第2話 報われぬ善
「はぁ〜。おはよう、アイリス」
トウヤはあくびをかきながら寝室から出てきた。寝癖があったりあくびをしていることから、おそらくさっきまで寝ていたのだろう。
「うん、おはよう。実はもうお昼の時間だけど」
アイリスは呆れたように言った。
「おい、この料理美味いな」
今は二人で食事をしている。俺はこの世界での初めての食事なのだが、案外これはいける。
「そうでしょ、まあ、私が作ったからかな」
アイリスは鼻を高くして言った。
「あっ、そういえばラギ、初仕事だよ」
するとアイリスは机に資料を並べると、仕事について説明し始めた。
「昨日遺体が発見されたんだ、その被害者の名前はビルク。遺体は川で見つかって、刃物で殺害されたみたいだよ」
「......なるほどな、ということはこの後はその調査か?」
俺の問いかけにアイリスは首を縦に振った。
「......虹色の川なんてあるのかよ」
食事の後、遺体が発見された場所に来ているのだが、俺はこの光景に唖然としている。
「そうだよな、ここ地球じゃないもんな」
そんなことを呟いていると、この場にアイリスがいないことに気づいた。
「アイリスー。おーい、どこ行ったんだ」
川の周辺を探していると、アイリスを見つけた。誰かと話しているようだ。近くまでくると四十代前半くらいのボロボロな服を着た男の人と話しているのがわかった。服装を見るにホームレスだろう。
「おい、探したぞアイリス」
「助手か、ちょうど良い時に来たね。今は聞き込み中でね、この方は被害者の友人だったそうだ」
「私はグレイと申します。刑事さんあいつの無念を晴らしてくれないだろうか」
ここでアイリスが質問を始める。
「わかりました、では聞かせてください。事件前のビルクさんはどのような様子でしたか?」
「いつもと変わりありませんでしたよ。ただ最近どこかに出かけていたようだったけど」
「では次にビルクさんが住んでいた場所教えてもらえませんかね?」
「分かりました、着いて来てください」
そして被害者が住んでいた場所に着いた。そこは段ボールやビニールシートで簡易的に作られたものがいくつもあり、ホームレスのが住み着いている集落だった。
「これはなんですか?」
俺が疑問に思ったもの、それは大きく床に書かれた魔法陣で、集落を囲むように書かれている。
「それはビルクが俺達を魔物から守る為に作った結界だよ」
俺はオタクではないので異世界のことはわからないが、いかにもそれっぽい単語が出てきたな。
「すいません私の助手が。助手、ちょっとこっちきて」
「いいラギ、あなた昨日の夜、この世界について私きちんと説明したよね?だから困っても知らないと言ったのに」
「ああ確かに説明は受けた、だがな、途中から話しが脱線していって自分の夢とか語りだして熱くなって、結局全然頭に入ってこなかったしあまり寝れなかったし。お前のせいだろ」
俺が反論すると「そんな事はどうでも良い」と言われ流されてしまった。
「ごめんなさい。待たせてしまって」
「大丈夫ですよ、刑事さん」
「すいませんもう一つ聞いても良いですか?」
「わかりました」
「ビルクさんと最後に会ったのはいつですか?」
「三日前ですね。最近はどかかに行っていたようでしたが」
「それがどこかわかりますか?」
「......すいません、そこまではわからないです」
「嘘ですよね」
アイリスの冷たい声が響き渡った。
「アイリス、なんで今のが嘘だと思ったんだ?」
「私はこの仕事は長くてね、嘘ぐらいは簡単に見抜くことができるよ」
「はぁ...さすがですね。知っていますよ、あいつが通っていた場所」
「なんで嘘をついたのですか?」
アイリスが質問にルナは空を見上げながら「それがあいつとの最後の約束だから」と答えた。
俺達はあの後ビルクさんが通っていたという場所を訪れていた。そこは豪勢な館で庭は東京ドームぐらいデカイ。
「行くよ」
そう言うとアイリスは門にあるインターホンを押した。すると奥からメイド服を着た女性が姿を現した。
「はい、どちら様でしょうか?」
よく見るとめちゃくちゃ美人だ、これはアイリスにも引けを取らないかも。そんな事を考えているとなぜかアイリスに頬をつねられる。
「......そろそろやめてくれませんかね?本当に痛いです。やめてくれ!痛い、痛いからー!」
アイリスはやっと俺に手を離すと、虫を見るような目になり「最低」と言われてしまった。
「すいません、私も忙しいので用がないのならお引き取りください」
「ごめんなさいうちの助手が、それで短刀直入に聞くんですけど、ここにビルクという人の事について聞きたいのですが」
「お引き取りください、警察の方が来られるとこの家の印象が悪くなる。どうかお引き取りください」
こうしてメイドによって俺達は追い出されてしまった。なので今は警察署に帰る道中でこの事件について整理している。
「アイリス、お前はどう思う?」
「どう思うってなにが?」
「あのメイドだよ、あれは何か絶対知ってるな」
「さすが私の助手だ、それくらいはわかるようだね」
「まあな」
この世界にテレビや新聞はあるが、まだこの事件の事は報道されていない。ではなぜビルクという名前を出しただけで警察だと分かる? その答えはこの事件に関わっているか犯人かどちらかだけだ。
「アイリス聞きたいことがあるんだが」
「どうしたの?いいよ別に」
「じゃあ言うけど、なんでお前一人なんだ?」
警察というものは一つの事件に大人数で取り掛かるものだ、殺人事件というならばなおさらだ。なのにこの事件を調べている警察官、それがアイリスただ一人ということにずっと違和感を覚えていたからだった。
「私は簡単に解決できる事件は一人でするの」
「......は?」
「私は結構偉いほうなんだよ、だから一人で事件を調査することを特別に許されてるの」
「......そんな優秀なアイリスさんならこの状態を打破することも出来ますよね?」
今俺達のまわりを多勢の狼が囲んでいる。嫌、狼ではないのだろう、その額には2本のツノが生えていて大きさもかなりデカい。これは動物というより化け物だ。
「ガゥガルル〜」
(こんな状況だがアイリスはかなり冷静、何か作戦があるんだな)
「よし、逃げよっか」
「クソーー!俺の期待を返せーーー!」
あれからはひたすら走ってなんとか逃げ切ることができた。
「はぁはぁ、危ねー。死んだかと思った」
「そんな助手に悲報がなんと二つもあります」
「おいおいこの状況でか?」
「まず一つ、私はすごく弱いこと」
「それは逃げた時点で大体察っした」
するとその時背後から聞き覚えのある嫌な鳴き声が聞こえる。
「ガゥガルル〜」
「二つ目は、追いつかれちゃった」
「......逃げるぞ」
「ごめんラギもう体力が、ないかも」
そう言うとアイリスはその場合に倒れ込んでしまう。
「大丈夫か!しっかりしろ!」
この時にも化け物は容赦なく近付いてくる
「ラギ聞いて、この状況を打開する方法が一つだけあるの」
「わかった、聞かせてくれ」
「この世界には異能というものがあってね、人それぞれによって能力が変わるのだけど、この世界にいる人は稀にその異能を持っている人がいるの」
「つまりどういうことだ?」
「当然私は持っていない、だから君が持っていることに賭けるしかない」
(既に化け物に囲まれていて逃げ場はない、やるしかないってことか)
そしてトウヤは覚悟を決める。
「......俺はな、この世の理不尽全部背負ってきてんだよ、今更こんなことで、折れてたまるかよ!」
トウヤ声を合図に化け物が一斉に飛びかかる。しかし化け物の攻撃はトウヤに届くことはなかった。
「流石私の助手だ」
化け物が次々と倒れていく。この状況をトウヤは全く理解できていない。
「......勝ったのか?でもどうして」
「ラギ、これを見て」
アイリスが見せてきたのは俺の名前と異能保持者の文字が書かれている診察書だった。
「アイリスこれは?」
「実は私の部下に君が異能を持っているか調べてもらっていたんだよ」
「俺が異能を持っていることを知っていたってことか?」
「そういうことだね」
俺はこの時、真剣にアイリスの助手をやめようと思ったのだった。
異世界警察24時! @riboru
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