第62話 レオンの事情
オリビアは自身の過去を語り、最後に魔法について話をまとめて締め括った。
「というわけです。魔力に限りがありますし、条件等はありますが……私は目に見えないもの、時空や空間を繋げる能力があります。ですがテレポート含め人間や生き物の移動はできません。これらはまだまだ実験中といったところですね」
現在、ジュエリトス国内には時空系の魔法が使える人間はいない。昔から高度で希少とされているため、ほぼおとぎ話のようなものだった。
先ほどから瞬きを繰り返し口を半開きにしているレオンとリアムの反応がいい例だ。オリビア自身も自分が使えなければ、ステファニーと話すことがなければ、そんな魔法は存在するわけがないと思っていただろう。
「だから、君はヘマタイト君と離れていながら話をしていたのか……」
レオンがポツリと呟く。どうやら彼には腑に落ちたことがあったようだ。
オリビアは気になることを口にした彼の顔を覗き込んだ。
「レオン殿下、今なんとおっしゃいましたか?」
「そうだ。ごめん、君たちにはもう一つ謝ることがあったんだ」
「それは一体?」
オリビアは首を傾げ問いかけた。すると、レオンが気まずそうに苦笑し当時のことを話し始めた。
「まず、僕の魔法は「記憶」だ。物を記録媒体にしたりできる。実は魔法のことを探ろうとして、オリビア嬢とヘマタイト君に渡したクラブ室の鍵に細工して会話を記録させてもらったんだ。そこで君たちが離れていながらまるで同じ場所にいるように会話をしていたことがわかってね……」
「なるほど……。それで殿下は私が時空系の魔法を使うと思ったのですか。どうりでしつこかったわけですね」
「けっこう言うね……。でもまあ、その通りだ。すまなかったよ」
レオンが口の端を引きつらせたが、彼は反論するのを諦めたようで息を吐き平謝りをした。オリビアはワガママ王子なレオンがしおらしくしている姿が面白くなり、ふふっと息を漏らしてからいじわるな笑みを返す。
「今さら些細なことですわ。おっしゃる通りジョージと話していたのは私の魔法です」
「そうか……。ちなみに、君は今もステファニーと連絡を取り合っているのか?」
「ええ、学院に入学してからはだいぶ減りましたが。私も忙しかったり、魔力が足りないこともありますから」
「オリビア嬢、折りいって頼みがある!」
突然、レオンがソファから立ち上がった。オリビアは圧倒され顎を引く。すると、目の前の彼はオリビアに向かって腰を直角に折り曲げ頭を下げた。
「レオン殿下、急にどうしたのですか?」
「僕のお祖父様にステファニー・クリスタルと話す機会をくれないか?」
「殿下の……お祖父様?」
「というと、現在ご存命のチャールズ・ダイヤモンド=ジュエリトス前国王陛下のことですね?」
「ああ、リアム。その通りだ」
オリビアはレオンを再びソファに座らせて、彼の事情を聞くことにした。隣に座るリアムも前国王の話が出てきたためか背筋を正し、神妙な面持ちでレオンの話を聞いている。
「僕のお祖父様は現在は病で床に伏している……ことになっている」
「ことになっている?」
歯切れの悪いレオンの言葉に、オリビアは違和感を覚えた。前国王はジュエリトス人の平均寿命七〇歳を上回る現在九七歳。高齢ということで彼は二〇年前に王太子だった現国王に王位を譲り引退したのだ。公務には参加しつつ、国政には一切口を出さなかったと噂されており、わざわざ病になったことにする理由がわからなかった。
そのオリビアの疑問については、辿々しい口調でレオンが答える。
「そう、確かに床に伏せているのだが、医師には原因がわからないと言われているんだ。僕は数年前にもう一人のお祖父様でマルズワルトの前国王ミハイルが亡くなったからだと思っている。彼らは親友だったからね。お祖父様は性格も気難しくなって、世話も僕を含む身内の数名にしかさせないんだ。それに、よく学生時代の話をするようになって……。話の最後に必ず、ステファニーとその恋人ノアの名を口にするんだ。どこへ行ったのか、会いたいと……」
「そうだったのですか……」
「そうなんだ。それで、もしステファニーとノアが生きてるとわかれば、お祖父様は元気を取り戻すのではないかと思って……。オリビア嬢、厚かましい願いとはわかっているけど……なんとかならないか? 頼む!」
「レオン殿下……」
オリビアは悩んだ。ステファニーから聞いた話では前国王との関係は良好でノアとの関係も容認していたらしいが、現在冷遇されているクリスタル家の状況的に彼女が異世界に転移した後になんらかの罰を受けることになったのは明白だった。この数十年で前国王にどのような気持ちの変化があったかもわからない。ステファニーのことが原因で、今後クリスタル家がさらに窮地に追い込まれるようなことがあったらと不安だった。
「もちろんお祖父様以外には内密にするし、君やクリスタル家に迷惑がかかるようなことは絶対にしない。どうか、僕のお祖父様を助けると思って……お願いだ」
「少し……お時間をいただけませんか? ステファニーにも相談してみます」
「オリビア嬢、ありがとう!」
オリビアの返事に、レオンが涙ぐみ、紫色の瞳を輝かせながら笑顔を浮かべた。感極まった彼はオリビアの手を取り何度も感謝の言葉を口にした。
「レオン殿下、いいお返事ができる約束はできませんから、そんなに喜ばれては困ります」
「いいんだ、前向きに検討してくれるだけで嬉しいよ。君はなんて優しいんだろう……感謝するよ、オリビア嬢」
「よかったですね、殿下。それではそろそろ……オリビア嬢の手を離していただけますか?」
オリビアの手を握り微笑むレオン。そこに今度はリアムの手が伸び、レオンの手をオリビアから引き離した。柔和な口調のわりに、手の力は少し強いとオリビアは彼から何とも言えない圧力を感じた。
同じく手を引き離されたレオンの方を見ると、彼もまたリアムに圧倒され慌てて手を引っ込めている。
「ああ、リアム、悪かったよっ」
「いいえ。わかっていただければいいですよ」
「リ、リアム様……」
にっこりと微笑みレオンにダメ押しをしてるリアムを見て、オリビアは少し恥ずかしくなり顔が熱を持った。周囲ではリタがキラキラと目を輝かせ、ジョージがニヤリと薄ら笑いを浮かべている。彼らの考えていることが手に取るようにわかり、オリビアは肩を丸めて俯いた。
「さて、僕の用件は済んだ。そろそろお暇するよ」
「レオン殿下、わざわざご足労いただき、ありがとうございました」
話が落ち着いたところで、レオンが立ち上がる。オリビアも慌てて立ち上がり、彼に一礼した。
「いや、僕の方こそ君たちに本当にひどいことをしてしまったのに、大切な秘密まで明かしてくれて……感謝しているよ。ありがとう。また学院で会おう」
「はい、また学院でお会いしましょう」
「リアムも……本当にありがとう。何か僕や王族の力が必要なときは遠慮なく言ってくれ」
「ありがとうございます、殿下」
それからオリビアはリアム達と一緒にレオンを見送り、再び自分の部屋に戻った。
「リアム様、実は私リアム様には他にもお話があったのです」
「私に……話?」
リアムの返事に、オリビアはにっこりと微笑んで頷いた。
>>続く
ここまで読んでいただきありがとうございます!
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