第7話 永遠少女、学園を知る

『それにしても貴方は変わっているのね』

 私はアルギアに魔法について色々聞かれていたから質問に“とある”作業をしつつ返答していると、そんなことを言われた。

「私、変わってるの?」

『変、と言うより他の人よりも何か明らかに違う雰囲気を持っている感じを感じたりするのよ。私のちょっとした勘違いなのかもしれないけれども。どうかしら?』

「あー……確かに他の人とは同じとは言い難いよね。不老不死の時点でそうだし」

 そんなこんなちょっとした論争を繰り広げていると、突然。

「オリヴィア様。ご来賓です」

「来賓?誰だろ」

 私から呼ぶ相手もおらず、正直この世界である意味孤立している私を呼ぶ人……。心当たりが全くを持ってないからか全然誰かを予想できずに向かうと、

「……誰ですか?」

 いかにも、な格好をして現れた男がいた。少し嫌悪感が湧いたがそれを顔に出してはならないと思って私は訪ねるだけにした。

「俺は、君と結ばれる運命にある——」

「あ、そう言うのはいいんで」

「そうか……。とりあえず堅苦しくならないでくれ。国王からの伝言を伝えにきただけなのだから」

「国王からの伝言?なんですか?」

 最近入ったばかりの魔法師団で何かがあったのだろうか。そう色々と不吉なことを考えていると、

「この国が指揮する魔法学園に入園しないか、というものだ。君が望むなら教師という立場でもいい。と言っていたぞ」

「魔法学園に、入学?」

 また時代の進歩を感じた気がした。魔法学園か。真新しく感じてしまうなぁ、と呑気に考えていると。

「ちなみに入ってもらわなければ色々と問題が起こる。だから懇願形式になってはいるが半命令だということを留意してくれ」

「……問題?」

「あぁ。一番はお前の魔法への知識のなさだ。いや、お前は知りすぎているからこそ無知なのだ」

「はぁ……つまり私に生徒になって本来の限度というものを知ってもらうか、教師となって私の技術を教えろ、みたいなとこですか」

「まぁそういうところだ。それで、承諾願えるか」

「どうせ行かなきゃいけないんでしょう?なら行きますよ。どうせ生徒側がお望みでしょうに」

 私はそう言い切った。その考えは間違っていなかったらしく、静かに頷くと私を馬車へ案内した。しかし、

『私も気になるわ。行ってもいいかしら』

「……聖霊が魔法を習うの?」

 正直アルギアが魔法に興味を持つとは思わなかったから少し驚く。しかしそんな私の考えは露知らず。

『前までは確かに興味はなかったわ。だけど、貴方を知って興味を持ったのよ。その責任はとってくれて当然だわよね?』

「まぁ……。でも学園にはきたらダメだから。流石にアルギアが聖霊だってことが学園内でバレてしまったら面倒なことになるでしょ?」

『そうだわね……。なら、貴方が私に教えてくれるかしら?学園では教材か何か配られると思われるし、それを見せてもらうだけでも良いですの』

 そこまで言われると流石にこちらも飲まなければならないと思ってしまうのが私であって。

「わかった。帰ったら少し魔法の勉強しようか。それじゃ、行ってきます」

『行ってらっしゃいですわ』

 私は学園に向かうことにした。


 一度国王に謁見してから私は学園に即日入学ということとなった。本来筆記課題や実技課題が出されるが先に私は魔法師団の試験を受けてしまっているためそれらは全て免除されることとなった。

 ……実技試験はやらなければいけない校則のはずなのに行わなかったのは私の実力が知れ渡っているからだろうか。

「まず学園の説明から——」

「その辺は一応国王から聞いています。それで、踏み込んで悪いのですが私の配属されるクラスはどこなのでしょうか?」

「最高クラスのSクラス——と言ってやりたいのは山々だし、そうしたいのだが転入でSクラスには入れないと言う取り決めがされてあるんだ。だからまずはAクラスに配属させてもらった。異論はないか?」

「はい。どうせ誰かと接したって意味ないことが分かってますし……」

 自分の魔法がどれだけ危険か。そしてどれだけ恐れられてしまうか。それは国の私に対する対応を見る限りで痛いほど痛感するものだった。

「君がそれで良いなら教師陣もそれでいいと考えている。ただこちらからできるだけでいいがお願いしたいことがあってな」

「?なんですか?」

「……Aクラスにいる奴らは全員嫌い、妬みあっている。だからクラス間の仲が悪いのだが、いつも転入生には全員キツくてな。それでもあいつらを傷つけてやらないでくれ」

 そう言われて拍子抜けして私はクスッと微笑してしまった。

「勿論ですよ。私だって自ら望んで人を殺めたくはないですから」

 全く。私は怪物とでも言うつもりなのだろうか。そう考えてしまった。

 そして数分後、私は担任のグロリア教諭に連れられ教室の前まで連れられていた。

「あまり高圧的な態度を取られるのは推奨しません。それだけはよく留意してください」

「わかりました」

 そこまで荒れたようなクラスなのだろうか。そんなことを考えていると

「教諭!なぜこのクラスに転入生が来るのですか!」

「本当ですよ!Bにならともかく。不正をしでかしたに違いありません!追い出しましょう!」

 その声を聞いて私は理解してしまった。

 ——私は、このクラスには必要ないんだな。

「静粛に!……それでは自己紹介を」

「オリヴィアです。推薦入学で入学しました。魔法師団所属です。よろしくお願いしm——」

 最後まで言い切る前に笑い声が響き渡った。本当に、このクラスは私をバカにしたいようだった。

「魔法師団?お前みたいな偽りものが入れる場所じゃないんだよ!」

「証拠はあるのか?なぁ?」

 クラス全員が私を嘲笑の目で見ている。男子は罵詈雑言を吐き散らし、女子は早速グループ内で陰口を言っている。

「……グロリア教諭。少しよろしいでしょうか」

「な、なんでしょうか」

 この学園の最高管理官にこのクラスの人を傷つけるな、と言われたがそんなことは知ったことか。

「いけません!そんなことをしては——」

「いいぜ?やってみろよ」

 グロリア教諭は止めに入ろうとしたが、男子の中の一人がそう言い出した。

「どうせ言葉だけにすぎない羽虫だろうけど」

「俺らはAクラスに及ばなくとも強さだけは本物だからな」

「ここで全ての嘘を晒してやるか」

 そうやって妄言虚言、戯言を吐き散らかしているクラスメイトを見て、聞いて、そして感じて。私はつい、

「……ははっ」

 笑ってしまった。

 勿論クラスメイトからは怖気付いてほしいか何かで威圧的なことを言っていたからかさらに苛立ちを巡らせていた。

「はははっ……本当に、本当に面白いね、

 もう止まらない。誰にも私を止めることはできない。

 そしてクラスメイトの反感を全て買った私は、クラスメイト全員を相手することとなった。この状況に至ってもまだ私に勝てるとでも慢心しているらしい。

 ——誰もこの怒りを沸騰させてしまったオリヴィアを止めることは攻撃において止めることなど不可能だというのに。

「それじゃあ始めようか。『僕』はオリヴィアほどお人好しじゃないからさ。全治数週間の怪我を負うかもしれないけれど覚悟しておいてね」

「ひっ……」

 『僕』は即座に拘束魔法の基礎である〈マジックバインド〉を使う。これもまたオリヴィアの使わなくなった魔法から選んでいる。

「な、なんだ!?」

「姑息な技を使って!」

「いや、普通団体が相手ならこうするでしょ」

 『僕』はついため息をついてしまう。その時だった。

 とてつもない魔法が飛んでくる気配を察知し、回避行動をとる。だが少々間に合わず頬に切り傷がついてしまう。

(今のは……〈アイスングアロー〉?威力が弱くないか?)

 そもそも基礎魔法だから、という理由もあるとは思うがそれらを合算しても明らかに威力が弱すぎる。

「よし当たったぞ!やっぱり雑魚なんだ!」

「全員で集中砲火をすれば——」

「——アルベガ。もういいよ。私がやる」

 私はアルベガの精神を無理やり引き剥がし、それと同時に禁忌のうち初級禁忌までを解禁する。勿論ここまでした時点で私はこいつらに手加減する気は満更なかった。

「『獄炎の烈火 紅の鮮血 嵐の風舞けり』〈獄炎球撃インフェルノ・ブロウ〉」

 凝縮した太陽のような物質を数個作成し、打ち込む。

「な、なんだよこれ……勝てっこねぇじゃねぇか……」

「あんな雑魚がこんな魔法を使えるってのか?」

「……さっさと負けを認めなよ。どうせ私にお前らごときが勝てるわけないし」

 そういうと相手側も堪忍袋の尾が切れたのか、私の放った魔法を完全に打ち消した。

「もういい……手加減はこれで終わりだ!」

「死を持っても恨みはするな!」

「……何ほざいてんだろう」

 私はあいつらを上空で見上げつつそう思った。

 そして何も知らない全員は魔力切れを起こしかけるまでの魔法を私に打ち込んだ。正確には少し違うが。

 だからこそ私は何も喋らない。叫ばない。勿論そこに死骸も残らない。

「雑魚がほざくからこうなるんだ——」

「——誰が、雑魚だって?」

 私は上空から自由落下してそのまま後ろに現れた。

「なっ、さっきの攻撃を受けて無傷なのか!?」

「誰があんな攻撃網を無傷で突破できるというのだ!??!」

「誰が、ねぇ……確かにあの中をくぐり抜けるのは至難の業だろうね。私でも多分無理だろうよ」

「ならなんで……」

「私の後天的能力『光ノ幻楼』。私の姿を光としてだけそこに残すだけのスキル。まさかこんな手先の罠のようなものに引っ掛かるなんてね」

「クソガッ……」

「戦えるならやってごらんよ?もうほとんど魔力切れでしょ?」

 私が審判の方を見ると頷いて、

「勝者、オリヴィア!」

 そういうジャッジが下された。


 戦いが終わって、私は管理官に呼ばれていた。

「……言いたいことは、わかっているだろうな」

「えぇ。生徒を傷つけたことでしょう?」

「そうだ。やめろと言ったはずだ。なのになぜ——」

「——なら、貴方はもし自分の意思に関係なく殺されるものがいたとして、それを野放しにしますか?」

「ど、どういうことだ。ちゃんと説明をしろ——」

「——わからないなら、良いんですよ。どうせ、理解されないでしょうから」

 足早に部屋から去ることを意識した。そういえば今日教材が配られるんだっけか。早く教室に戻らなければ。

 教室に戻るや否やみんなが私を睨んでくる。どうやらまだ根に持っているようでいつ私を陥れられるかを話し合ってるようだ。

「皆さん静粛に。今からとある方がオリヴィアさんのことに関して説明に来てくださいます。心して聞きなさい」

 私の説明?誰だろうか。そう考えていると……。

「どうせアイツの親とかだろ。これでアイツを陥れるネタが増えそうだな」

 ……聞く限り私をどうも邪魔という思考しかないような会話しか聞こえない。不愉快に感じて耳を塞いでいたのだが、

 突如教室に引き戸が開かれる音がした。

 そこに現れたのは、勿論私の親とかではなく……

 

 クラス中が驚きの嵐に包まれていた。私も例外なく驚いていたが、クラスメイトは全員顎が外れているのではないかと思うくらいには口を開かせていた。

「それでは、オリヴィアに関する説明を我からさせてもらう」

 みんなは集中モードに入っていたが私はいつもと話し方がちょっと違うな、と変なことを考えていたが、そうもならない状況になっていく。

「オリヴィアは魔法師団の第2団長の座を冠している。この魔法学園では教師でさえも本来は敬語を使うべき相手であることを忘れてはならない。それを肝に銘じなさい」

 ……私の情報を補完してくれたり信憑性をあげてくれたのだろうが、さすがに情報を話しすぎであろう。これじゃあまた面倒な事態になる気がするのだが……。

「国王様!質問がございます!」

「なんだ、言ってみよ」

「このオリヴィアという者は何者なんでございますか!?同じ人間と称すのであれば私を含めたここにいるものたちが納得できませぬ!」

「……」

 国王は少々沈黙した。全員が手に汗を握らせていると、満を辞して国王が口を開いた。

「それを話すことは、我からはできない。だからこそ……」

 そして国王は私を見るや否や、こう言ってきた。

「オリヴィア。命令だ。お前の境遇を隠したいところ以外は全て話すのである。これは絶対だ」

 ……ほんと、学園に入学しなければよかったと今更ながら後悔してしまう私だった。

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