3. 売られた花嫁(3)

「うつ伏せになって」

小声だが、きっぱりと男が命じた。

ベッドに登って腹ばいになると、

「お尻を高くして」

と今度はいった。

見られるのは覚悟していたが、ふたりの男に後ろから見られるのはつらかった。

だが、お金のためといい聞かせ、思い切りお尻を高く突き上げた。

「足を開いて」

命じられままに足を開くと、後ろでペンライトが光り、老人が何やらひんやりと冷たい金属のようなもので押し広げるのを感じた。


ジューン・ブライドの店長が正真正銘の処女と太鼓判を押したので、学生証のコピーを取らせ、携帯番号と住所と銀行口座を登録した。


「買い手がついた。今夜18時に来てほしい」

面接から三日目に、携帯にジューン・ブライドからショートメールがあった。

いつもいっしょの同級生の恵里佳に、

「悪いけど、今日のランチはひとりで食べて」

といって教室を飛び出し、大学の近くの銀行に走った。

校門を出たところで教授と鉢合わせをした。

教授は何か話しかけようとしたが、顔をそむけて脇をすり抜けた。

それまで尊敬していたが、就職を世話したことで前にも増してデートを強要するので、今ではただのいやらしい中年男にしか見えなかった。


ATMで口座をチェックすると、たしかに前金の200万円が振り込まれていた。

面接のとき、残金の400万円は事後三日以内に振り込むといっていた。

黒服のマネージャーが口にした「事後」という恐ろしいことばが、何も考えられずに空っぽになった脳の中でこだまのように響いていた。

その事後とやらには、じぶんはどうなっているのだろう。

とうとうお金で処女を売るなどというおぞましい行いに足を踏み入れてしまった。

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