8. 売られた花嫁(8)
ここは、彼女の寝室なのだろうか。
だが、彼女の顔は真っ青で、身動きひとつしない。
よく見ると、ウエディングドレスの左胸に、じぶんと同じように赤い薔薇のような血が滲んでいた。
ああ、・・・彼女は死んでいる。
フードを被った神父が、正面の壁のレースのカーテンを引くと、アーチ形の小さな扉が現れた。
手を引かれてその扉を潜ると、そこにもうひとつ地下室があった。
虻の羽音のような音を立てる切れかかった蛍光灯が、コンクリートむき出しの納戸のような小部屋を照らし出した。
細長い六角形をした西洋式の堅牢な棺桶が二つ並んでいる。
ここは、・・・地下の墓場にちがいない!
神父は、左端の棺桶の蓋を開け、人形を抱くようにしてその中に寝かせた。
恐怖に打ちひしがれ、もはや抗う力は残っていなかった。
蓋が覆うと、すべてが暗闇に溶け込んでいった。
この暗闇の果ては死と繫がっている。
コン
コン
コン
釘を打つ音が、棺桶の中で虚しく響いた。
足掻くことも叫ぶこともできずにただ横たわっていた。
絶望とは、1パーセントでも希望を持つことのできる人間に許された特権だ。
・・・もはや、ここには絶望すらなかった。
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