第8話 永遠少女、皇女時代を振り返る
「私の、過去のことですか……」
国王に私のことをできるだけ話せと言われたが、どこから話せば良いのかわからないままでいた。すると国王が、
「現代からでも構わない。だが、我々が求むのは前時代の話だ。だからそこを含めて話をしてもらいたい。そして示せ。ここにいるものたちなぞ愚民と言って差し支えないことを」
……どうやら私の過去を全て洗いざらい聞きたいらしい。ならばお望み通り話してあげますか。
そして私は話を始める——。
——前時代の頃。私はとある国の皇女として生まれた。
アルヴェリス・X・アズロシテア。私の前の名前だった。
昔は戦争がどこかで絶え間なく続いており、我が国も例外ではなかった。戦争は何年も、何十年も続いてしまった。私はあまり戦争は好みではなかったからこそ皇宮での仕事を全て自分のできる限りでこなしていた。
その姿あってか私は人民の信頼を勝ち取ることができた。ただ、私はあまり気に食わない……、というよりは不満があった。
それは母と比べられてしまうことだ。
母は幼少期は傲慢な性格が仇して人民からの批判を浴びる羽目になってしまったためにお淑やかこそが国の采配を担うものとしての威厳という考えを持った。勿論母はそういう考えになってからは人民からも絶大な支持を受けているが、私も同じ考えを受け継いだのだろうか。
だからこそ母と比べれれると不満がたまるのだ。確かに母は幼少期あまり人民を考えず自信優先だった過去もあったが今は妃としての威厳を持っている立派な人なのだ。
それでも私は言い出せなかった。
怖かった。人民にこれを言って反感を持たれて支持を失うことが。
それでも母は許してくれた。自信の非を理解しているからこその対応だったと今でも感じている。
父はこの国の国王だった。前国王の政策を一代でひっくり返すような新政策を公布し、人民に尽くした。そんな父のことを私はすっかり尊敬していた。
しかし国家間問題とは実に残虐である。
ある平凡な日の中で、父は暗殺された。死因は毒殺。私の能力を持ってするまでもなく死を受けることとなってしまった。
消滅、したのだ。
私が能力を使って回復を、蘇生を試みようとしたその瞬間に能力行使を拒否され同時に父は胡散霧消してしまった。
最初は家臣の者からも私が消したと囃し立てられてしまったが、徐々に原因がわかってくると私を疑うものはいなくなり逆に私を哀しむものも現れるほどだった。
父が死んでから数日後。国は大々的に父が死んだことを公表した。そして後継者として私を選ぶということも発表された。
それからは私は多忙な日々を送ることとなった。
行政や経済、舞踏会などの他国間での交流も欠かさず参加しないといけなくなり、ましてや美しく着飾らなければ女王としての威厳が保てないとのことで煌びやかな服装ばかりすることとなっていた。
それらを差し置いて一番に面倒だったのは、世の貴族がこぞって私と婚約を結びにくることだった。
誘われたからには話を聞くくらいはするが、誰も彼も私を利用して国を操作するか、自分の家の地位を上げることしか眼中になかった。
だから私は、男どもを話を聞くだけ聞いて即刻フった。
そして密かに私は医療班としても働いていた。自分はどうせ死んでも生き返る。それを知っていたからこそ身を粉にしてでも働いた。
勿論バレないように変装をすることは絶対だが、医療班の人たちには事前に伝えておいた。
その秘密を知るのは王家直属の家系か医療班のトップのみであり下っ端の医療班には『腕のいい医者』という感じで広まっているらしい。
だがその医療もあまり手が届かなくなっていった。他国とのいざこざが多すぎたのだ。私には父ほどのカリスマ性はなく、人民からの声は多数だが国家間で見れば私は変わらず王の座に座ったばかりのなり損ないなのだった。
そして、徐々に年を重ねるのだが、それに反抗して体は老化しなかった。そのことに不思議に思った私は結局自分の能力のせいと気づくことには容易いことだった。
それから私は玉座を降りた。
これ以上玉座に座っていたら永遠に座り続けてしまうと、そう感じてしまったから。
だから私が生きている事実は私の信用するものだけにしか言わなかった。正確には伝わらせなかった。
私が生まれてから230年後。政権交代も幾度かされて国が新しく変わってきた頃、突然にして事件は起こってしまった。
皇聖対立戦争。のちにそう呼ばれ継がれていく戦争が起きた。
語り継がれるほどの犠牲者が出たのは勿論のこと、戦争の理由が今までの戦争の観念からかけ離れていたのだ。
私が生きているという、その情報を手に入れたからこそ。その能力を奪いにきた。
それが理由だというのだ。
私が原因で戦争が起こってしまった。だから私はその身を持って尽くそう。そう考えていたのに。
家臣は私を逃がしてくれた。でも私は唯一の友人だけは見捨てられなかった。アグノア・L・レストレディ。それが私唯一の友人だった。そして私最後の人との関わり——と思っていた人だった。
しかしアグノアも聖国の兵士に残虐なほどに殺されてしまった。だから私は国から逃げた。逃亡したことがバレることはなかった。
気づかないからだ。私がいた時代はおよそ150年前。顔を覚えている人なんて誰もいなかったのだ。
唯一知っている家臣も聞く前に全員殺されていたのだ。だからこそ情報漏洩は起きなかった——。
「——これが、私の過去ですよ」
とりあえずここで切っておいた。流石に数万年の話を一気に語ると頭が混乱するだろうと思ったから。
「で、出鱈目なんだろ?そうなんだろ?」
「不死の女帝……そんなわけないよな?」
「……話を続けなさい」
「ちょ、国王。流石に一度休憩をとってあげたほうがいいかと。全員の様子を見る限りとてつもなくくたびれているようにしか見えません」
私がそういうと全員が高速で首を縦に振った。
「そろそろ休憩時間か。なら各自休憩を取りなさい」
そういい、一度国王が席を立ち、教室から退室した。
その瞬間。全員が私に向かって飛びついてきた。私は位置転移でなんとかしのぐが、さっきまでいた場所は数十人の人でぎゅうぎゅう詰めになっていた。
「あ、あっぶな……」
「早く教えろ!前時代の文字や文化、歴史をっ!」
……どうやら自分達が貴族社会とかで上に立ちたいがために私を利用しようとしているようだった。
「全く……。今も昔も貴族の腐ったところは変わらないな……」
そう私が呟くと
「平民のお前に何がわかる——」
「これでも私王族だったからわかるのよ。しかも政略結婚までさせられかけたんだし。さっき言ったよ?」
さっきまで私が説明していたからこそボロクソに言われても何も返答できないようだった。
そしてまた国王が戻ってくるとみんな急いで自分の席へと戻っていった。私が座ると、国王が目配せしてくる。
「そして私が向かったのは……」
言いかけたが、私は辞めた。
「辞めておきましょうか。また、国王に聞かれた時にでも言いますよ……。こんな純粋な子供がいる中で言うべき話では、ないですから……」
そういうと全員はなんとなく理解したのか、私への尋問欲求の視線は消え失せた。
——早く気づいてほしいな。そんな願いは誰にも届かないまま儚く散っていく。
それは世界の摂理の如く。私のアルヴェリス、オリヴィアを孤独から救ってあげたいというその感情は誰にも届くことなく消えていく。
そしていつか気づいてくれたなら。
彼女が、『僕』に気づいてくれたら。『僕』と認識してくれたなら。
その時は笑い合いたい。
抱いて泣き合いたい。
そんな願いは叶うことなく散っていく。
アグノア・L・レストレディ。またの名を——
——アルベガ・L・ガイア——。
死んでいったはずの『僕』。なぜか変わった因果に誘われて彼女、アルヴェリスの元へと辿ってしまう運命になるなんて。
もしも。もし、彼女の隣で『僕』が一緒にいることができたのなら。それが叶うとしたら。どれだけよかったのだろうか。
彼女は誰よりも繊細だから、心が弱いことを『僕』だけが知っていたから守ってあげなきゃならなかったのに。ついついカッコつけようとすると死んでしまうのはなんでなのだろうか。
心に住まう精神体となってしまった『僕』には彼女に、アルヴェリスにしづらいことを私が代わって行う。それが私の役目だと思っていた。
それは行き過ぎることもあったが、彼女を守る”L”を背負ってしまったのだからその末路を辿っているのだろう。
それでもまだ『僕』がアルヴェリスの、オリヴィアの隣を歩けるのなら——。
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