番外編3 シュワちゃん様と繋がるとき

「それにしても不思議。私とノアの時間はまだ転移してから一年ちょっとしか経ってないのに、そっちでは八〇年近く経ってるなんて」


「確かに、驚きだわ」


 ステファニーと繋がったあの日から、オリビアはたまに彼女と通信し、連絡を取り合うようになった。彼女を愛称の「ステフ」と呼び、姉のように慕った。


 教会では確かに新たな魔法に目覚めていることは確認できたが、結局魔法の詳細はよくわからないままだった。またオリビアは魔力が少なく長時間の魔法保持が困難なため、ステファニーとの時間はわずかだったが、自分の知らない世界を垣間見ることができるこの時間はとても刺激的なものだった。


「ねえステフ。ところでこのハピ天てアプリは何かしら? 道具を買えるようなことが書いてあるのだけれど……」


「ああ、そうよ。お店に行かなくても買い物ができて、買ったものは家まで届けてもらえるの」


 オリビアはステファニーに教わりながらタブレットを使いこなし、彼女の世界の言葉も理解し始めていた。タブレットの中のアプリを操作して遊んだり、異界の知識を取り込んだりと楽しい毎日を送っている。


「すごいわ! 私も何か買えないかしら?」


「う〜ん。本当は異界のものをそっちに横流しするのはいただけないところだけど……。ほどほどにならいいんじゃない? アカウント作ってあげるね〜」


「やった! ありがとうステフ!」


 ステファニーとの約束で、ジュエリトスで生産が可能なもの限定で買い物を許されたオリビア。特定の魔法が必要だったりコストの問題で出回ってはいないが意外にもほとんどの品物がジュエリトスで生産可能とわかる。そこでオリビアは衣類や化粧品を仕入れ、兄がオープンさせた店で販売し成功を収めた。

 物の取引の量が増えたのでステファニーと協力し、異界との繋がりは引き出しから大きなクローゼットに変更し、さらに秘密を守るため隠し部屋を作った。


 領地運営も順調に進む中、オリビアはついに彼と出会う。


「あ、そうそう。映画を何本かダウンロードしといたよ〜。私明日からノアと旅行で連絡取れなくなるから、暇だったら見てみなよ」


「エイガってなに?」


 オリビアは初めて聞く単語に首を傾げた。


「ああ、そこからか〜。演劇とかもないものね。そうだ、吟遊詩人はわかる?」


「うん、それなら……」


「あれって物語や実際にあったことを人が歌うじゃない。こちらでの映画や演劇っていうのはそれを何人かで登場人物になりきってお話を一つの作品として残すものよ。だからもし誰かがケガしたり死んだりしてもそれはそう見せているだけだからね。安心して見てよ。オリビアが気に入りそうなの選んでおいたし!」


「ありがとう」


 翌日、オリビアはタブレットで映画を見ることにした。タブレットを操作してダウンロードされているいくつかの映画から、おすすめと言われていたタイトルを選ぶ。


「嘘でしょう……何この人すっごく素敵……」


 画面の中では、筋肉隆々の男性がカップルを惨殺していた。


 オリビアは彼の太くしっかりした首から肩、逞しい腕などにすっかり心を奪われる。

 完全に悪役のその男性が実は生身の人間役ではないとわかっても、途中の表皮がなくなってしまうシーンや最後の爆破され木っ端微塵になるシーンには涙した。


「どうしよう、死んじゃった……。戻ってくるって言ってたけど本当かしら?」


 オリビアはステファニーが旅行から戻ったのち、この映画に出演した悪役「シュワちゃん様」について質問責めにした。そしてその日から彼の出演作やSNSを追いかけ、最終的には魔力切れで寝込むこととなる。それでも懲りないオリビアは、筋肉が素晴らしい俳優を見つけてはうっとりと映画の世界に浸り、ついに屋敷で働く護衛達を肉体改造すべく動き出す。

 オリビアはハピ天で各種トレーニングマシーンやプロテインを購入し、護衛達の肉体改造に成功、さらにはマッチョカフェ開業に漕ぎ着けたのだ。


「ま、私にはよくわかんない趣味だけど……いつかオリビアにもマッチョな恋人ができるといいね!」


「ありがとうステフ。けれどジュエリトスでは難しいでしょうね。私も一応貴族の端くれだから結婚相手も貴族だろうし。結婚と筋肉は別。そう思って生きていくわ」


 結婚や恋愛に全く興味がなかったオリビアが理想の男性と婚約するのは、それから約三年後のお話。


終わり


さらっと番外編でした!

結婚と筋肉は別。

ただそう言わせたかっただけです(笑)

引き続き本編もよろしくお願いします☺️

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