任せること


納得のいかない顔をする畑中を、清水は駅まで送っていった。




泊めようか迷ったが知花が苦い顔をした。

送り終わり、医院の締め作業をする。

看護師はすでに帰っていた。

中庭に通じる扉を施錠していると、秋の風が頬を撫でる。

暑くも寒くもなく過ごしやすい天気だが、虫の音が騒がしい。


「知花くん」


声をかけると青年は顔をあげた。

先ほどと同じように木の根元にいるが、顔が青白い。


「悪いけど、畑中くんに協力してあげて。女生徒の正体は僕が知っているからこっちは任せてよ」


知花は自嘲気味に笑うとポケットからスマホを取り出す。帰り際、清水に言われて交換した畑中の番号を表示する。


「一週間あれば一人で解決してやる。終わったら俺もあんたに合流する」


月明かりの下、目をギラつかせながら電話をかけた。

自分も行く、という畑中の主張を切り、空を見上げる。清水は何も言わずに微笑んでいる。

ケイトの顔を知っていれば連れていくつもりだったが、今日みた限りうるさいだけの奴だ。




知花は目を閉じ、女生徒の姿を思い出していた。どうしても彼女が引っかかるのだ。







一週間後。


清水医院は午後から休診だ。朝は混んでいたが昼頃になると患者はいなくなった。

看護師が受付に座って一息ついてテレビをつける。受付の隅に小型のテレビが設置されているが患者は気づいていない。テレビに夢中でこちらの呼びかけに反応しないし、チャンネル争いも起きたため早々につけなくなった。

代わりにオルゴールを流すようになった。

看護師はテレビよりオルゴールの方が気に入っている。しかし疲れた今、無性にテレビをつけて一息つきたくなっていた。




お昼時なのでどのチャンネルもニュースばかりだ。つまんない、とチャンネルを回そうとした時だった。


扉が勢いよく開いた。


急患かと身構えると、そこには先週来た少年が立っている。清水先生のお客さんだという少年は息を切らしていた苦しそうだ。


「どっ……」


どうされましたか、と聞く前に畑中は叫んでいた。


「どういうことですか説明してくださいっ」


他に患者がいなくて良かった。

看護師は冷静に思い、素早く近づく。触れようとしたがその前に安心する声が聞こえた。


「畑中くん、午後まで裏で休んでいてくれないか。今は勤務中だから」


清水が診察室から出てきた。

先週と違うのは白衣を着ているところだ。


「落ち着いていられますか」


畑中は目をつり上げる。

威嚇した猫のように、髪の毛が逆立っているみたいだ。


「うん、でもここが病院なのは忘れないで」


柔らかいが有無を言わない口調で、強引に畑中を中庭に通す。

日差しの中、木の根元に目的に人物はいない。

畑中はフラフラと木に近づき腰をおろした。

日陰なので少し寒い。


「くそ……」


唸るように呟き、顔を膝にうめた。




待合室では、看護師がポカンとしている。テレビの中で、アナウンサーがニュースを読み上げていた。


『続いてのニュースです。児童養護施設で集団食中毒がありました。園児四名が重体で病院に運ばれましたが、先ほど死亡が確認されました。原因は現在調査中とのことです……』











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