説明



清水のお茶のすする音がする。

知花は茶を片手で弄んだまま無言になる。


「青木からどれくらい聞いていたのでしょう……」


消え入るように言うと、清水はにっこりと笑った。


「男子高校生がそっちへ向かうから助けてあげて、しか聞かされていないよ」


知花は唇を舐めた。最初から説明しようと決心したのだ。



「俺は人を殺さなければいけません。政府に容認されているので捕まることも、罰を受けることもありません。でも殺したくないんです、助けてください」


「海外に逃げれば?」


知花はコップを逆さにしている。いつの間にか飲み終わっていた。


「無理です、海外はもっと制度が進んでいるので逃げるところはありません」


「制度?」


畑中はテーブルに視線を落とした。


「簡単に言うと、政府公認の殺し屋を育てています。アメリカとイギリスが成功して、それに日本が追いつこうとしています」


「公認の殺し屋ねえ……」


畑中は髪をかき上げた。白い頭皮に縫った跡がある。


「殺人鬼の脳のクローンがここに入っています。メンバー全員に。すでに事件を起こしてしまった殺人鬼をそのまま使うのはまずいので、こうして選ばれた人にクローンを植えつけサイコパスを人工的に造っています」


我ながら何を言っているのかわからない。誰が信じようかこんな話。

だが目の前の2人は真剣に縫い目を見ている。


「脳の移植とはまた別かねえ……」


清水はコップの中を覗き、振り返って知花に無言の催促をする。

コップを回収し、ついでに畑中のコップも持っていく。


「前頭前皮質をはじめとした脳の機能をそのままコピーしています。殺しに罪悪感はなく、社会で真っ当に生きられないようにコントロールをしているようです」


「その割に君は普通に見えるけど」


「俺は影響されなかったので」


知花がまた現れる。随分と早い。さっきより並々と注がれた茶を前にして、清水は首をひねった。


「青木くんは何をしているのか全く教えてくれなかったからね、なるほどねえ。彼らはまだそんなことをしていたのか」


「お前は殺したのか?」


知花の声に反応すると、爛々とした目と合った。


「俺はまだです、シンクなので」


「シンク?」


「殺す側の順番です。2から10あって、小さい数字の人から依頼されて殺していきます。俺は五番目だからシンク。トランプの呼び方にあやかっています」


スマホを取り出してみせる。画面をスライドすると、次のように書いてあった。


【A…エース

 2…デュース

 3…トレイ

 4…ケイト

 5…シンク

 6…サイス

 7…セブン

 8…エイト

 9…ナイン

 10…テン

 11…ジャック

 12…クイーン

 13…キング】


画面ごと下にずれる。そしてもう1つの画面が現れた。黒いアイコンのアプリだけ。タップするとチャットが現れた。


「グループチャットです」


「最近の若者か」


知花が呆れたように言う。

アイコンはシンプルな数字になっている。コメントした人は次々と労いの言葉を3の人にかけていた。


「3番目のトレイが終わったので次は4のケイトが殺しに行きます。ハッキングしてケイトのターゲットがわかっています。これから、ターゲットを保護してケイトをおびき出したいです」


メールの画面が表示される。英数字が並んであり、一見バグっているように見えるが畑中には読めていた。


「で、ケイトを警察に突き出すの?」


「警察は無理なので俺が匿います」



ドン、と胸を叩いてみせたがイマイチ締まらない。知花が胡散臭そうにこちらを見ている。


「あのさ、お前って馬鹿だよね。青木さんの紹介だから話だけ聞いてみたけど夢物語すぎて聞く気になれん。結局お前が人を殺したくないから自分の順番がくる前に前の人にやらかしてもらおうってことだろうが、う、」


痛え、と知花が唸る。

見えないところで清水が制裁をしたらしい。


「畑中くんは私たちに何をしてほしいんだい?」

「だから、「だからさあ」


知花が遮る。眉間にしわを寄せ、両手で握りこぶしを作っている。最初の儚げな印象と随分かけ離れていた。

清水は知花の前に出ると、


「わかったわかった、匿うのは私達に任せてくれ。そうやって六番目と七番目と、回収していけばいいんだね?」


はい、と知花から目を逸らすに返事をする。


「では畑中くん、ターゲットと四番目のケイトの話をしようじゃないか」










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