6. 売られた花嫁(6)
「私は君を買った。君は売られたれた花嫁だ」
神父は、死刑を宣告する裁判官のように厳かにいった。
「売ったとか買ったとか、・・・そんなこと、知りません」
ウエディングドレスの裾を翻して部屋を出ようとすると、神父が腕を捉えた。
「君はすでに金を受け取った。私は、君を自由にできる」
「お金は返します。・・・ですから、なかったことに」
神父の腕を振り払い、宙を飛ぶようにして螺旋階段を駆け下りた。
玄関の扉を開けてポーチに飛び出すと、暗闇の中で雨が滝のように降っていた。
門の前のリムジンのドアを開け、あわてて乗り込んだ。
ドライバーはハンドルにもたれて眠っていた。
「早く出して」
制服の肩を揺すると、ドライバーの首が折れてぽとりと前に落ちた。
じぶんでも驚くような悲鳴をあげたとき、フードを被り黒いマントを羽織った神父がドアを開けた。
左手に持った懐中電灯で照らし、右手には拳銃を握っている。
神父はゆっくりと狙いをつけ、・・・拳銃が火を噴いた。
胸が痛んだ。
白いウエディングドレスの左胸に赤い血が滲んでくるのが分かった。
胸を押さえ、神父を突き飛ばしてリムジンの外へ出た。
裸足で坂道を駆け登ると、神父が追って来た。
ハフ
ハフ
ハフ
必死に逃げた。
だが、後ろから髪の毛をつかまれて引き倒された。
無慈悲な雨が容赦なく地面を叩いていた。
馬乗りになった神父が、首を絞めた。
「殺される」
・・・意識が遠のいていく。
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