第3話 手放した意識と虚な幻影

「…けて…。…たす…。…け…て…。助けて…。」

泣いている声が聞こえて、あたりを見回す。

だけど真っ白な空間には何もなくて、ただ僕だけがポツンと佇んでいた。

泣き声は聞き間違えなどではなく、鮮明に僕の耳にハッキリと届いてくる。


「何処にいるの?何処で泣いているの?どうして泣いているの?教えて…。俺はどうしたらいい?」

あたりを見回しながら、普段出さないほどの大きな声で叫んだ。

叫んだ声は響く事なく消えて、俺は無力な自分に押し潰されるように力なく膝を着いて座り込んだ。


座り込んだ途端、光が僕を導くように浮かび上がった。

光の導く先には、座り込み泣いている少女がいた。

彼女の泣き声に誘われる様に、勢いよく立ち上がって少女の側へと近づくと強く手を伸ばした。


だけど少女に触れる寸前で、バツりと視界が途切れ俺は現実へと引き戻された。


「…あっ、気がつきましたか?また電信柱のところで気を失ってたんですよ。大丈夫ですか?毎日繰り返してるみたいですが、病院は行かれました?」

「…毎回、すみません…。病院へは行ってるんですが、精神的なもので…。」

駅のすぐ側で、ぐるぐると回る視界に耐えていた事を思い出して、情けなさを感じながら女性の車掌さんに謝罪をして溜息をついた。

ゆっくりと身体をお越すと、ふと泣き崩れる女性と妙に冷静な男性の事を思い出した。


「…朝、泣き崩れてた女性って、前の…?」

「…えっと…個人情報なんで詳しくは話せないんですけど…、1週間少し前に起きた事故の…。少し前に葬儀が終わったみたいで、親御さんが事故の件で連絡を下さって…謝罪にいらっしゃってたんです…。その際に奥さんの気を少しでも紛らわそうと、旦那さんが花を手向けて行こうと提案されたみたいで…先程まで立ち寄られてました…。」

「…そうなんですか…。」

やっぱり気を失う前に見たのは、あの子のご両親だったんだ…。

でも、父親は何故あんなに冷静だったんだ…?

母親は化粧などできないくらいに憔悴した様子で、クマも酷く頬は痩けて着ていた服はブカブカだった。

きっと娘が自殺した事で、正常な感覚を失ってしまったんだろう…。

悲しみや罪悪感に喪失感、何処にぶつければ良いか分からない名も知れぬ感情が頭から爪先まで全身を飲み干して、壊れた心が母親を蝕んでしまったに違いない。

だから…ちょうど良いサイズだったはずの服が、ブカブカになるほど痩せてしまったんだろう…。

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