永遠少女の苦悩
第6話 永遠少女、精霊と契約を交わす
私の私じゃない他の人格が久々に乗り移ってから数日。団内では私に対して不敬を働いたり、戦いを挑んだりすれば即座に殺されてしまうというなんとも物騒なことを噂されている。
……この空気が嫌だから手加減しようと思ってたのに。
そう心の中で愚痴りつつ、私は一人誰もいない場所で新しい魔法の作成に勤しんでいた。
「うーん……。どうしても殺傷能力がついちゃうんだよな……」
今回の魔法作成のお題は『現代の魔法技術を基にした威力の魔法作成』だ。
正直前回の戦闘で技量はある程度把握したつもりだった。だけれど逆にそれが問題だった。私にはどうしても手加減がうまくできない性質があった。
「戦闘用の魔法作成は諦めるか……」
私はそういうことにしてとりあえず家から持ってきていた私の魔法の案を書き記した本を取り出す。
そこには、
神属性の確立
精霊魔法の習得
人工生物の作成(知能あり+人型が目標)
最高支援魔法の習得
元素返還魔法の作成
そう記されていた。
「人工生物は今の環境的に無理だとして……。元素返還、か。ちょっとやってみるか」
実践あるのみ。とりあえずイメージをしてみる。
——物質がありて、それが別のものへと瞬時変換する。それは万物対象であり、誰もその災厄からは逃れることはできない——。
「『万象の掟 叛し万物の金峰 神の到達へと進みし 炎天の変砂 錬金の秘技』《神技・錬金秘術》」
適当に掴んでいた鉄の破片は突如として蛍石のような光で発光して消滅し、手元に想像していた通りにチタンに代わっていた。
「よし!実験成功!これで魔法具の作成の幅が増えるぞ……」
私は浮かれていた。だから人の入ってくる気配にはどうしても気が付かなかった。
「な、何をしてるんですか?」
「だだだだ誰!?!?!」
ついテンパってしまった。
「い、いえ……。練習時間ですのに顔が見えなかったので」
「あ……。一応配慮としてですよ。私がそこにいるだけでみんな私の機嫌を伺ってくる感じで。それが嫌だからこうやって一人で魔法の研究を——」
「どのような、魔法を?」
そう問われてさっきの発言は失言だったと感じた。こうやって聞かれる可能性を全くもって度外視していた。
「……企業秘密、ということにしといてください」
「言わないと退団させますよ?」
「脅し文句がとてつもなく現実的なことは突っ込んだらダメですよね?」
「言わずもがなです」
にしてもこの人は誰なんだ?私があったことがある人ではないけれど……。
「そういえば自己紹介が遅れましたね。私の名前はルプス・S・グロリアです。一応魔法師団の創設者よ」
「えええ!?」
そんな人だったのか。できれば国王から説明を受けたかったという気持ちが若干湧いたが、その考えを無視して私は仕方なくさっき開発した魔法を教えるだけ教えることにした。
「簡単にいえば、現代にもわたって研究されている錬金術を魔法で再現した、ってものですよ」
ルプスさんは呆然としていた。私の教え方がまずかったのだろうか?依然にも反応がないからには私も反応し難いのだが……。
「え、えーっと——」
「錬金術!?!?」
「ふえっ!?」
急に大声で喋り出すものだから思わず変な声が漏れてしまった。
「ご、ごめんなさい……。それで、本当なの?錬金術ができるって」
「完全な錬金術とはまた違いますけれど……。まぁ、それらしきものなら」
「……お願い。見せて頂戴」
「え、まぁいいですけど……。適当にいらないもの渡してくださ——」
「これ。この宝石の純度を最高にしてほしいの。できなくても後悔はないわ。お願い」
手に渡された宝石は、サファイアらしきものだった。
「えっと、これはサファイアですか?」
「ええ。私の父の形見よ」
「ちょっと待って、それ失敗したら大問題じゃないですか!?」
人の形見を錬金して失敗するのは明らかに罪悪感案件なんですが。失敗したらこの場に入れなくなることは確定なんですが。
「いいわ。失敗しても、結局何度もできることには変わりないでしょ」
「あ、確かに」
言われて気づいたが失敗しても配列やらを全て書き換えれば李依ことに気づいた私は快く請け負うことにした。
サファイアは本来の輝きをほとんど失い、くすんだ紺よりの青だった。さすが形見、とでも言うくらいには灰被りな感じだった。
「
まず全てを原子レベルに分解し、その中からサファイアを構成するために必要なものだけを摘出。不要なものは場所を移して摘出したものを元の形になおす。すると濃い青色の宝石が現れた。
「すごい……」
ルプスさんは何やら感動していたけれど、とりあえず私はサファイアを返した。
そして摘出の時に分別した残りを一度結晶化させてみる。すると、一つ一つの量は少ないが、鉄や銀、アルミニウム、白金のインゴットが出来上がった。
「あとはこれを……」
周りの空気の元素を変える。鉄の周辺は鉄に。銀の周辺は銀に……。そして大体1立方メートル程度の大きさにまで増幅させた。
「なんですか?これ」
「中に入っていた不純物を大きくしたものです。案外使えるものが多いから、有効活用させてもらいますけれど」
「全然いいですよ。形見を修復してくださったのですから。あと……」
私が魔導剣でも作っておこうかな……。なんてそんなことを思っていると。
「——オリヴィアさんは、『聖霊』の伝承をご存知ですか」
「『聖霊』?精霊なら聞いたことあるけれど……」
「精霊の上位互換、でしょうか。『聖霊』は精霊の中でもリーダー格のもののことをさすのです」
「えっと……それで?」
「お礼として、精霊術をお教えさせてもらえないでしょうか?」
精霊術。私の専攻したと言ってもいい魔法もとい魔術とは相反するものだ。魔法は主に自分の魔力を燃料にして現実改変を行うもの。だが、精霊術は大気に存在する大気魔素と言うものを燃料とし。魔力を媒体として精霊を行使するのが精霊術だ。
「でも確か精霊術って魔力の属性とかが関与してきていた覚えが」
「ええ。ですけれど魔法の打てる属性によって大抵解ります。相性がどうこうは精霊との対話でしか分からないのでどうしようもないですけれど」
「そもそも魔法でできない属性ってあるんだ」
「…………え?」
何やら呆然としているが、どうしたのだろうか。
「と言うことは、全ての属性が使えると?」
「私の知っている限りでは……」
「基本五属性は?」
「使える」
「相対四属性も?」
「使える」
「……伝承上にしか伝わっていない『無属性』も?」
「無属性……ってあれか。多分使える」
「精霊術を覚えましょう。絶対に。そう言う運命なんでしょう。さあ早く!」
「うん。興奮するのはいいからとりあえず一回落ち着こうか!?」
鬱陶しめな宗教勧誘みたいな感じで面倒な感じになってしまったルプスを沈静化させる。
「ごめんなさい。急に押しかけた感じの様子になってしまって……」
「いいですけれど……。それで精霊術はどうやってするんです?」
「簡単で、自分の出せる魔力属性を一つの容器に均等に入れていくようにイメージしてください」
私は自分の出せる十属性を均等に配分した。
「それをできるだけ小さく……って消したら意味ないじゃないですか!」
「消してないけれど?」
「え?」
とりあえずミクロサイズにまで縮小したからか全く見えないらしい。私も肉眼だけ用いれば全く見えない。
「……それをこのような魔法陣にしてください」
「ここをこうして、こうすれば……」
見てすぐに構築できるような魔法陣の密度ではなかったから順序に分けて構築した。そこだけで数分かかるとは全く思ってはいなかったが。
「そこに大気魔素を送り込む感じで……」
言われた通り大気魔素を送り込んで見ると、刹那白光が私たちを襲った。
「何っ?」
「まぶしい……」
ロクに目も開けずにいると、近くに新たな生命体か何かの気配を感じた。こんな状況下でどうすればいいのか……。
そう思っていたが、急に光は途切れた。そしてそこにいたのは……。
「……誰?」
「え、え、え……」
ルプスさんは腰を抜かしてしまったのか、尻餅をついたような体勢で後ろずさりしていた。私にはこの精霊?が誰かわからないのだけど……。
『貴方が、私の召喚主かしら』
「えっと、まぁ多分。あなたは……」
『私は主に『聖霊』と人間界で呼ばれてる者の一柱よ』
「……えーっと?」
私が困惑していると、
「も……もしかして、貴方は『聖霊』の統率者の、アルギア様では——」
『貴方、精霊術師なのかしら。よく私のことを知ってるわね』
「精霊術師になれば必ず教わるべきものですから……。それで何用なのでしょうか」
『用も何も、召喚されたから赴いただけ。ただそれだけよ』
ルプスは完全に思考停止していた。どうやらこのアルギアが召喚されたことに驚きすぎて頭がその処理に追いついていないようだ。
『それで貴方は私に望むのかしら。力?それとも進化?それとも——』
「——パートナー。」
『何か言ったかしら?もう一度言ってもらえるかしら』
「パートナーになってよ。私の不遇の運命に最後の最期まで付き合ってくれる、さ」
『というと、どう言うことかしら』
「私、この時代に生まれた人間じゃないからさ。一度人類が壊滅的な状況下になる前から存在しているんだよ」
『それは……嘘でしょう?だってそんな時代数千年前なんてものじゃないくらい——』
「残念ながら。私の唯一持ちうる能力。それは不老不死だったんだよ。正確には少し違うけれど」
私は自分の生い立ちを全て正直に話した。過去をも統べる精霊になら理解される可能性があることを信じて。
『なるほど……。貴方だったのね。あの気まぐれ神が言った特別な存在っていうのは』
「特別な、存在?」
『えぇ。貴方は初めて神に選ばれた人間、と言うのかしら。正確には不老不死の能力が体に定着できる人が、貴方だったのよ』
そこで初めて理解した気がした。私の不遇な能力が今まで発見されていなかったか。数十万年歴史のある前の時代で私が忌み嫌われてしまっていたのか。全てを理解してしまった気がした。
『怒らないであげて頂戴。あの神だって——』
「え、なに?」
『そうね。まだ、言わないでおこうかしら。その方が面白いだろうし、いいでしょう?』
「別にいいけれど……」
そこで初めてアルギアははっと何かを思い出したかのような顔をしてこういった。
『そういえば、貴方の願いは永遠のパートナーだったかしら。それを叶えてあげないといけないわね』
そしてアルギアは謎の言語で話し始める。私から聞いていたらさまざまな言語を一気に話しているようにしか感じられず、全くを持って聞き取ることはできなかった。
『……貴方と、契約を結びましょうか』
「わかった。それで方法は?」
『私に名前をつけてくれないかしら。それで契約完了となるの』
名前、か。私の名前から拝借してもいいが、それでは味気ないし。かといってアルギアと言う名前自体を失わせるわけでもないし……。
そうして私が悩んで。悩んで。それを繰り返して出した答えは。
「——アルギア・P・セバー」
『”P”?これは……』
「いつかわかるんじゃない?”S”と”F”以外の言葉の意味が」
~〜~〜~〜~〜~〜~〜~〜~〜~〜~〜~〜~〜~〜~〜~〜~〜~〜~〜~〜~〜~〜~〜~
『アルギア、急にいなくなってどうしたのさ』
『そうそう。心配したんだからね?』
聖霊界に帰ってくるなり、みんなが駆け寄ってきた。
『ごめんなさいね。野暮用ができた、とでも言うのかしら』
『で結局何があったのさ』
『——初めて。召喚されたわ。私が』
『『『『『えええええええぇぇぇっっ!?』』』』』
みんな驚いているようだった。それもそうか。ただでさえ聖霊の召喚頻度は数十年に一度くらいにしかないのだから。
『それで?どう追い払ったの?』
『追い払って、ないわ。契約してきたのよ』
『嘘、だよね?』
『召喚はともかく契約に必要な魔力量なんてとてつもないはずじゃ——』
『貴方たちでも知っているはずよ。私の契約者くらいは』
そしてその名を告げる。精霊の世界を揺るがす、初めての人間の名を。
『最古の女王、エリメシア・Z・オリシティス。またの名を、オリヴィア。それが私の契約者の名前よ』
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