第57話 オリビアVSレオン最終決戦〜終結〜

「お前は、リアム・アレキサンドライトなのか?」


 オリビアの背後からレオンの声が聞こえる。すっかり変わったリアムの外見に、その声色は畏怖が込められているようだった。


「はい。驚かせてしまい申し訳ございません。これは私の魔法の影響ですが、詳しくは後ほどご説明いたします。今は時間がありません、まずはこれを着てください。オリビア嬢も……」


 リアムがオリビアを一旦身体から離しローブを差し出した。レオンとそれぞれ受け取り、身に纏う。


「耐火のローブです。フードもかぶってください。それから私が抱えたら身を縮めて頭を手で守ってください」


「わかった」


「はい!」


 オリビアはリアムに胴体を抱えられ、身体が宙に浮き腹部に圧迫感を感じた。体に力を入れて言われた通りに身を縮め、両手で頭を覆う。


「それでは、これからこのまま外に飛び降りて脱出します。おふたりのことはしっかり抱えて離しませんので、この体勢を崩さないよう体に力を入れてください。行きますよ!」


 リアムの掛け声とともに体が後ろに引っ張られるような感覚に陥る。彼が窓に向かって駆け出したのだ。オリビアはぎゅっと目を閉じた。体が浮き空に取り残されるような落下の感覚に襲われる。そして、鈍い衝撃で全身が一瞬痺れたあとに腹部の圧迫感が緩み、地に足がついた。


「殿下っ!!」


「お嬢様っ!!」


「オリビア様っ!!」


 オリビアが目を開けると、そこには心配そうに眉を寄せているジョージとリタが待っていた。リタは目に涙を浮かべて抱きつき、震える声で主人の名を呼んでいる。


「オリビア様、ご無事でよかった……」


「リタ、心配させてごめんなさい。ジョージも」


「ホント、勘弁してくださいよ……」


 リタとは反対側からジョージにも抱きしめられる。オリビアはふたりの腰に手を回し安堵の涙を流した。


 クラブ棟は今もなお燃え盛っていた。このまま全焼する勢いで、リアムが来なければ自分の命はなかったと心の底から彼に感謝した。


「レオン殿下も大丈夫そうね」


 それから護衛たちの肩越しにレオンを見る。担任や医者と思われる人間たちが彼を囲んでいた。そのうちのひとりに護衛のハリーがおり、彼の頭に包帯が巻いてあったのが気になった。さらにもうひとりの護衛オリバーの姿はない。


「オリバーは行方不明みたいっす。詳しくはここを離れてから話しましょう」


「わかったわ」


 ジョージの耳打ちにオリビアは小さく頷いた。そこへ、魔法を解いたリアムがやってくる。


「オリビア嬢!」


「リアム様、助けていただいてありがとうございました」


 オリビアが一歩前に出て礼をするとその身体はリアムに抱きしめられた。先ほどより顔の距離が近く、服越しの体温もより温かく感じる。


「間に合ってよかった。君からの知らせが届いてクラブ棟に着いたとき、もう火の手が最上階まで回っていたから……」


「きっと来てくださると思っておりましたが、本当は不安でたまらなかったんです。もう一度、リアム様にお会いできてよかったです」


 身体を離しリアムを見上げて微笑む。これで本当に助かったと実感ができた。その途端に、手のひらに激痛が走りオリビアは顔を歪めた。


「オリビア嬢、どうした……。この手、火傷か? すぐに治そう」


 リアムがオリビアの火傷に手をかざした。彼の回復魔法でみるみるうちに火傷は消え、痛みも感じなくなる。


「もう痛くはないか?」


「はい、平気です。ありがとうございます!」


 オリビアは再びリアムと顔を見合わせてにっこりと微笑んだ。


「オリビア嬢……」


「レオン殿下」


 背後から自分を呼ぶ声が聞こえ、オリビアは振り向いた。そこにはレオンが立っている。自慢の金髪も白く美しい肌もずいぶんと煤けており、いつもと同じなのは高貴な輝きを放つ紫色の瞳だけだった。


「こんなことになって申し訳なかった。君が生きていて……本当によかった」


「お互い、助かってよかったですわね。全てリアム様のおかげですわ」


「そうか……」


 レオンがとった行動に、オリビアは驚いた。そばにいるリアムも同じく驚いた様子で目を見開いている。目の前のレオンが深々と腰を折りリアムに頭を下げたからだ。


「レオン殿下、どうか顔を上げてください! こんなところで王子が軽々しく頭を下げてはいけません」


「軽々しくなんかないよ。僕はリアムがいなかったら自分だけでなくオリビア嬢の命も奪うところだった。助けてくれてありがとう。それから……助けてくれたときに知らなかったとはいえ失礼なことを言った。申し訳ない」


「そんなこと……お気になさらないでください。それに殿下は私が助けに入ったとき、オリビア嬢を守ろうとしていましたね。彼女は私の大切な人です。こちらこそありがとうございます」


「リアム……」


 リアムがレオンに優しい笑顔を向けている。顔を上げたレオンが一瞬ためらうような何か言いたげな視線を送ってきたので、オリビアは静かに首を振った。きっと彼は罪悪感から事実をリアムに話したかったのだろうが、わざわざ知らせる必要のないこともあると思ったからだ。


「さあ、念のため医者に診てもらった方がいい。一旦ここを離れましょう」


「わ、私は平気です! リアム様こそ医者に……」


 リアムに肩を支えられ、促されるように歩き始めたオリビア。すると、野次馬していた生徒や避難した生徒たちの人だかりから、大きな叫び声が聞こえた。


「フレディ! フレディー!! いやああっ!!」


「マリーもいないわ! うわあああっ」


 女子生徒が泣いている。オリビアはその生徒たちに見覚えがあった。


「ソフィーさん、マイラさん?」


「「ああ、オリビアさん!」」


 オリビアにとってクラスメイトのふたりは声に反応しこちらに気づくと泣きながら駆け寄ってきた。彼女たちに寄り添い、様子をうかがう。


「そんなに泣き腫らしてどうしたのですか? 」


「実は、私たちのクラブで飼育していた動物たちが……っ」


 オリビアは泣きじゃくりながら話す彼女たちの説明を聞いた。ふたりが動物の飼育クラブをしていたのは知っていた。火災が発生した際にソフィーとマイラは必死に外に動物たちを連れ出したが間に合わずに、二階のクラブ室に動物が残ったままだという。飼育していた動物の名を呼び、今にも炎の中に飛び込んでいきそうな勢いだ。


 しかし、すでに最上階の三階まで火の手が周り、窓は割れ各部屋から黒煙と炎が吹き出している。動物たちは残念ながら生きてはいないだろうとオリビアは思った。


「全部僕のせいだ……。申し訳ない」


「……え?」


「殿下……?」


 レオンが泣きじゃくるソフィーとマイラの前に立ち、リアムのときと同様に頭を下げて謝罪の言葉を口にした。謝られたふたりはわけがわからず目を丸くして反応に困っているようだった。


 その後、建物倒壊の恐れがあるとしてさらに遠くに避難することになったオリビアたちは、王族担当の騎士団員に連れられたレオンと別れ、他の生徒たちやリアムとともに学院の敷地の外へ出ていく。


 クラブ棟の方からは、大掛かりな工事でも聞かないような大きな音が響き渡り、砂混じりの熱風が吹いていた。



>>続く



ここまで読んでいただきありがとうございます☺️


ここで一旦クラブ棟炎上事件は解決です!

次回から新章にて事件の事後やオリビアの魔法のお話となります🎶


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引き続きよろしくお願いします(^^)/

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