第61話 ステファニー・クリスタル

『※※! ※※※※※※※※※※!!』


「な、なに?」


 音楽のかわりに急に誰かの声が聞こえた。何を言っているかは全くわからず、外国語のようだった。オリビアはジュエリトス語の他に隣国マルズワルト語が話せるがそのどちらでもない。


『ん? 今の、ジュエリトス語? あなた誰?』


「あ、あなたこそ……どちら様でしょうか?」


 声の主は女性でジュエリトス語を話し始めた。オリビアは警戒し名乗らず相手の反応を確かめることにして返事を待った。


『知らない人に急に名乗れるわけないでしょう? それよりあなたの手元にあるタブレット、私のなんだから。返してくれない?』


「タブレット? これはタブレットというのですか?」


『え、あなたタブレットを知らないの?』


「ええ、知りません。初めて見ました。それに、返せと言われても、勝手に私の引き出しに入っていたのでどう返せばいいのか……」


『勝手に? まさか……』


 女性の声色から困惑しているのがわかった。どうやらこのタブレットなるものがオリビアの手元にあるのは、彼女にとっても想定外のことなのだろう。


『ええと、あなた、これから私の言うとおりにタブレットを操作してくれる?』


「操作……?」


 オリビアは彼女の言葉に一瞬警戒したが、その声色に悪意は感じられなかったので言われるままタブレットを操作した。すると、手元の画面には小さな絵が何枚も並び、その中には見たことがある絵もあった。そして、彼女に指定された絵に触れると、それが画面いっぱいに広がった。


「これは……」


 画面の絵は、他の絵と比べて鮮明ではなかった。けれど何かはわかる。他でもないオリビア自身が描かれていた。服装から、先日ジョージがこのタブレットを触っていた日のものとも判断ができた。


『ねえ、それ……もしかして、あなたなの?』


「…………」


 彼女からの問いかけに、オリビアは返事をしていいものか悩んだ。国内で銀髪の人間はほんのわずかで、オリビアの世代にはいなかった。これだけで自分がオリビア・クリスタルだと知られてしまう可能性が高かった。


 しかし、なぜだかすぐに否定はできなかった。オリビアは彼女を警戒しつつも、不思議と嫌な雰囲気や危険を全く感じず、むしろどこか懐かしさや心地よさを感じていたからだ。


『無言は肯定とみなすわよ。まあ警戒するのは無理ないか……。質問を変えるわ。あなた、クリスタル家に親戚がいたりしない?』


「え? どうしてクリスタル家を……。あなたはジュエリトスの方ですか?」


『うーん。そうだけど、今は違うわ。昔ジュエリトスに住んでいたの。ステファニー・クリスタルって、けっこうな有名人だと思うけど知らない?』


「は? 私はクリスタルの人間ですけど、ステファニーなんて名前聞いたこともありませんわ」


『はあ? 嘘でしょう?』


 オリビアは驚き、眉を釣り上げた。ステファニー・クリスタルという名に全く心当たりがなかった。そして相手もオリビアの返事が予想外だったのか、返事をする声が裏返っている。


「いえ、私は本当に知りませんが……」


『クリスタルを……いいえ、ジュエリトス人を名乗って私を知らないなんておかしいわ。あなた本当にジュエリトス人? クリスタル家の人間? 私も名乗ったのだから、自分と親兄弟の名前を言ってみてくれない?』


 オリビアは彼女のふてぶてしい口調と自分を疑うような言葉に腹を立てた。語気を強めて言葉を返す。


「私の名はオリビア。正真正銘ジュエリトスのクリスタル伯爵家長女ですわ。兄の名はエリオット、父はジョセフ、母はキャサリンよ!」


『全員知らないし。しかもクリスタル伯爵家? クリスタルは公爵家よ。あなたやっぱり偽物ね!』


「はあ? そんなこと言うならあなたの方が怪しいでしょう? そっちこそ、親兄弟の名前を言ってみなさいよ!」


『失礼ね……いいわ、教えてあげる! 私はステファニー。クリスタル公爵家の長女よ。父はエドワード、母はクロエ、兄はイーサン。ついでに兄の奥さんはエマ、甥っ子はルーカスとハリソンよっ!!』


 売り言葉に買い言葉で白熱していたオリビアは、彼女の言葉に目を見開いた。知っている人間の名前が出てきたからだ。


「ルーカスは……私のお祖父様の名前だわ」


『え? ルーカスが……?』


「それに……ハリソンはお祖父様の弟で、私の大叔父にあたる人よ」


『あなたが……ルーカスの孫?』


 わけがわからなかった。オリビアは言葉を失い、状況を理解しようとその場で必死に考えたが混乱するばかりだった。自分の知らない情報が多すぎる。すると、先に彼女が話を始めた。


『ねえ、あなた……オリビア。今はジュエリトス新暦何年?』


「一〇七七年ですけど……」


『うそ! あれから八〇年近く経ってる! じゃあオリビアは本当にルーカスの孫なのね!』


「そうですけど……あ! そういえば、お祖父様は昔、叔母と私が似ていると言っていたわ」


『それ、私のことよ!』


 それからオリビアはステファニーに彼女が前国王と婚約破棄し、恋人ノアと異世界にいることやその経緯を聞いた。到底信じ難くはあったが、父がなんとなく社交界で肩身が狭そうにしていたので納得できた。


「なるほど。いろいろ理解ができましたわ」


『そっか〜。だからあなたも時空系の魔法が使えるのね。すごいじゃない!』


「いいえ、私は母譲りの契約魔法が使えるだけですが……」


『いやいや、タブレットがそっちにあるのも、今こうして話ができているのも、私の魔法じゃないわ。あなたのはず。まあ、二つ以上の魔法に目覚める人間もいるから、一度教会で確認してみるといいわ』


「はあ……」


 こうして、オリビアは第二の魔法に目覚め、以後ステファニーや異世界と繋がり領地の発展に貢献することとなった。


>>続く


ここまで読んでいただきありがとうございます!

ついに登場ステファニーさんでした。

応援、コメントなどいただけたら嬉しいです✨

引き続きよろしくお願いします🎶

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