクの歩兵隊の全部は見えなくても、俺の周りでは姿が見えないものがかなり多い。陣形を改めて組んでいるものの、大きさは一回り小さいのではないか。
あとはどこで退くか、どちらから退くか、そんなところのはずだが、もう一戦、ぶつかってみようという指揮官の意思が、どこからともなく感じ取れた。
日が頂点を過ぎ、落ち始める中で、その日、二度目の戦闘が始まった。俺たち奴隷上がりの歩兵隊の生き残りは、三角形のような陣を組まされた。
その突破力でオルシアス軍の歩兵の中央を突破するという。歩兵の指揮官は、絶対に下がるな、下がれば容赦なく切る、と何度も怒鳴っていた。
もちろん、いきなり歩兵隊だけで敵中突破などできないので、歩兵に先立って、真っ黒い鎧で身を覆った騎馬隊が突っ込んでいった。器用なことにその騎馬隊は突撃の中で二つに分かれ、片方が阻止しようとする敵の騎馬隊に対処し、残り半数が歩兵隊に先立ってオルシアス軍の歩兵の壁に突入した。
オルシアス軍も歩兵の密度をわずかに緩め、騎馬隊を通したが、騎馬隊が危うく歩兵に取り囲まれそうになる。
それでも騎馬が突入した場所には空間ができている。
その空間に、エッセルマルク軍の歩兵が俺たち奴隷を先頭にしてぶつかっていった。
激戦なんてものではない。
俺の左右で仲間がどんどん倒れていく。支えることも、助けることもできない。
今は前に進むことだった。
エッセルマルク軍は猪突猛進とはこのこととばかりに敵陣の半ばまで食い込んだ。
その時、俺は、馬上の敵と目があった。
そう、馬に乗っている。指揮官だ。鎧は立派で、装飾が多い。
何か彼が怒鳴っているが、構うものか。
目の前にいる敵の歩兵を切って、切って、切り捨てた。
まるで俺に怯えたように、敵兵が下がる。
構わず足を送り、がむしゃらに、技も何もなく剣を振り続けた。
馬上の敵、指揮官がこちらへ突っ込んでくるのが見えた。
それだけ俺が厄介だったか。
俺の剣が折れた。しかしすぐに名も知らぬ敵歩兵の使っていた剣を手に取り、指揮官を迎え撃った。
強烈な一撃を剣で受け流す。腕に痺れが走った。
反撃しようとした。
できなかった。
瞬間、大地が激しく揺れたのだ。
混乱する間もなかった。
俺は急に、足場を失っていた。
そう、大地が二つに割れたのだった。
(続く)
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