オバケ出現?



 それからの僕は、すっかりオバケにおびえる日々だ。戦々恐々せんせんきょうきょうってやつだね。


 夜中に風鈴鳴るだけでビクッとするし、なんなら外してしまえばいいんだけど、それはそれで呪われそうで怖い。


 廊下を歩いてても、背後に何者かの気配を感じる……。


 な、なんかいる?

 絶対いる。

 そりゃ背後だからさ。見えないよ? 見えないけど、何かの気配を感じる。

 いや、その気になれば、人間だって、背中のちょっと手前までは見えるんだ! 黒いざんばら髪が見える気がする。さ、さ〇子的な?(大人の事情で伏字)


 ど、どうしよう。動けない。二階にあがって、洗濯物をとりこまないといけないのに。


 こんなのは気のせいだ。

 そうだ。薫。おまえはいくつだ? 二十一歳だ。そう。もう成人だぞ? ビールだって飲むし、去年、成人式だってあげた。(このころはまだ十八歳成人の前だった)立派な大人だ。ずっとオバケにふるえてるわけにはいかないんだ!


 勇気をふりしぼって、僕はふりかえっ……た。


「ギャーッ! オバケー!」


 ラーメン髪をふりみだした巨人のオバケが、僕を見おろしてる。しかも全身ずぶぬれで裸だ。

 ラーメン髪のオバケ……ラーメン……。


「——って、兄ちゃんかッ!」

「ハハハ。兄ちゃん以外、誰がいるっていうんだよ?」

「まだ夕方だよ。風呂入るの早すぎない?」

「んん、汗かいたから」

「ちゃんと体ふいてから歩いてよね!」

「悪い。悪い」


 くそ。パンイチで洗い髪をグシャグシャにした兄にふるえあがってしまった。


 と、そのときだ。


 チリ〜ン。

 ああ……またアレだ。アレが鳴ってる。


「ふ……風鈴が、風鈴が鳴ってるぅ」

「今のはふつうに風だろ? 兄ちゃんが風呂入る前、窓あいてたぞ?」

「違うよぉ。さっき学校から帰ったあと、ちゃんと閉めたもん。夜は冷えるからぁ」


 ゴクリ。猛はここにいる。窓は閉まってる。したがって、風鈴は風にゆれない。


 じゃあ、なんで鳴るんだ?

 じつは家の外で道路工事してて、その振動でゆれるとか?

 でも、ざーんねん! 今は工事してないもんね。かーくんだって、そのくらいは把握はあくしてるよー。


 いやいや、僕。それは自分を追いつめるだけだぞ?

 だって、自然現象じゃないって認めてしまうことになるじゃないか。


「……オバケ? じいちゃんなの? じいちゃんならギリ耐えられるよ?」


 じいちゃん、カムバックとか言っちゃったからなぁ。ウィットのきいたじいちゃんは、ほんとにあの世から戻ってきてしまったんだろうか?


 チリ〜ン。


「じいちゃん?」


 チリ〜ン。


「じいちゃんじゃない?」


 チリン。チリ〜ン。


「わかんないよ! じいちゃんだったら一回、じいちゃんじゃないなら二回、鳴らして!」


 チリン。チリン。チリン。チリ〜ン。


 僕はキレた。

 僕がこんなに真剣に頼んでるのに、チリン、チリン、チリン、チリンはないんじゃない? 四回だよ? 四回? 一回どころか、二回ですらないんだよ?

 これじゃ、じいちゃんなんだか、ほかのオバケなんだかわかんないよ!


「誰なんだよ、もう!」


 縁側へむかってダッシュー!

 速いぞ。僕。逃げ足だけは抜群だからね。

 今は逃げてるわけじゃないんだけど、そこはスルーだ。オバケの風鈴攻撃で混乱してるからー!


 そして、縁側にいたを、僕は見た。

 ちょこんと前足ついて、キュートなセミロングの毛並みの白猫。


「……ミャーコ?」

「ミャア」


 愛猫はこの上なく愛くるしく僕を見あげている。

 で、とんだね。


「ミャア」


 ミャーコ大ジャンプ&ネコパーンチ。

 チリ〜ン。

 風鈴一回鳴る。


「ミャア。ミャア」


 大ジャンプ二回。ネコパンチ二回。

 チリン。チリ〜ン。

 風鈴二回鳴る。


「ミャア。ミャア。ミャア」


 チリン。チリン。チリ〜ン。


「……」

「……」


 僕と猛はぼうぜんと、そのようすを見つめた。


「……ミャーコ。すごいジャンプ力だね」

「だな」


 チリ〜ン。


 こうして、東堂家の風鈴オバケ事件は解決した。




 了

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東堂兄弟の5分で解決録4〜風鈴オバケ事件〜 涼森巳王(東堂薫) @kaoru-todo

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