第9話 永遠少女、数万年の時に深ける
先日、国王からの命令で私が前時代の皇女であったことを話したのだがその後また呼ばれて
『後日、王城の執務室にて待つ』
と言われたからまた向かっているところだった。
かくして王城に着くと、侍女の人が私を案内してくれ、とある部屋に連れて行った。
「ここが、執務室?」
執務室とやらには行ったことは皆無で、ここであっているかわからなかったがとりあえず入ってみることにした。
すると、窓際の席で座っている国王の姿を見つけた。
「……何のようですか?」
「先日言っていたことを、願おうかと思ってな」
昨日言っていたこと……。
「逃亡の後のこと、ですか?」
「……あぁ。我はそこからの歴史が知りたい。協力してはもらえないか?」
「わかりました。完璧には覚えてはいませんが——」
国から逃亡した後、私は決して立ちいってはならないと言われていた大魔境に入ることにした。
例え敵兵士であろうともここに立ち入ることはしないであろうと、そう思ったから。
そして、幻聴が聞こえた。
『魔法を極めろ』
その一言だけのようなものだった。本当はもっと言っていた気がするが、ほとんど覚えていない。
だが、私はもはやすること、すべきことはなかった。
だからこそ私は魔法の習得だけに人生を費やすことにした。
魔法も時間と努力を重ねていれば結果として技術は身につくもので、案外習得には難がなかった。しかし、問題はそこではなかった。
自分専用の魔法がないのだ。
魔法を極める。それは創作魔法を自らの手のみで組み上げることである。
私はそれに苦戦を強いられた。どれだけ詠唱しても、イメージを汲み上げても私は全く作り上げることができなかった。
そして12年すぎたある日。私の拠点としていた小屋の近くに大魔獣が現れた。
相手としたは簡単なものだったのだが、その魔獣は意外な行動をとってきたのだ。
私の知る魔法の中に当てはまらない魔法を放ってきた。それを見た途端に私は見落としに気づいた。
魔獣が撃ってきたのは初級の炎魔法『フレア・アロー』に酷似するものだった。しかし速度は桁違い。まるで光の速度化の如くの速さだった。
私が見落としていたもの。それは既存の魔術術式の改変だった。今まで全て1から作ることを考えていたが、変換を重ねることで初めて新しい魔法を作り出す。それに気づいてからはさまざまな魔法の改変に乗り出した。
水の球を放つ『アクア・ボール』を水の弾丸を放つ『アクアバレット』、それを連射式にしたのが『ガトリンク・ヴォーダ』と。
変えられそうなものはどんどん無差別に変えていった。そして私が扱うには危険すぎる魔法。【
精神でさえもくらい尽くすまで消えることのない弾丸、【
自分の思うように現実改変を可能とする禁忌の魔術、【
生物全てを思い通りにしてしまう洗脳魔法、【
エネルギー運動を何であろうと全て永久的に静止させる禁呪、【
対象を嫉妬の対象とすることで争いを絶えず行わせる悲しき人間兵器の末路、【
敵前において慢心をさせる油断をつく精神攻撃、【
世界の概念を崩壊し得る神々の怒りを再演せし最強最凶の禁忌秘魔術、【
七魔術の系列を禁忌として私は封印を施すことにした。
しかし運命や人生とは己の思い通りに進むことはほとんどなく、私も例外でなく。
魔王と呼ばれる存在が大魔境に出現した。世界終焉が可能なほど魔力量だった、あいつは魔族の容姿をしていた。
そして、私は気を抜いてられる相手じゃないことは一度放たれた魔法でわかっている。それは……。
こいつは触れたものの分子構造を破壊することができる。
瞬間移動はできずとも、流石魔王というべきか移動速度は陸空劣らずだった。つまるところ魔王に触れられると私の存在物質が消滅する可能性が大だったのだ。
だから、私は全ての禁忌に当てはまる魔法を解放した。
【色欲無識ノ洗脳】を使って瞬殺して、私と魔族と融合しておいた。一生魔王が生まれないために。
そして私は魔導研究家として魔道具作成にも力を入れていた。魔導銃も作っていたほどだった。そのせいか、私の主要な武器は{
これが麓まで降りてきたら国一つ滅びかねないな……、と。そう思っていながらもわかる限りは全て討伐していった。
だが、私にとって少し意外なことが起き始めていた。
大魔境に人の気配が増えたことだった。私が入ってから2500年ほど経ってからだから技術などが進歩した可能性も無きにしもだからこそ私は恐怖だった。
もし彼らの魔法の技術が私よりも遥かに上だったとしたら。
良くも悪くも私は麓の情報を全くを持って知らない。だからこそ彼らが強いのか、弱いのか。それが全くわからないから迂闊に近づけないのだった。
だから私は彼らの後ろをつけることにした。するとそこには……。
ここまで過ごして初めてみる塔があった。正確には下に徐々に続いてく塔があった。
いわゆる、ダンジョンだった。勿論この時には研究者としての考え方が支配していたから私は迷わずダンジョンへと入った。
彼らと鉢合わせないように気配察知の魔法を常時発動させつつ愛剣を携えていると、奇妙な声が聞こえた。
叫び声、だった。
私は姿を見られることなど関係なく叫び声の元へと足速に向かった。
勿論間に合わなかった。今まで見たことのないサイズの魔獣、いや魔物がそこで彼らを平らげていたのだ。
私は多分食われても問題ない。だが、多分、なのだ。もしかしたら永久に生き返らないかもしれない。
それでも。初めてここに気づかせてくれた彼らを弔ってやりたい。だから私は剣を構えた。
魔物は雄叫びをあげている。それを無視して私は首を17閃した。
ズサ、と音を立てて首が落ちると、それらは無数の光となって散って結晶化した。
透明で深い緑色をしている。何かわからないがとりあえず持っていくか、と思って手に触れた瞬間。
それは魔法陣の形をして私に入り込んできた。最後の置き土産か、と後悔していたが、何も起きない。てっきり洗脳や体の支配権などを奪ってくると身構えていた私にとっては意外性しかなかった。
そして何が変わったかに気づいたのは次の階層に向かった時だった。
本来暗闇なのに視界がはっきりとしているのだ。つまり先ほどは暗視の能力の付与だったのだろうか。
そして攻略していくうちに私はこの構造物のメカニズムを理解していった。
まず敵をある程度出現させ、その後にボスのお出ましだが、大抵は前に出ていた敵の上位互換に当たる敵がボスになる。少々違う時もあるが、その場合は性質が同じだから対策は可能だ。しかし私は一つの問題に直面していた。
階層がとてつもなく多いのだ。次で終わりのようだが、この276階層目までくるのに3日かかったのだ。次の敵を倒すのに時間を消耗すれば私は倒れること間違いなしだった。
そして私は最後の階層に足を踏み入れた。そしてそこには——。
一つの机と、試験管。そして古びたノートが置かれていた。
机上のノートにはこう書かれていた。
『もしここに辿り着いたのなら私の遺志を引き継いでほしい。
最強極意の魔道士に成り上がって。私には届かなかった。
苦しみを知らなかった私には何もできなかった。だからこそここに辿り着いた君に私の遺志を継いでもらいたい
試験管の中にあるのは魔力覚醒薬だ。魔道士になるための最後の扉だ』
……そう書かれていた。私は一切迷うことなくその人に遺志を引き継ぐことを約束することとした。
国にいた頃話だけは聞いたことのあった魔力覚醒薬。使うと代償がどうなるかは誰もわからない代物だと言うことだけは知っていた。
だが私はそんなことは微塵も考えていなかった。
もし、私が今以上に強くなることが叶ったなら。どれだけ時間をかけようとも覚醒をものにできるのなら。
——また、世界を知るのも悪くないのかも。
そう思って薬を飲みこんだ。
直接的な健康被害にはならなかったが、魔力操作が歪になるという致命的なことは数ヶ月続いた。使えないほどではないが、禁忌を使えば暴走する可能性があるくらいには不安定だった。
それも半年過ぎれば自分のものにすることが叶った。しかし本来の力は未だ引き出せていなかった。
それも1%さえも。
挫折は何度もした。どれだけ魔法を鍛えても、どれだけ努力を重ねても、どれだけ実践を積んでも。どれだけやっても結果は記憶にしか残ってくれず体現化してくれることはなかった。
それでも諦めようとは思わなかった。努力や実践、それらを積んで積んでその先にやっと自分の思い描いた未来が存在するのならば。
私はそのためだけに数百年を魔力覚醒薬の力を引き出すことだけに費やした。その間に魔力消費効率のいい魔法も編み出した。
それでも到達していたのは15%未満だった。
数百年かけてやっと15%に届くか届かないか、その領域だった。
それでも私は嬉しかった。今まで気づけなかった進捗が感じられる形で現れたのだから。
だが、そんな日々も終わりを告げようとしていた。
とある日、私はまだ魔法の習得に精進していた。すると何故か一瞬にして空が紅く染まった。
災厄。その訪れだった。
普段は別次元にて存在だけを提示して何もしてこない最強の存在、飛龍種が地上に襲いかかってくるという最悪な日がやってきたのだ。
これまで生きてきた中で初めて見る災厄だった。
それでも不思議と私は立ち向かう勇気があった。
だから、だから。私は命を惜しまず立ち向かった。
麓がどのような被害に遭っているかはわからない。けれど私は闘い続けた。ジリ貧になろうとも相討ちになろうとも。
私の最後がかっこよく終われるのなら、そう思って。
だけれど蓋を開けてみれば私の圧勝だった。
理由は簡単だった。今まで人類を甘く見てきたせいで手加減をしていたからだった。最後に出てきた龍王は私の真の実力を見抜いていたから本気で挑んできたから私も禁忌を解放したが、やはり楽勝だった。
そして私は飛龍種の使った技を全て模倣するのにも1年しか掛からなかった。
それら全てを合成した飛龍種を超えた神域の魔法、【
【七代最禁忌秘魔術】と同等のものとして封印した。
この時は自分は永久に最強の魔道士であると自覚し始めていた。
そんな考えは8000年ほど経てば変わってもおかしくはないだろう。
本当の〈災厄〉が始まってしまった。
宇宙から飛来した数々の隕石。それらは私のいる大魔境含目全域を覆うようにして降り注いでいた。
私には、大魔境を防ぎきることが限界だった。
この時は魔力覚醒薬の効能を83%は引き出せていたはずなのに。
私の結界は最後の隕石によって破壊されたが破壊する際に小粒程度にまで縮小され、落下地点に直径20cm程度のごく小さなクレーターを作る程度にしかならなかった。
——この時に、私以外のほとんどの人類もとい生物が絶滅した。幸いにも運よく生き延びた超少数の人間で文化を再建していくことを、私は未だ知らなかった。
隕石落下から私が起こした行動。それは魔力覚醒薬の作成だった。今のままではまた宇宙からの〈災厄〉に備えることは叶わない。
だからこそ私は自分流の、魔力覚醒薬を作成した。
その間に効能が数十倍に薄められたものも飲んでいたせいか完成した時には1回目の魔力覚醒薬の効能は97%まで引き上げあげられていた。
だが、私の魔力覚醒薬は前回のものとは効能が違った。
前回のものは主に魔力の流れを速くすることで魔力操作を覚醒させるという効能だった。しかし私が作ったものは速さではなくそもそもの貯蔵量と放出量だった。
今まで私に足りなかったもの。それは圧倒的な魔力消費量な魔法を打つ際にすぐに魔力が尽きてしまうことによるものだった。
だからこそ私は自分に最適な魔力覚醒薬を作り出した。足りないものを補う薬を。
作ってから即座に飲んだ。副反応のことなんて考えてなかったから精霊接続回廊と数日脳がつながってしまったことには驚いた。
その時に精霊や聖霊のことを知った。その時にアルギアのことを聞いたからこそ現代で普通に過ごせるのだが。
それから大体6500年経った時、私の作成した魔力覚醒薬の効能が完全に行き届いた。だから私は足を踏み入れることにした。
——現在の、麓へと。
「——こんなところですよ。満足ですか?国王」
私は必要なところであろうところを全て話してやった。勿論数万年全て話していたらそれこそ同じ年月必要だ。
「お前は、」
「なんですか?私の存在は結局何かみたいな質問ですか?」
「違う。お前はどうしてそれまで降りてこなかったのだ。この現代社会に」
その質問か。一応話の中でも含みを入れておくべきだっただろうか。
「怖かったんですよ——」
——私の暴走と、本当の覚醒が始まることがもし麓で起きてしまうことが。
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