道草家守インタビュー【後編】たくさんの作品に触れて、たまっていた何かから着想が生まれ出る
2022年5月に著作とコミカライズが3冊発売され、新たなコミカライズも連載が開始される作家・道草家守さん。この新作発売を機に、道草家守さんにお話をうかがいました。
『龍に恋う』イラスト:ゆきさめ
『青薔薇アンティークの小公女』イラスト:沙月
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それぞれのヒーローは「いい男」と「一番美人」
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――毎回、道草さんの作品に登場するキャラクターは、繊細さとコミカルさを内包していると感じます。『龍に恋う』の銀市も魅力的なキャラクターですね。
✿道草
ありがとうございます。銀市はとくに自分の好きなキャラクター造形なんです。
長髪で和装のキャラクターが好きで。とにかく「いい男」にしたいと書いています。
これまで書いてきた作品の中で、一、二を争ういい男になるよう頑張っています。ただ、わたしはそういったキャラクターにこそ、たった一人の特別な相手ができることでぐずぐずになってもらいたい!と思っています!
特別だからこそ、翻弄されたり、思うままにいかなかったり……そういった様子を。
同時に、ハッピーエンド至上主義なので、その点は読者の皆さんには安心して頂けたら嬉しいです。
――同じくヒーローである『青薔薇アンティークの小公女』のアルヴィンですが、銀市とはまた違った人物造形ですね。
✿道草
彼のことは「一番美人」に描こうと思いました。ただ、銀市とは逆に、周囲が彼をほうっておけない――。そして本人はそれを自覚していない。ひとつ間違えると、女の人を破滅させかねない魅力のある男性だと思っています。
わたしはそう思っているのですが、周囲の反応に耳を傾けると、やや違った印象になっているのかもしれません。
ですので、あとは読者の方に自由に感じて、受け取って頂けたら……。
物語のなかでしか伝えられないので、あとは読者さんの受け取り方次第ですので――「お出ししますのでどうぞよろしくお願いいたします!」という姿勢です。
――サブキャラクターも可愛らしい“人ならざる者”や猫が登場して、惹きつけられます。
✿道草
珠といっしょに、サブキャラクターのあやかし達もわちゃわちゃしているのは可愛らしいだろうな、と思いながら書いていました。
コミカライズを担当してくださる漫画家のゆきじるし先生があまりに可愛らしく描いてくださるので「なんでもっと登場シーンを増やさなかったんだろう!?」と思うほどでした。
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たくさんの作品に触れて、たまっていた何かから着想が生まれ出る
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――新作でも、特典のショートストーリーでも魅力的なシチュエーションを次々と執筆されていますが、なにから発想・着想を得ていますか?
✿道草
新しい物語を考えるときと、シリーズの続刊を考えるときで、それぞれ出発点が違うのかなと思っています。
新しいシリーズのときは「書きたい」という気持ちから始まります。自分の読んでいる本やゲームや映像作品で、いいなと思える作品にたくさん触れた後に「あ、でもわたしはこういう本を読みたいな」と転がり出る出るように生まれたり……。
また、友人や編集さんと話していて「こういうのはどうでしょう?」と投げかけられたときに、自分の中にたまっていた何かが点と点がつながって生まれているように思います。きっかけを掴むというのが、まずは出発点になるのかなと。
続編を考えるときは、キャラクターに何をしてほしいか?から考え始めていくことが多いです。
たとえば『龍に恋う』の2巻では、続刊のお話をいただいたときにわいた「珠に友達ができたらいいな」という思いから始まりました。それまで普通の人間らしい人生を歩んでこなかった主人公・珠が「普通ってなんだろう」と考えて、自分らしい情緒を育んでいくならばどうだろうと。
そこから友達として以前勤めていたお屋敷のお嬢様・冴子というキャラクターを考えました。その時代の華族の少女も書くことが出来て、女学生の文化も描ける!ととてもわくわくして、比較的スムーズに骨子を形成できたのかなと思っています。
――なるほど、そのような流れで構想を練っていくのですね。
✿道草
はい。なのですが、ここが上手くいかないと、あっという間に行き詰まるので。いつもいつも……はい。
――出発点が一番大変ということなのですね。ほかに、執筆にあたって、とくに印象に残っている部分はありますか?
✿道草
今回の4巻では、口入れ屋の先輩でもある瑠璃子と珠の関係性を掘り下げたいと考えました。
1巻でも、自我が出ていない珠が、それでもとっさに行動したのが瑠璃子をかばうことでした。その相手・瑠璃子を描くにあたってなにがいいだろう?と思うと、洋装や百貨店といった、新しい文化、当時の最先端……あの時代ならではの文化を取り入れました。なおかつ、主人公の珠にはさまざまな衣装を着せることができて、嬉しかったです。
それから、珠と銀市の関係性ですね……。珠は、まだ1巻の時点では恋をすることができない、人間としては心が育っていない状態でした。そこから、奇跡的な縁に恵まれて、心をゆっくり育てています。同時に二人の関係の変化も書かせていただいています。
ただ、銀市がしゃべらない、しゃべらない! 銀市は常識のある大人です。そして「いい男」なので。本来ならば、まだ子どものようなところもある珠には迫らないですし、彼から恋をすることもありえないと思うのです。
ただ、珠のことをかけがえのない存在として感じていて、二人が縁と巡り合わせと努力で変化していく姿を描きたいなと思っています。一方で、どうにも銀市の堅い理性からすると、幼い珠にどう接していくかが扱いが難しいところです。
『青薔薇アンティークの小公女』では、アルヴィンの描写に悩みました。わたしとしては、上流階級に属するようにみえるものの、どこかその世界で違和感がある存在に見せようと。最初の原稿からすると驚くほどに変えました。
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作品のこれからと見所
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――道草先生がここからシリーズを通じて描きたいものを教えていただけますか?
✿道草
『龍に恋う』は先ほどとかぶりますが、人らしさに乏しかった主人公・珠が、人間らしい情緒を身につけながら、自分の恋や想いも得ていく物語をえがきたいと思っています。
だからこそ、4巻でだいぶ自分の想いについて自覚的になった珠が、乗り越えていかなければならない壁も登場すると思います。ただ、最後はかならずタイトルを裏切らないお話になっていく予定ですので、ぜひ物語を最後まで楽しんで頂けたら嬉しいです。
――『青薔薇アンティークの小公女』の見どころを教えてください。
✿道草
『青薔薇アンティークの小公女』の世界では妖精という神秘が薄れていて、伝説上のものとなりつつあります。
そのなかで神秘を求める青年と、現実という重いものに押しつぶされている少女が出会って、自分本来の姿で生きていけるようになる過程を大切に書いています。もう一つの、少女が幸せになる物語として、ぜひ読んで頂けたらなぁと思っています。
<富士見L文庫HPの記事前編はこちら>
https://lbunko.kadokawa.co.jp/news/issue/entry-9080.html
道草家守2冊刊行記念インタビュー「たくさんの作品に触れて、たまっていた何かから着想が生まれ出る」 道草家守/富士見L文庫 @lbunko
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