第59話 契約締結!
「ジョージ、アレを持ってきてくれる?」
「はい、かしこまりました」
同席していたジョージはオリビアの机から紙と万年筆、ナイフを手に取ってオリビアに差し出した。それを受け取り、オリビアはレオンとリアムに一枚ずつ紙を手渡す。
「オリビア嬢、これは……」
「契約書?」
受け取ったふたりは内容に目を通しながら首を傾げた。オリビアは困惑する彼らを見て無理はないと思いつつ、説明を始める。
「申し訳ありません。私の魔法ですが……気軽に明かせるものではないのです。なので魔法について話す際は秘密を守るための契約をしています。おふたりとも内容を確認し、サインと母印をお願いしますわ」
「「ああ……」 」
レオンとリアムが真剣な目で契約書を読み、万年筆を手に取った。順番にサラサラと自分の名を書き、ナイフで親指を切って名前の隣に押しつける。
「殿下、切った指をお出しください。私の魔法で回復します」
「リアム……ありがとう」
リアムがレオンの手を取り魔法で切った指を治癒させる。続いて彼は自分の指も同様に治した。
「オリビア嬢、私たちの準備はできた。契約書を受け取ってくれ」
「ありがとうございます」
オリビアはふたりから差し出された契約書を受け取りテーブルに並べて置き、その上に自分の手を置いた。そして、目を閉じ魔力を流しながら契約の呪文を唱える。
「契約を司る始祖、カエデ・オニキスよ、その力を其方の末裔である我に与えたまえ……」
契約書から、まばゆい光が放たれる。周りの人間が目を瞑っている中、オリビアはそれに耐えながら契約の呪文を唱え続けた。
「我、オリビア・クリスタルは、リアム・アレキサンドライト、レオン・ダイヤモンド=ジュエリトスと書に記されし血の契約を交わす。始祖よ、この契約と我らの魂を繋ぎ、命が尽きるまで守り続けよ、
「うっ……!」
「これは……?」
一瞬、突風が吹き光とともに収まる。レオンとリアムはそれぞれ手元を見て顔をしかめたり首を傾げていた。オリビアは彼らに優しい口調で語りかける。
「お話しし忘れていましたが、契約の証として体に契約紋が刻まれます。すぐに消えますからご安心を」
契約紋が刻まれた手を見ていたレオンとリアムが、紋が消えるのを見ながら瞬きをしていた。オリビアはその様子を見ながら、この先の話では彼らはきっと困惑してしまうだろうと苦笑いを浮かべた。
「オリビア嬢、君は契約魔法が使えるのか?」
「驚いたよ……」
「ええ、母が契約魔法に強いオニキス家出身ですからその血が濃く出ているようです。ですが、私がお話ししたいのは、もう一つの魔法の話なのです」
「「もうひとつ?」」
首を傾けるレオンとリアムに、オリビアは黙って頷いた。
「はい。私には使える魔法がもう一つあるのです。それは……「繋ぐ」です」
「「繋ぐ?」」
先ほどと同じように首を傾げるふたりを見て、オリビアは息を漏らした。
「ふふっ……。おふたりとも、息ぴったりですわね。少し長くなりますが、昔話をさせてください」
赤面するレオンとリアムに笑いかけながら、オリビアは遠くを見つめ、自分の魔法を自覚した当時のことを思い出していた。
◇◆◇◆
三年前。
クリスタル伯爵家の長女として生まれたオリビアは、領地のために経営の勉強をする一方で、なるべく良い家に嫁げるよう女性の作法を学ぶなど、貴族の子女としての義務を全うするための毎日を送っていた。
「マナーの稽古は退屈だったわ……。こんなことなら経営に没頭できるよう、私もお兄様みたいに男性に生まれたかった」
「オリビア様、そんなこと言わないでください。私はオリビア様が見目麗しい男性と素敵な結婚をするのを見届けるのが夢なんですから!」
「はいはい、善処するわ」
孤児院からクリスタル家に雇われることになったリタとのやりとりはお約束になっていた。
「じゃあ俺がいつか全世界の女の子たちに惜しまれつつ、絶世の美女と結婚するのも見届けてくれよ」
「気持ち悪い冗談を言うな、ジョージ」
すでに護衛として働いていたジョージが軽口を叩くのも、リタがそれに過剰反応するのもオリビアの日常だった。
「ジョージ、本当にそんなことになったら、盛大にお祝いしてあげるわよ。で、なんの用事かしら?」
「約束ですからね、お嬢様。今日は郵便を出す日ですよ。出し忘れはないですか?」
「ああ、そうだ、お兄様に書いた手紙を出したいわ。ちょっと待ってね……」
オリビアは返事をしながら机の引き出しを開け、兄への手紙を探す。当時兄のエリオットは王都の学院に通っており、領地にいなかったため手紙で連絡を取り合っていたからだ。
「……ん? これ、なにかしら?」
書類や手紙ばかりの引き出しの中に、違和感を感じる。何か、別なものが入っている。オリビアは不思議に思いそれを掴み取り出した。
「これ、なにかしら?」
「お嬢様、なんすかそれ?」
「オリビア様、どうされましたか?」
オリビアの手にはピンク色の棒のようなものがあった。先端は金属でできており尖っている。見たこともない何かに、ジョーとリタも寄ってきて首を傾げた。
「こんなもの、見たことがないわ。万年筆に似ている気がするけど……なんか先端もちょっと黒いし、インクっぽくない?」
「あ、オリビア様! 触ってはいけません!」
オリビアは金属の先端の黒い部分に人差し指で触れる。リタが止めようとしたが間に合わず、オリビアは指の先がひんやりと濡れるのを感じた。
「これ……インク?」
指の先には、黒い点がついていた。親指で擦るとのびる。まるで万年筆のインクだと思った。オリビアはそのままピンク色の物体を万年筆のように持ち、近くにあったメモに文字を書いてみた。
「やっぱり。これ、万年筆よ! 見てみて!」
書いた文字をジョージとリタに見せる。彼らはメモをまじまじと見て「本当だ……」と呟く。
「ちょ〜っと貸してくださいね。……なるほど、確かに万年筆みたいだ。なんか書いてる。「チョウチョウ05?」意味わかんないっすね」
オリビアから万年筆もどきを受け取ったジョージが書いている文字を読んだ。他にも文字のようなものが書いていたが、かろうじて読めるのがそれだけだった。再び受け取ったオリビアにも、文字からはそれ以上の情報を得ることはできなかった。
「このピンク色の部分……何でできているのかしら? 見たこともない素材だわ。あ、ここ、なんか押せそう……!」
オリビアが万年筆もどきの上部を押してみると、先端の金属部分が消えてしまった。驚いて消えた先端部を覗いてみると、金属部分が引っ込んでいるのが見える。オリビアはもう一度先ほどの上部のスイッチを押してみた。
「出てきた。……そっか! これ、すごいわ!」
再び出てきた金属部分を見て、オリビアは満面の笑みを浮かべた。驚いているリタとジョージに説明を始める。
「これ、持ち運びができる万年筆なんだわ! ほら、こうしてスイッチを押すと先端が隠れてインクがつかない。使うときはまたスイッチを押せば先端が出てきてすぐ書けるってことよ……。すごい! ニュー万年筆!」
「確かに……、すごいっすね」
「ですがオリビア様……一体どうしてオリビア様の机に?」
興奮して何度も試し書きをしながら話すオリビアに、ジョージとリタは困惑の表情を浮かべていた。確かにそうだ、出どころがわからないのだ。
しかし、オリビアにとっては些細なことだった。
「きっとお兄様よ。これは王都で売ってる最新型の万年筆に違いないわ。前回の手紙に入っていたのに私が気づかなかったのね。手紙にお礼も付け加えなくちゃ!」
「そうなんすかね……?」
「確かに、ここは王都からは遠いですから、流行りも少し遅れますけど……」
持ち前の頭の回転の速さから一番現実的な答えを導き出したオリビアは、怪訝そうに眉を寄せる従者たちを丸め込み、機嫌良く兄に返事を書いた。
しかし、二週間後、自分の考えが間違っていたことを知る。
>>続く
ここまで読んでいただきありがとうございます!
ちょろっと過去編です。
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