プロローグ② 地下3階
地下3階も、地下2階と同じ構造をしていた。
実験室と同じようにガラス張りの部屋が並ぶ。大きく違うのは、ベッドが設置されているところだ。1番奥の部屋で橘マツリは寝ていた。
壁に長方形のくぼみがあり、そこに上半身を預け、椅子に座った状態だ。金に近い髪色がライトに照らされている。
「マツリさーん」
道尾が部屋に入っても金髪の女性は起きない。
「疲れているでしょ、寝かせてあげてよ」
続いて部屋に入った青木は、部屋の中を見渡す。
「ここはしばらく使われていないから埃っぽいな。掃除サボっている奴がいる」
道尾は訴えるように青木を見つめた。しかし青木は気づかない。
「お隣も空きましたから掃除する場所が増えましたね」
「隣どころか全て空いたでしょ」
実験体が外に放たれた。おかげで地下3階は空室だった。
「いないとやっぱり寂しいな」
青木は実験体たちを思い出していた。特にお気に入りを。
「あいつは良いよ。本性が眩しくて、コピー脳に全然影響されていない」
「畑中優のことですか?」
「ああ、私は畑中推しだから、何かやってくれそうな気がする。K制度なんて狂った実験を壊してくれそうじゃない?」
道尾は慌てて扉を閉めた。誰かに聞かれたら恐ろしい。
「清水のことを紹介したんだ。どう動くか楽しみだな」
「ストップです、誰かに聞かれたらどうするんですかっ」
「いいんだよ、5年前の悲劇を繰り返してはならん。俺らで潰しておくべきだった」
「本当にね」
低い女性の声がした。いつの間にか橘マツリは起きあがっていた。その目から涙が伝う。
「よく寝たわ、顔洗ってくる」
「マツリ、実験体2と実験体3がすでに動き出している」
マツリは青木の言葉を無視して部屋を出て行った。あうあう戸惑っている道尾に、青木は困った笑みをみせた。
「ところで道尾君、スタンフォード監獄実験って知っているかい?」
「アメリカのスタンフォード大で行われたやつですか?有名ですよね」
スタンフォード監獄実験とは、1971年にアメリカ心理学者の指導のもと行われた実験だ。被験者を看守役と囚人役に分け、役を演じさせる。やがて看守役は囚人役に対して虐待を行うようになるという内容だ。
「人間は状況次第で悪になるって結果でしたっけ」
「そうそう、普通の一般人が悪にね
「彼は良心そのものだ。近くに置かせたほうがいい」
水の音がする。雨音にしては心細い音は、壁の中で流れているのだ。
マツリはまた出て行ってしまったので、青木はベッドに寝そべった。
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