第5話 永遠少女、技術に呆れる
アウリカを私の家に保護してから数日後、一通の封筒が届いた。
「えーっと、魔法師団合格通知か」
結果は知ってはいたが証明書が届かない限り絶対とはいえない。だからこの手紙が届いたということは……。
「クラテル、ちょっといい?」
「なんですか?」
「今からちょっと王宮いってくる」
「えっと……魔法師団に合格してそれで集まるみたいなことですか?」
「そんな感じ。じゃあいってくる」
私はそう言って外へ飛び出した。
「それでは今年から入団したこの7名の入団者に自己紹介をしてもらう。そうだな……最初はそこのお前。やってくれるか?」
「えぇ!?……ま、やりますけれど」
私は今魔法師団の集まりに参加していた。しかし私が見るにここは……。
(女性割合が圧倒的に低いからか男子が血に飢えた獣のようにしか見えない)
不躾なのだろうということはわかってはいるがどうしてもそう感じてしまう節があった。
「俺の名前はオグルス・S・ブレリア。得意な魔法属性は【水】です」
その男からの紹介からドミノ形式に徐々に進んでいく。気づけば私が自己紹介する番となっていた。
「わ、私はオリヴィア・アルセティオです。得意属性はそもそも属性を知らないので答えられません。よろしくお願いします」
変なところなかったよな、と思っていたが、周りの反応は打って変わって大爆笑の嵐だった。
「属性を知らない?どうやって魔法を打つんだよ?」
「え?頭に浮かばせるだけで——」
「なら実演してみろよ。もっといえば俺に向かってな!どうせハッタリだから無理だろうけどなあぁ!」
周りはその声をトリガーに徐々に笑い声がヒートアップしていった。
一応周りからは心優しいと言われてきたが、流石に堪忍袋の尾が切れた。だから私は、煽ってくる男に手をむけ、
「『
私は容赦なく対人用ではなくつい魔獣用の魔法を撃ってしまい、煽ってきた男は跡形もなく……いや、原型をとどめてはいなかった。
その光景を見て周りはあんなに笑い声で喧騒としていたのに、シーンと速攻で静まり返った。
「……別に笑うのは構わないけど……魔法を嘘とゆうのはやめてくれないかな……無性にイライラするから」
そう私が呟くと聞こえたらしく周りは頭を縦にぶんぶん振った。
そこに、幸か不幸か魔法師団団長がやってきた。
「なんの騒ぎだ——って」
私を見るや否や
「人外の魔法師じゃないか。ここでどうしたんだ?」
「……貶しになってることを気づいてくれません?」
団長はハハハと豪快に笑い、次にこの惨状を見て
「あちゃー、あんたに迷惑かけたようだな」
そう言った。だがこの言葉で何も知らない他の団員が言いくるめられたり、納得してくれるはずが勿論ないわけで一瞬で暴動が起きた。
……私に対して。
「お、お前達やめろ!」
「止めないでください団長。これは必要な処刑なので!」
勝手に私が罪を犯したようにいうのはやめてもらいたい。相手だってやってみろよ、と顔を大きくして立っていたから指示通り打ち込んでやっただけだ。
「全く……最近の魔法師はメンタルがなってないな……」
そううっかり呟いてしまったおかげで現在全方向から殴られにかかっている。さてここからどうしようか。
正直先程の男と同じように焼却させるのも手間がかからなくて私的には楽なのだがそれをすればほぼ確実に魔法師団が崩壊する。私一人で団員分賄うのは流石に私でも無理がある。だからできればここは穏便に済ませたいのだが……。
そう思っていたが、私のこの状況上誰かが犠牲にならなければ……。
と考えていたが咄嗟の閃きで一歩前に進んでしゃがむことにした。
するとあら不思議、殴りかかってきていた団員同士が拳をぶつけ合ったではありませんか。まあ私がこの場面を用意したんだけど。
「女子を男子数人がかりで殴りかかってこのざまは情けないと私は思うんだけど?」
そう若干煽ってみるとその男子達は歯軋りをしつつ唸ってくる。
そんな奴は放っておいて、
「で、団長。何かようがあったんです?」
「ああ、用事を忘れそうだった……このオリヴィア・アルセティオを魔法師団第二団長に任命することとなった」
その言葉に全員は呆気に取られていた。
だがしかし、もちろんそれを簡単に了承できるような優しい心を持ち合わせていないのがここの団員で……。
「それは納得ができません!」
「今すぐ退団しろ!」
「俺たちの努力を水に流すんですか!団長!?」
それはもう阿鼻叫喚の状態だった。
「ああもう……あまりおすすめはしない、というかそもそもとして団員とはやりたくなかったが……オリヴィアに勝てたらこいつは退団する。それでどうだ?」
その言葉に怒気やら恨みやらをこもった視線で私を射つつ、頷いた。
「あ、えっと……」
「オリヴィア。これだけは言わせてくれ……手加減をしてくれるとありがたい」
「え?」
もしかして全力で戦っていたとでも思われていただろうか。それもそうか。疲れた表情していたから……。
「まぁ……私と結局戦ってきた人は自己責任であって命の保証はない、ってことを団長自ら彼らに警告していただけたら」
「了解した」
そして団長は早速私の言った通りに警告をした。しかしそれはただのハッタリにしか聞こえていないらしく、またもや大爆笑が起こった。団長さんは、疲れた顔をしていた。そして最後に、
「お前達がどうなろうとも責任を負わない。責任はお前ら自身にある。それだけは留意しておけ。絶対にだ」
……そこまで言ってくると私がただの化け物にしか聞こえなくなるから。
かくして、その時は訪れた。
「それでは、魔法師団第二団長候補オリヴィアと魔法師団の精鋭との決闘を開始します」
審判はそう言い放つと、会場から雄叫びのごとき声が轟いた。
「手加減、か……手を抜かずに今の時代に対応できる程度の魔法……」
そうブツブツ言っていると、
「お、怖がってんのか?それとも呪術にでも頼ってるのか?」
「やっぱ呪術とかそういう魔法以外を頼らないと俺たちに勝てないもんなぁ?」
対戦相手は爆笑しているが、私は静かにキレそうになっていた。呪術?私の大嫌いなものを頼ろうとしていると見た?
さっきまでの考えは前言撤回。
——こいつらは徹底的に潰す。
「それでは、試合開始!」
その掛け声と共に私は『イマジナリー・アンチ』を繰り出した。この魔法は端的にいえば魔力操作を阻害して魔法を打ちづらくするものだ。ただ、普通の魔法師でも威力が落ちるだけだからこういう対人戦での風習みたいなものなのだが……。
「な、なんだこれ……」
「魔法が、全く打てないぞ!?」
「あいつ、まさか本当に呪術を使ったのか?」
「ということは……」
何やらほざいているが多分私を油断させるためだろう、と思っていたのだが。
「助けてくれ!こいつは魔族だ!」
「……はぁ?」
もはや観客も呆れていた。勿論私は歴とした人間……。
——でもないか。
それでも魔族などという堕ちたものではない、ということは断言できる。それなのに何故こいつらはこんなことを言い出したのだろうか。
「証拠は……俺たちが今魔法を使えないからだっ!」
「あ、それ私の自作魔法だったんだけど……。今の時代ってこういう手加減させる魔法って打たないの?」
それなら確かに勘違いされておかしくはないが——。
「……それでも、私を魔族って詐称してきたからには、私に叩き潰される覚悟はあるんだよね……?」
「あ、あぁ?お前ごときがそんなことできるわけないだろ?」
「努力なんてものを知らずに才能とかだけで成り上がったゴミめ!」
私の意識は半分ここで途切れた。そして私は——。
「あっそ。それがあなた達の遺言ってことっでいいかな?」
そう言い放ち、封印しようか悩んだ危険な魔法を魔力濃度を薄めて打ち込むことにした。
「『淡い星は堕ち 光はとうに潰えたり 暗転せし明星 再演の時は神の導き』《
まともに構築すれば体がチリも残らず消え去るほどの魔法をいつもの数千分の1にして打ち込む。相手は全員恐怖で顔を引き攣らせていた。審判が止めようと防御魔法を構築するも、それを私は瞬きで壊す。
そして、隕鎚が振りかざされた。
だが全身に軽い火傷程度で済んだ。ただ私の手加減は露知らず、
「見掛け倒しかよ、なんだ脅かしやがって」
「やっぱ雑魚で努力しない奴にはこういう結果がお似合いだよな!」
「ちょっと痛いけどこの程度ならあいつをボコせるよな?」
「あの魔法は見掛け倒しとはいえ、魔力消費はとんでもないはずだしな」
「じゃあ、あのゴミをさっさと倒すk——」
一人、消滅した。
言葉にすれば簡単なことだが、周りの観客と当事者の仲間は唖然としていた。
それもそうだろう。今まで意気揚々と話していた。奴が消えたんだから。
「——せっかく手加減したのについ手を出しちゃったじゃん」
そう言うと観客席から息を呑むような声が聞こえた。
「あはは……君たちが悪いのさ。『僕』の主をキレさせたんだから……。それでもさっきはマシだったのにね。慈悲深い主だったからとどめを刺さないのをいいようにほざいて……。楽しかった?」
『僕』はそう言い放った。主は途中からキレていたが生きて返してあげようと思っていたらしかった。でももはや手加減してもそれを自分の実力と決めつけられてしまうことに嫌になった主に変わって『僕』が制裁を加えることにした。
「何虚言吐いてんだ?馬鹿なのか?ならタイマンd——」
そしてまた一人消えていく。
『僕』及び主を侮辱する言葉をはいたものは皆殺しにしてもいい。それがモットーであり、『僕』の出現した時の条件のようなものだった。
「『僕』は処刑者、とでも言おうか。聖者の主に変わって邪魔ものを排除する係だよ」
『僕』は怯えるあと2人を、有無を言わさず消した。そして
「しょ……勝者、オリヴィア」
「あ、あいつができてちゃってたか……」
私は流石に大人気なかったかな、と少々消された相手を可哀想と思いつつ私は闘技場を後にした。
私が魔法師団へ向かうと、即座に団長に呼び出された。
「手加減は、するんじゃなかったのか?」
「私は、しましたよ。私は、ですが」
「言ってる意味がさっぱりわからん……」
「まぁ多分、私がやったという証拠はそろそろ出てきますよ——『僕』が出てくるからね」
「……誰だ、お前は。姿はオリヴィアだが精神は違う……魔族か?」
「あー、あなたを消してもいいかな?」
一応警告しておくか。『僕』だって好き勝手人を殺められるわけじゃないし。
「クッ……それで、お前は何者なんだ。俺から見たらどうしても精神支配系の魔族にしか感じられなくてな。それが気に触ったのならすまない」
「いや、そこまで謝らなくていいよ。『僕』と言うよりは主がそう言われるのが嫌なだけだし、そもそも『僕』自体が魔族に似てるし」
「……どういうことだ?」
「——まだ、教える時ではないかな。主の、正体と『僕』の秘密を語るにはまだ早いよ」
「だが……」
「あぁ、そういえばあなたの名前は聞いてなかったね。名前はなんていうんだ?」
「俺は魔法師団団長、アゾスター・F・メネシスだ」
「わかった。アゾスターさん、これから主のことよろしく」
「……自己紹介は返すのが礼儀ではないのか?」
そう言われハッとする。確かにそうだった。長い間眠りについてたから全然考えてなかったや。
「『僕』の名前、か……。旧名を使ってもいいけど、使ってはいけないって言われてるし……」
悩んで、悩んで。結局こうした。
「そうだね。『僕』の名前はアルベガ・L・ガイアとでも名乗っておくよ」
——主の守護として、象徴の“L“を名乗ることを、主はわかってくれるだろうか——
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