第5話 由々しき事態

「ただいま」

今日も聞こえてくる、可愛い足音。

「…お帰りなさい。お兄様…」

でも今日はなんだか、

「朱音、どうかした?悩みがあるなら、お兄ちゃんに何でも言ってごらん」

「…迷惑では…ないですか……?」

「朱音の事、迷惑だって思ったことは一度もないし、これからもないよ」

「では…その。実は──」



**********


は?は?は?は?は?は?は?は?…………は?

ありえない。ありえないありえないありえないありえないありえない。


【告白というものを……されたんです……】


朱音に告白?????ふざけんな。いっそ命を……いやまて、落ち着け。俺がそんなことをしたら、朱音の兄である俺が犯罪者になってしまう。それこそありえない。

「その……告白は、初めてで……どうすればいいのか…分からなくて」

告白した挙句、朱音を困らせるだと。末代まで呪うか。

「朱音は、その人のことどう思っているの?」

「私は…お兄様以外の方を、お慕いしていません…。ですので、その……なんと…お返事したらよいのか…分からなくて」

「それなら──」


全く。俺がそばにいられる時間が減った途端これか。ゴミならおとなしく燃えてればいいものを。クソ、腹が立つ。朱音が小学生の時も中学生の時も、告白なんてする不届き者は現れなかったのに。許せない。とっとと、朱音の一番星になって、アイドルなんて辞めてやる。


**********


次の日。

朱音は、ちゃんと言えただろうか。朱音は俺以外の人間と話すのが苦手だから。

……──クソッ。また腹立ってきた。話すのが苦手な朱音に告白するとか、なんなんだよ。

心を落ち着かせて、扉を開ける。

「ただいま」

今日も聞える可愛い足音。

「お兄様…!お帰りなさい……!あのっ……昨日…お兄様に言われた通りに…今日、お返事をして……」



【ごめんなさい…。私には………お兄様がいますので】



「そしたら……諦めてくださったみたいで……」

よし。俺の勝ち。

「また、別の人に告白されたら、同じこと言えばいいんだよ。朱音」

「はい……!私には、お兄様がいますから……。これから…そうします。お兄様、相談に乗ってくださってありがとうございます……。お忙しいのに……」

「朱音、気にしなくていいよ。なにかあったらすぐに言ってね。お兄ちゃんが力になるから」

「では…お兄様も……何かありましたら……全部、言ってほしいです…。私も、お兄様の…力になりたいです」

…………天使か?天使だ。天使…。朱音…なんていい子なんだ。今に始まったことじゃないけど。朱音は昔から良い子で優しくてかわいくて…天使で。

だから、だからこそ…朱音に近づく奴は、誰であろうと許さない。朱音を泣かす奴も困らせる奴も、全員────朱音の存在と法律と理性で生かされてることに感謝しろ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る