第2話 何故だかつるりとした感触だなと思いながら僕はそのままポチに押し倒された。

「いや、変身なんかしなくても良いよ」と僕は言った。




 ポチが変身してどれ程の大きさになるのか分からないが、もし僕より大きくなってしまえば力で抑え込まれ奴隷にされてしまうかもしれない。




「ポチ、君は僕を取り殺すつもりなのだろう?」と僕はポチの瞳を真っすぐに見つめる。




 その瞳を見ると、走馬灯のようにポチとの思い出が蘇る。ポチを買って貰ったばかりの頃、一緒にお風呂に入ってポチがびしょびしょになり、抱いた感触が凄く気持ち悪かった。ポチ、君はお風呂に入ると水を吸って何倍にも重くなるんだ。スポンジだってびっくりだよ。




 一緒に寝たこともあった。ポチを胸に抱いて寝るのだ。しかし寝ている僕がいつの間にかポチを枕にしてしまうものだから、ポチは少し細長くなってしまった。それからはポチがこれ以上スレンダーにならないよう、僕はポチを机の上に置くようになった。




 僕は勉強中にやる気を失ってしまった時などに、ポチを抱きしめた。そうすると不思議にも、やる気に満ち溢れるのだ。




 僕は思い直して、最後にポチを抱きしめることにした。すると、ポチが小刻みに震え出したではないか。




「抱きしめてくれるのは嬉しいけど、適当なことばかり言って! こうなったら」とポチは震えながら言った。




 ポチが少しづつ大きくなっていることに僕は気づいた。そして『ボンッ!』という音と共に、ポチから白い煙が発せられ僕の視界は遮られてしまった。




 音とともにポチがあっという間に変身したということが僕は手の感触から感じることができた。僕の腕に突然重りが乗せられたみたいにポチが重くなったのだ。何故だかつるりとした感触だなと思いながら僕はそのままポチに押し倒された。




 僕はポチに馬乗りの体勢を取られてしまったようだ。このまま僕は変身したポチにグラウンドパンチを見舞われ、再起不能にされてしまうのだろうか。 




 煙が少しづつ薄くなり、変身したポチの輪郭が見えるようになった。着ぐるみの輪郭ではないな。その線はまるで女性の体のように滑らかであった。




 もしかして、ポチは女の子だったのだろうか。もしかしてではなくその通りであることは、視界が開けてすぐに分かった。




 秋に黄色く染まる紅葉のような髪の色、ピンと立った獣耳、肩や腹部は露わになっており、胸には晒が巻かれている。




 そんな女の子の姿が、僕の目の前にあった。




「あたしは呪われてなんかいないんだから!」と女の子、いやポチは目に涙を浮かべていた。


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長年大切にしてきたぬいぐるみが美女に変身した。 @umibe

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