第4話 何のためにアイドル
「俺は……」
ここで、適当に取り繕った言葉を言うことも出来る。でも、それになんの意味がある。俺は少しでも早くアイドルにならなくちゃいけない。こいつらと馴れ合う気は無いが、嘘を言ってあれこれ言われるのも面倒だ。
「妹のためだ」
「妹さん?」
「ああ。俺は妹のためにアイドルになる」
**********
小さい頃から、色んな習い事をやらされた。どれも人並み以上にはできた。楽しいと思ったことは一度もなかった。けど、朱音と同じ習い事をしているのが幸せだったから、たとえ習い事が楽しくなくとも続けていた。朱音がいるだけで、すべてが幸せに変わるから。
ある日、たまたまテレビでアイドルを見た。俺にもできそうって思った。
何回か見て、完璧に覚えた。それを、朱音に披露した。そしたら
【おにいさま…!とっても…かっこいいです…!お星さまみたいに…きらきら、してます……!!】
朱音が、朱音が。言葉にできないくらい。そのくらい、あぁ……思い出しただけでも、気絶しそうだ。
朱音は、星が好きだ。星がよく見える日は、いつも夜空を眺めている。
朱音が俺を、星みたいだと言った。アイドルの真似をした俺を。ならば、アイドルになれば、俺は──朱音の一番星になれる。朱音が星をアイドルというなら、朱音が好きな星の、一番になりたい。だから俺は────アイドルに。朱音の為に。朱音の一番になりたいから。
「だから俺はアイドルになる。アイドルの一番に」
なんで、こいつのこと。こんなに腹立つのか分かった気がする。
僕の方が、アイドルに、トップに、完璧になりたいのに、こいつの方が上手で、それなのに、熱意がなくて。僕みたいな一番になりたいわけじゃないから、凄く腹立つ。でも…こいつがなりたいのは"アイドル"のじゃなくて、妹の一番なら、僕の邪魔にはならない。僕が目指すのは、トップアイドルだから。こいつら全員、踏み台。
「ふーん。ま、勝手にすればー」
「意外だね。とっても怒りそうな話だった気がしたけど」
「別に。僕の邪魔さえしなければ誰がどんな理由でアイドル目指してようと関係ないし」
「でもなんか、みんなのこと知れて俺はうれしい!!」
「全員、バラバラな方向を見ている気がするが、まぁ問題はないだろう」
「そうだね。これから、長い時間過ごしていくうちに色々変わっていくだろうし」
「うんうん!!……って、長い時間?」
「あれ、社長から聞いてないの?僕達、正式にデビューするんだよ」
「えぇぇぇぇぇええええええ!?!?!?!?!?!?!?!?」
無駄にデカい声が、練習室に響き渡る。
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